<構築>人類学入門

第21回 援助1

2011.03.25更新

ぼくらと世界との関わりを知るために、「国家」と「市場」について考えてきた。
とても大きなテーマなので、まだ手にした材料は乏しい。
まったく別の角度から考察を続けよう。

エチオピアは、世界でも「最貧国」といわれる国のひとつ。
GDP(国内総生産)は323億ドル(2008-09)で、日本のわずか0.6%。

先進国から提供される政府開発援助は、一年間で38億ドル以上に達する(2009年)。
これはエチオピアのGDPの1割、国家予算の7割を超える額だ。

長年、エチオピアに関わっていると、政府や国連がだす緊急援助のアピールは、毎年の恒例行事のような感覚すらある。

2008年、エチオピアの南東部を中心に洪水と旱魃の被害がでた。
当初、エチオピア政府は「460万人が被害を受けている」と発表した。
その後、国連は「800万人が緊急の援助食糧を必要としている」と発表。
10月に出された正式アピールでは「640万人に27万トンの食糧が必要」とされた。
この年、アメリカは80万トンの食糧を提供、国際社会からの緊急援助は10億ドルに上った。

2009年には、エチオピア北部や南東部などが不安定な降雨による不作になった。
10月に政府が「620万人が食糧不足」と発表し、世界食糧計画(WFP)は「1000万人が食糧不足」とアピールを出した・・・。

こんな感じで、毎年、きまって食糧不足と援助のことが話題にのぼる。
雨が降らなければ干ばつになり、雨が降ったら降ったで、洪水の被害がでる。

じっさいに現地で何が起きているのか。
自分の目で確かめようと思い、2009年11月、エチオピア北部の農村を訪ね歩いてみた。
ひさしぶりにローカル・バスを乗り継ぎながらの旅になった。

たしかに雨の降りはじめが遅れるなどして、不作になっている地域もあった。
ただ、ひとつの作物がだめでも、そのあと種を蒔いた作物が実っているケースも多い。
飢えでばたばたと人が倒れるような状態は、どこにもない。
場所によっては、青々とした麦やモロコシがきれいに穂をつけている。

食糧不足はないとか、援助は必要ない、と言いたいわけではない。
じつのところ、それはまだよくわからない。

「援助」をとりあげたのは、そこに「国家」や「市場」を考える手がかりがあるからだ。

穀物や食用油などの現物を人びとに配布する食糧援助。
近年では、世界の食糧援助の6割以上が、サハラ以南のアフリカ諸国に提供されている。
なかでもエチオピアは世界第2位の援助受け入れ国で、アフリカでも群を抜いている。

そして、この世界の食糧援助の大半をアメリカ一国で拠出している。
さすが世界の超大国、太っ腹・・・。というわけでもない。

アメリカには、国内農業を保護するための価格維持政策がある。
豊作などで市場価格が低迷すれば、政府が買いとって価格を支える。
買いとり量が増えれば、それだけ備蓄のコストが高まる。
かといって、それを市場に流せば、価格が下落してしまう。

そこで「食糧援助」が使われるのだ。
許容量を超える余剰穀物は、船に積まれ、緊急援助を求めるアフリカ諸国に運ばれる。
そして、「貧困」や「食糧不足」に苦しむとされる地域で住民に配られる。

市場を支えるために、市場外の取引である「援助」がつくられ、同時に援助を与える理由となる「貧困」や「食糧不足」が探しだされる。

かならずしも貧困があるから、食糧援助がなされているとは限らない。
それは、食糧不足の有無にかかわらず、穀物価格が高騰すれば、アメリカの援助拠出量が減ることからもわかる(小麦価格が急騰した2005年以降、援助量は半減した)。

ここでも国家と市場の奇妙な依存関係が透けてみえる。
政府にとって農業関係者は大きな票田となる。
農産物の市場価格を維持し、その支持をえることで、政権の安定を図る。
本来なら天候や収量によって価格が上下する市場も安定を保てる。

「価格」だけではない。
市場では、基本的に、買いたいと思う相手のところにしかモノが届かない。
他のもので満足している人に買ってもらうには、消費意欲を刺激しないといけない。
この市場開拓のためにも食糧援助は使われてきた。
戦後の日本でパン食の普及にアメリカからの小麦の援助が一役買ったのがいい例だ。

国家、市場、援助。
いっけん関係なさそうなところに、絡まった何かがある。
もう少し解きほぐしていこう。

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

松村圭一郎(まつむら・けいいちろう)

1975年、熊本生まれ。立教大学社会学部・准教授。エチオピアやザンビアなどアフリカの農村部を中心にフィールドワークを続ける。富の所有や分配、貧困や開発援助の問題などを研究。主著に『所有と分配の人類学』(世界思想社、2008)、『基本の30冊 文化人類学』(人文書院、2011)。
KYOTO的では、28回にわたって「エチオピア的」を連載した。

エチオピア的

バックナンバー