へなちょこ古代史研究会

第10回 古墳の緑に抱かれて ミルコレポート④

2012.03.14更新

毛のない生活」が刊行となり、先週は関西の、ミシマ社とご縁の深い本屋さんを廻らせていただいた。
お会いする書店員さんはみな素敵な方ばかりで、そしてミシマ社をこよなく愛する方ばかりで、私はほんとうにミシマ社でお世話になれて幸せ者だと思った。
退社=病気 以降、こんなに全身のエネルギーを使ったことはなかったが、みなさんのあたたかい気持ちに支えられて、神戸、大阪、京都、の三都ツアーを乗り切ることができた。
こと、さいごの京都・"夜ふかし市"では、直接お客さんとお話しすることもでき、感無量だった。

この関西出張のうち一日を使って、堺に住む従姉妹のQちゃんのお見舞いに行った。
Qちゃんは私と一日違い生まれの同い年、父方の血すじで、本家は生駒山の麓だ。
彼女は去年、がんを発症し、先日から「毛のない生活」に入った。
だからなんとしてでも励ましに行きたかった。
「毛のない生活」が私自身にもたらしてくれたことはいろいろあるが、患っても、ひどい目に遇っても、まず良いことといえば、「同じことになってるひとの気持ちをわかる」ことに尽きる。

Qちゃんちの背後には、こんもりとした細長い山がある。
大仙陵古墳(仁徳天皇陵)は、誰もが小学生頃から習う世界最大の前方後円墳であるが、そのややミニ版の、履中天皇陵というのがある。この古墳の緑に抱かれて、Qちゃんは生まれ、育ち、いまはふたりの子どものお母さんだ。
400年代始めに履中天皇は亡くなっているらしいから、家の傍らにのっそりと横たわる巨大な墓はそんな大昔からある。
墓に入ったすべての人と人形のたましいは、1600年ものあいだ、この地の人びとの暮らしを見守り、生死を見続けている。

Qちゃんの目には力があった。
ショートヘアのカツラも良く似合って若々しく、想像よりずっと元気だったが、帰り掛けに私は見つけてしまった。
きれいにお掃除してあるお手洗いの一角に、髪の毛の束を。
髪が抜けて、小さな子どもたちも知ってしまったであろう、お母さんの病い。
便器の前で散らばった髪の毛を見つめながら、私は我慢できずに初めて泣いた。


大坂に遇うやおとめを道問へば
ただ(直)にはのらず たぎまじ(当岐麻路)をのる

(「生駒山へ行くには、近道より、遠回りがいいよ、伏兵がいるから」
と、道中会ったムスメに教えられたことを履中天皇が詠んだといわれる)

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山口ミルコ、高瀬毅、萱原正嗣というフリーライター三人衆+ミシマ社京都・城陽オフィス窪田

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