へなちょこ古代史研究会

第11回 蘇我は天皇だったのか?!――その弐の巻 高瀬レポート④

2012.03.28更新

「馬子には複雑怪奇な捉えようのない不思議なぬるぬるした魅力さえある」。『飛鳥歴史散歩』で、著者の寺尾勇氏がそう表現した蘇我馬子とは、いったいどんな風貌、どのような風体をしていたのか。と問われても、うーん、わからぬ。

古代史の難点は、登場人物たちのビジュアルな記録がほとんどといっていいほど残っていないことである。古代史の超有名人・聖徳太子こと、厩戸皇子は、かつて1万円札(5000円札もあった)でご尊顔を拝していたが、実在の人物の顔かどうかはわからない。山川出版の『もういちど読む山川日本史』によると、紙幣にも採用された肖像は12世紀初め頃に法隆寺に伝来したもので、「モデルが太子であるという確証のないことから『伝』がつくことになった」とある。「伝飛鳥板蓋宮」のときも「伝」だったが、ここでも「伝」である。1400年近くも前のこと。仕方がないのだろうか。

第11回 蘇我は天皇だったのか?!――その弐の巻 高瀬レポート④

『日出処の天子』第(一)巻(山岸凉子、白泉社)

さて、馬子である。この歴史上の巨魁とも言える人物について、山岸凉子さんがマンガ『日出処の天子』(ひいづるところのてんし)で描いている。

でっぷりと太り、顔は四角系で、あご髭と鼻髭がある。鼻はワシ鼻、かつ小鼻も張り、自己主張が強そうだ。目は顔の造りや他のパーツの大きさと比べて小さめ。いかにもズルそうで、ヒ―ルの面相であるが、どこかコミカルにも見える。あまりに嵌っているからなのかもしれない。

逆に意外性はなく、寺尾氏の言う、「ぬるぬるした魅力」は感じない。「ぬるぬる」という形容には、得体の知れない感じが含まれているのだが、ビジュアル情報がないぶん、実際の人物がどうであったのか興味はつきない。

第11回 蘇我は天皇だったのか?!――その弐の巻 高瀬レポート④

『日出処の天子』第(一)巻 48ページの馬子を参考に作成(イラスト:荒川千聖)

朝鮮半島からの渡来人という説もあるが、証明する確かな証拠はないらしい。いまさら確認しようもない。その歴史の空白を、想像力、空想力で埋めても誰も困らない。大胆、時には独善的な解釈、推測であろうと、それはそれで面白い。となれば、古代史は歴史でありながら、一種のファンタジーでもある。実際に起きた出来事ではあるものの、物語でもある。そしてその物語は、つねに後世の者たちによって「作られ(創られ)」、伝えられる。 

古代のある時期、蘇我氏はヤマトに君臨、統治した。
それを可能にしたのは、天皇家と血縁関係を結んだことだ(関係図参照)。馬子の姉、堅塩姫(きたしひめ)は、欽明天皇に嫁ぎ、のちの用明天皇(関係図では豊日大兄)と女帝・推古天皇(同図では額田部女王)を産む。馬子のもうひとりの女きょうだい小姉君(おあねぎみ)も欽明との間に子をもうける。のちの崇俊(すしゅん)天皇、(同図では泊瀬部王子)だ。さらに穴穂部間人皇女(あなほべのはしひとのひめみこ)という娘も生まれるが、この穴穂部間人皇女が用明と結婚し、生まれたのが厩戸皇子(聖徳太子)である。

文章を一度読んだだけでは、関係図が頭に入りにくいだろうが、要は、蘇我馬子の父親稲目が、娘を天皇家に嫁がせ、子を産ませ、外戚としてみずからの血の入った天皇を「作り」、政治を動かした。そして馬子の代になり、いよいよ権勢が高まるという構図である。

第11回 蘇我は天皇だったのか?!――その弐の巻 高瀬レポート④

『日出処の天子』第(一)巻 4ページの血縁関係図を参考に作成

その馬子を筆頭に、息子蝦夷、孫の入鹿とつづく一族の面々は"天皇"だったと言う歴史探偵・坂口安吾がまずは読んでみよ、と言う一冊の本がある。『上宮聖徳法王帝説』(じょうぐうしょうとくほうおうていせつ)である。平安末期の法隆寺のお坊さん、大法師の相慶之という人による写本だという。聖徳という文字が入っていることからわかるように聖徳太子の伝記とされ、現存する最古のものだとも言われている。

興味を引くのが、その文章のところどころに空欄(□□)があることだ。そのなかにどんな文字が書かれていたのか、いまではわからない。が、□□の前後に、「入鹿」や、蘇我のことを示す「豊浦大臣」だのと言った文字が散見されるのだ。安吾探偵は、その□□に「天皇」という文字を想像(創造)したのである。□□は、単なる虫食いではない。誰かが、なんらかの意図で、その□□のなかにあった文字を抹消したのだ、と安吾は言い放つ。
岩波文庫にある『上宮聖徳法王帝説』。次回は、この本を少しばかり読み説くことにしよう。

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山口ミルコ、高瀬毅、萱原正嗣というフリーライター三人衆+ミシマ社京都・城陽オフィス窪田

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