古代文字で写経

サンスクリット語で般若心経 第4回

2014.04.26更新

まずは「シューニャ」を!

 実は、来週の中ほどに増刊号を出す予定(予定!確定ではない)なので今回はさらっといきます。また、前回にお約束した、観自在菩薩の前につく「聖なる」の話は次週にします。

 さてさて、今回も冒頭部分の続きです。

 今回は『般若心経』でもっとも大事な言葉のひとつが出てきます。

「シューニャ」です。大事なので赤でもう一度書きます。「シューニャ」!

 まずは何はともあれ、この「シューニャ」を5回続けて声に出して唱えてみましょう。はい、どうぞ!

「シューニャ」・「シューニャ」・「シューニャ」・「シューニャ」・「シューニャ」

 ちゃんと唱えましたか。はい、よろしい。

 さて、この「シューニャ」。意味は「空(くう)」です。

『般若心経』のテーマは「空」です。私たち日本人は「空」という言葉をなんとなく知っているつもりでいますが、実は「空」をここまで有名にしたのも、この『般若心経』なのです。

 さて、では「シューニャ(空)」という語をおさえておいて、今回の分を紹介しましょう。


今回の本文

第4回

 おお! 前回に比べて今回は少ないですね。


新しい文字

 なんと今回は新しい文字は、ひとつもありません。


母音記号

 新しい文字はありませんが、新しい母音記号「ū」が登場しました。
第4回


結合文字

 結合文字はまたまたいろいろあります。これまた面倒なものが多いのですが、写経なので、あまり細かいことは気にしないことにしましょう。

第4回

※「śca」は書き順を悩みそうなので、これだけ紹介しておきますね。

第4回


単語

 単語の紹介をしましょう。

第4回

●ヴィャヴァローカヤティ(vyavalokayati)
最初の単語の「ヴィャヴァローカヤティ(vyavalokayati)」ですが、実はもうほとんど知っている単語です。

「え~、ウソだ。全然、知らない!」という方、また色をつけてみましょう。

vyavalokayati

 青の部分と赤の部分の「アヴァロク」、どこかで見たこと、ありませんか。赤は語根(ルート)で、観音様で出てきた「√lok(見る)」。そして、その前につく「アヴァ(ava)」も観音様で出てきました。「ava+√lok(見る)=遥か遠くを見渡す」です。

 で、その前に「vy(←vi)」がつき、最後に「ayati(aya+ati)」がついていて、これで「照見する、明らかに見る」という意味になります(ここら辺の文法的な説明は省略)。

●スマ(sma)
「ヴィャヴァローカヤティ(vyavalokayati)」のあとに付く「スマ(sma)」ですが、これがつくと過去形になります。ですから「照見した、明らかに見た」という意味になります。

●パンチャ・スカンダ(paṃca skaṃdha←skandha)

パンチャは数字の「5」です。スカンダは「集まり」という意味。パンチャ・スカンダで「5つの集まり」。仏教的な用語でいえば「五蘊(ごうん)」になります。

「人間って何だろう」と考えたときに、おシャカさまは「その構成要素を大きく5つに分類できるんじゃないか」と考えました。

 それが「五蘊」であり、そして『般若心経』のこのあとに出てくる「色:物質現象」、「受:感覚」、「想:表象」、「行:意志」、「識:知識」(以上、訳は岩波文庫)です。

 これ、もうちょっとわかりやすく、かつ大雑把に説明すると、人間にはまず「肉体」があるでしょ。これが「色」。でも、肉体があるだけではなく、内面の働きもあります。

 そのひとつが感覚。肉体には、さまざまな感覚器官がついてて、何かがその感覚器官に触れる「感じる(受)」。

 すると感じただけではなく「あ、これはカレーだ」なんていう、「表象(想)」が生じます。すると「おお、もっと食いたい」とかいう「意志(行)」が起こる。ここら辺が内面の働きです。

 で、五蘊の最後の「識」は、「知識」と訳されていますが「認識」でもいい。肉体という外面と、さまざまな内面を結ぶ「あわい」の働きをする、それが「識」です。

 で、この5つのものが仮に集まって存在しているのが人間だ、とそう考えたのです。

 ちなみに、この「パンチャ・スカンダ(五蘊)」が「照見」の目的語。観音様は「五蘊というものが存在しているということを見極めた」のです。

●ターンシュチャ(tāṃśca)
 これは「tān(それらを)」と「ca(そして)」がくっついた言葉。「そして、それら(五蘊)を」という意味です。

 これ、漢訳にはありませんね。これがあると「五蘊は存在するということを見極めた」と言っておいて、それから「そして、それら(五蘊)を」と次の文に続くということが明確になります。

 漢訳ですと「五蘊は空なんだよ」と言い切っているように聞こえますが、サンスクリット語では最初に「五蘊というものは、ちゃんと存在するよ。でもね・・・」となっています。

●スヴァバーヴァ・シューニャ(svabhāva śūnya)
 あとの語、「シューニャ」は「空」であるということは最初にお話しました。「空」とは何かということをお話していくと、それこそ際限がなくなりますし、仏教哲学の専門家でもない者のすべきことではないと思うので、ここでは軽く「実体がない」とか「なにもない状態」という程度でスルーしますね。

 さて、サンスクリット語の『般若心経』で注目すべきは、その前の単語「スヴァバーヴァ」です。

 スヴァバーヴァなんて『千と千尋』に出てきそうな名前ですが、これは名前ではなく「本来の性質」という意味。

 前の文で「五蘊が存在する」と言いきりました。しかしその五蘊は「本来の性質」として実体がないのだ! と宣言しているのです。

 ちなみに漢訳ですと「照見五蘊皆空」になっていて、五蘊がすべて実体がないということを観音様が見極めたというような訳になっています。

 ここら辺もちょっと違いますね。

●パシャティ(paśyati)

 最後の「パシャティ」は「見る」。そして「スマ」がついて「見た」になります。

※これ、「パシュヤティ」と読むのが普通だと思うのですが、ニテャーナンダ・トウドウ師の朗誦では「パシャティ」と聞こえるので、「パシャティ」にしました。


全体の意味

 この部分は漢訳では「照見五蘊皆空」の部分ですね。

 サンスクリット語からの訳では・・・

「五蘊が存在していることを(観自在菩薩は)明らかに観じ給うた。そして五蘊は、その本来の性質として『空』であると見給うた」

・・・となりますね。

 ああ、お話したいことはいっぱいあるのですが、それはまた~!


朗誦

 では、今回は最初から朗誦をどうぞ!

第4回

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安田登(やすだ・のぼる)

1956年千葉県銚子市生まれ。高校時代、麻雀とポーカーをきっかけに甲骨文字と中国古代哲学への関心に目覚める。高校教師をしていた25歳のときに能に出会い、鏑木岑男師に弟子入り。能楽師のワキ方として活躍するかたわら、『論語』などを学ぶ寺子屋「遊学塾」を東京(広尾)を中心に全国各地で開催す る。また、公認ロルファー(米国のボディワーク、ロルフィングの専門家)として各種ワークショップも開催している。著書に『能に学ぶ「和」の呼吸法』(祥伝社)、『身体感覚で「論語」を読みなおす。』(春秋社)、『異界を旅する 能  ワキという存在』(ちくま文庫)『本当はこんなに面白い「おくのほそ道」』(実業之日本社)、『あわいの力 「心の時代」の次を生きる』(ミシマ社)など多数。

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