へなちょこ古代史研究会

第5回 古代史最大のクーデター現場 高瀬レポート②

2011.12.28更新

「伝飛鳥板蓋宮」(でんあすかいたぶきのみや)と案内にあった。「伝」とは何か。平たく言えば、たぶんここだろうということ。
奈良県明日香村「伝飛鳥板蓋宮」。ここに一度は立ちたかった。行ったのは、もう10年くらい前。石を敷き詰めた土台の跡がしっかりと残っていた。7世紀半ごろ、女帝の皇極天皇がいた皇居跡とされている。

<入鹿は異様な気配を背後に感じて振り返った。子麻呂は無我夢中で入鹿の背筋目掛けて刀を振り下ろしていた。入鹿は右半身が痺れるような重い衝撃を肩に感じた。『何をする!』(中略)。古人大兄皇子や新羅使が総立ちになった時、中大兄皇子が絶叫しながら短剣をもって体当たりしてきた>(『落日の王子』黒岩重吾)。

蘇我入鹿惨殺。父親蝦夷、甘樫丘の邸に自ら火を放って自害。ここに権勢を誇った蘇我本宗家が滅亡する。645年6月12日から13日にかけて、歴史の歯車が大きく回転した。何度、このシーンを想い描いても、自分のことのように戦慄する。
古代史上、最大のクーデターとされる「乙巳の変」(いっしのへん)。日本史の教科書では「大化の改新」と教わるが、歴史の真実の姿は生々しい。伝飛鳥板蓋宮に捨て置かれた入鹿の骸(むくろ)を、蕭然と降る雨が叩き、赤く染まった地面を洗っていた。

その舞台となった「現場」に立って、意識をずーっと昔へとめぐらした。タイムマシンに乗って飛んで行くようなイメージで、過去へ過去へと遡上する。昭和、大正、明治を抜けて、幕末から江戸時代の始まり、安土桃山、戦国、室町、南北朝、鎌倉、平安、奈良、そして白鳳。キタ、キタ、キター! 明日香。

悔しかったろうな、入鹿。いくら政治とはいえ、ひでーえよ、中大兄皇子。卑劣ではないか、いきなり切りつけるとは。のちに天智天皇になる中大兄皇子を、私はどうも好きになれない。それは、このときの騙討のことがひっかかるからだ。
すべてが去っていった遠い時代と人間たちに想いを馳せた。野望、夢、失意、恋、苦しみ、悲しみ、さまざまな情念が渦巻いた場所も、ただただ、明日香の風のなかにあった。往時茫々。

歴史とは何だろう。過ぎてしまえば、無である。誰もいない。だが、歴史はつくられ、歴史は動く。その果ての先端に、いま私たちは生きている。

「幻さ。すべての時間が。」

作家、坂口安吾の言葉だ。痺れた。カッチョイイ!
その安吾が、凄いことを書いていた。
「蘇我は"天皇"だった」!
次回は、それを書く。

へなちょこ古代史研究会 高瀬レポート第2回 古代史最大のクーデター現場

古代史上、最大のクーデター現場「伝飛鳥板蓋宮」

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山口ミルコ、高瀬毅、萱原正嗣というフリーライター三人衆+ミシマ社京都・城陽オフィス窪田

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