へなちょこ古代史研究会

第18回 ミシマ社で『古事記』と言えば・・・ かやはらレポート⑤

2012.07.04更新

第18回 ミシマ社で『古事記』と言えば・・・ かやはらレポート⑤

『超訳 古事記』(鎌田東二)

今年は『古事記』編纂1300年。
前回に続いて、『古事記』にまつわる本を紹介したい。
で、ミシマ社で『古事記』と言えば、この本に触れないわけにはいかない。
そう、『超訳 古事記』(鎌田東二著)のことだ。

世に「超訳」ものはいろいろあれど、それらの多くは、「超訳」というより解説本。
一方の『超訳 古事記』は、そこらの解説本とはちょっと違う。その所以は、古事記を「現代の音」で再現しているところにある。

『古事記』の原文は、現代人には非常にとっつきにくい。
冒頭の神代の物語の書き出しは、次のようになっている(岩波文庫より引用)。

天地(あめつち)初めて發(ひら)けし時、高天(たかま)の原に成れる神の名は、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)。次に高御産巣日神(たかみむすひのかみ)。次に神産巣日神(かみむすひのかみ)。この三柱(みはしら)の神は、みな獨神(ひとりがみ)と成りまして、身を隠したまひき。

うーん、読みづらいし、情景が浮かばない・・・。

それが、『超訳 古事記』ではこうなっている。


 しゅうう・・・ ふぅう・・・ しゅうう・・・ ふぅう・・・
 しゅうう・・・ ふぅう・・・ しゅうう・・・ ふぅう・・・

 風が吹く
 風が吹く
 天(あめ)が宙(そら)が風を吹く

 風が生まれ
 霊(たま)が生まれる
 どこからともなく霊風(たまかぜ)が吹いてくる

 しゅうう・・・ ふぅう・・・ しゅうう・・・ ふぅう・・・
 しゅうう・・・ ふぅう・・・ しゅうう・・・ ふぅう・・・

 天地(あめつち)のはじめ
 天(あま)の原に風が吹く

 しゅうう・・・ ふぅう・・・ しゅうう・・・ ふぅう・・・
 しゅうう・・・ ふぅう・・・ しゅうう・・・ ふぅう・・・

 そこに天(てん)の中心をなす神が現れ出る
 天のまん中に開いた大きな大きな孔(あな)の神
 柱となる神
 すべての始まりのみなもとの神
 天之御中主神という風を生み出す天の孔柱(あなばしら)の神が現れ出た

 そこからさーっと霧のように噴き上がってくる
 高御産巣日神
 神産巣日神

 すべてのいのちをうみだす二柱のむすひの神
 霧となって立ち上がり
 風となって舞い上がり
 雲となって巻き上がる

 宇宙のはじまり
 天地(てんち)のはじまり
 あめつちはじめ
 あめつちひらけ
 天地(あめつち)の初めの時

 はじまりを告げるこの二柱の神は
 みなひとりで体をもたない身を隠したままの神だった


おー、情景が浮かぶ。自分とは遠い遠い神様の世界が、ぐっと身近に感じられる。
まさに「訳を超えて」いる。

それもそのはず、この本のつくられ方にも大きな秘密があった。

『古事記』は、稗田阿礼(ひえだのあれ)が語った歴史を、太安万侶(おおのやすまろ)が文字に書き連ねた文書だ。
『超訳 古事記』は、鎌田先生が記憶とイメージを頼りに語った古事記の世界を、三島さんが文字に書き連ねてつくった本だ。
さしずめ、鎌田阿礼(かまたのあれ)と三島安万侶(みしまのやすまろ)の組み合わせで、古事記の世界観を現代の音で再現したということになる。
だから、「超訳」された文章に、踊るようなリズムが宿っている。

実は、太安万侶が書き連ねた文章には、ひらがなは一切使われていない。
漢字だらけの漢文のような文体だ(以下、岩波文庫より引用)。

天地初發之時、於高天原成神名。天之御中主神。(訓高下天云阿麻下此) 次高御産巣日神。次神産巣日神。此三柱神者、並獨神成坐而、隱身也。

ちなみに、ホントのホントの原文は、句読点すらなく、漢字の羅列になっているらしい。
そうなると、シロートにはさすがに手が出ない。
『超訳 古事記』のありがたさが骨身に染みる。

ただ、この「漢文っぽい」文章は、純粋な漢文というわけでもないらしい。
当時は、漢字で日本語をどう表記するか、試行錯誤が繰り返されていたようで、なかには、漢字の音だけを借りて、いわゆる「万葉仮名」の走りのような漢字の使い方も見られるとのこと。
現代でも見かける「夜露死苦」の起源が、1300年前にあると思うと、ヤンキー様が太安万侶の正当な継承者にも思えてくる。
今度まちで見かけたときは、こっそり拝んでおこうと思う。「メンチ切りやがったな」と要らぬケンカをふっかけられない程度に。

そうそう、もうひとつ「超訳」シリーズに関して触れておかなければいけないことが・・・。

「超訳」ものと聞けば、『超訳 ニーチェの言葉』や『超訳 ブッダの言葉』を思い浮かべる人も多いはず。
ここで問題。
「ニーチェ」が出版されたのは2010年1月12日、「ブッダ」は2011年2月20日。では、『超訳 古事記』が出版されたのはいつ?

答えは、2009年11月7日。
『超訳 古事記』は、「超訳」もののさきがけでもあったのだ。

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山口ミルコ、高瀬毅、萱原正嗣というフリーライター三人衆+ミシマ社京都・城陽オフィス窪田+三島邦弘

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