<構築>人類学入門

第22回 援助2

2011.04.22更新

未曾有の災害で、社会/世界のいろんなものが壊れてしまった気がする。
でも、「壊れた」のではなく、隠れていた何かが顔をのぞかせたのだと思う。
人間について考える学問に意味があるとしたら、ぼくらのありふれた日常を支え、可能にしている未知の構造に光をあてること。そこから世界の見方を揺さぶり、それぞれの世界への関わり方を変える契機をつくりだすこと。
その可能性を信じて、歩みを進めよう。

前回、エチオピアへの食糧援助のことを書いた。
毎年、大量の食糧が「貧困」とされる地域に届く。
その背後には、援助を提供するアメリカなど穀物生産国の事情も関わっていた。
しかし、どんな事情であれ、外国の穀物や豆、食用油などが農民たちの手に渡る。

アメリカから送られた穀物袋や食用油の缶には、星条旗の大きなプリントとともに"FROM THE AMERICAN PEOPLE"の文字が記されている。
そして「売却や交換は禁止」とも書かれている。

なぜ売却/交換してはいけないのか?

ひとつには、現地への悪影響を最小限にするため。
大量の援助穀物がローカル市場に流れれば、穀物価格が暴落してしまう。
タダでもらった穀物が安値で売られたら、苦労して畑を耕すのは割にあわなくなる。

そして、もうひとつの理由は、先進国からの援助が「贈与」だから。
以前、「経済」の回でバレンタインを例に、チョコをもらったときにその代金を払おうとしたら、たいへんな侮辱になる、と書いた。
贈物は、贈物として受けとらなければならない。
商品を扱うようにお金を支払ったり、すぐに転売したりしてはいけない。

だから、ご丁寧にすべての食糧に「売却禁止」と書かれるのだ(ふつうプレゼントに「売ってはダメ!」なんて書かないけれど、そうやって何とかそのモノを「贈物」にしているのだ)。

ところが残念なことに、エチオピアのほとんどの農民は英語を読めない。
田舎で聞いてみたら、星条旗がアメリカの国旗であることすら知らなかった。
多くの人は、エチオピア政府が食糧を配っていると考えているようだった。

そして、定期市には、配布された穀物や食用油がずらりと並ぶ。
どこの市場にいっても、星条旗のついた袋のまま積まれていたりする。
カメラを向けても、悪びれることもなく、にっこり笑ってくれる。
新年の前などは現金が必要になるので、「いまは(援助の)食用油がよく市場に出る季節だ」なんて言葉を耳にする。

ここには、また奇妙な「ねじれ」がある。
穀物の価格を維持するために先進国で市場の外に出されて「贈物(非商品)」になった穀物が、援助されたアフリカで再び市場に戻って「商品」となる。

アメリカ国民の善意から寄贈されたことになっている食糧が、現地では誰がどんな意図で配っているのか、まったく違うふうに理解され、まるで違った扱いを受ける。

援助配布の現場を観察していると、村長が人びとからお金を受けとって何やら紙に記録している。
聞くと、村人から税金を集めているのだという。
税金をきちんと納めた者だけが、援助食糧を受けとれるのだ。
みんな政府が食糧を配っていると考えるのも、無理はない。
そして地域の集会では、食糧配布が政権与党の実績として語られる。

アメリカの国内農業保護や外交戦略的な思惑も、援助相手のエチオピアでは国内の政治的な意味合いに塗り替えられる。

「食糧援助」からは、いろんな隠れた「絡まり」がみえてくる。
市場での「商品」の取引は非人間的な行為で、その対極に「贈物」のやりとりという心温まる情に満ちた振る舞いがある、と単純に分けることはできない。

市場と非市場が裏でつながり、モノは「贈物」と「商品」のあいだを行き来する。
こうしたモノの連続的な動きのなかに仮の区切りを入れ、それにそったルールを守ることで、ぼくらは「市場」という世界や「贈与」の世界を創出しているのだ。

これは、次のような世界の成り立ちを意味する。
世界は、最初から何かの「かたち」をもってできあがっているのではない。
ぼくらがいろんなモノを動かし、その扱い方を変えることで、構築している。

「市場」の取引の先に「贈与」の世界を創り出すこともできる。
「国家」の分配の背後に、「市場」の論理が連結することもある。

市場と国家のはざまに生まれた食糧援助という奇妙な贈与。
その奇妙さから何がわかるのか。
そこから、どんな行為/世界を構想すればよいのか。
次回も続けよう。

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松村圭一郎(まつむら・けいいちろう)

1975年、熊本生まれ。立教大学社会学部・准教授。エチオピアやザンビアなどアフリカの農村部を中心にフィールドワークを続ける。富の所有や分配、貧困や開発援助の問題などを研究。主著に『所有と分配の人類学』(世界思想社、2008)、『基本の30冊 文化人類学』(人文書院、2011)。
KYOTO的では、28回にわたって「エチオピア的」を連載した。

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