今月の一冊

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第2回 2010年8月(後編)

2010.08.25更新

温かい眼差しで描かれた自衛隊的青春小説

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『歩兵の本領』(浅田次郎、講談社文庫)

渡辺私は、大越裕氏持参の浅田次郎『歩兵の本領』(講談社文庫)です。みなさん自衛隊に入りたいと思ったことはありますか?

あります!

渡辺え?? あり、ありますか?

もちろん。

渡辺いやいやいや。この文脈では、「ありません」ですよ。ありませんね? という感じで「でもこの本読むとちょっと気になっちゃいますよ」という方向に話しを持っていこうと思ったのに、入りづらくなったじゃないですか。
林さん、何かあったんですか?

私、強くなりたいと思った時期がありまして。

渡辺なるほどー。

三島自衛隊に入る人の動機として多いかもしれませんね。自分を律したいというのは。

渡辺なるほど。この本は、9つのストーリーから成っているのですが、ひとつひとつは読み切りでもいけます。一貫して、舞台は陸上自衛隊で、そこに属する人たちが主人公です。まあいうても、高度成長期に世間が浮かれている時代の話です。そんな時代なのに、わけあって自衛隊に入隊している人たちをフォーカスして描いています。

窪田おもしろそうですね。

渡辺帯がまた気になります。「著者の体験的青春小説」と書かれている。実は、浅田次郎さん自身、自衛隊に入っていたそうなんですね。

木村へー!

渡辺だからリアルなんですよ。

三島なるほどー。

渡辺先輩にいちゃもんつけられて鉄拳制裁をくらうのは日常茶飯事。和田士長というすぐ殴る先輩が出てくるのですが、「お前いま何でオレに殴られたか、その理由わかるか?」と聞くんですね。そこで後輩が、「わかりません」と答えると、「オレの腹の虫が悪かったからだ」と(笑)。それで、その和田士長に殺意を抱く渡辺一等陸士というのがいて。

大越主要な登場人物ですよね。そういう登場人物がそれぞれなんで自衛隊に入ったのかというエピソードがなかなかおもしろいんですよね。

渡辺かつて自衛隊は、地連(自衛隊地方連絡部の略)が、街でガタイのいい兄ちゃんなんかに声かけて「きみ、自衛隊に入らない?」なんてスカウトすることもやっていたそうで。たまたま街をプラプラしてたら地連の人の口車に乗せられて、市ヶ谷の食堂でビフテキか何かを食べさせてもらっているうちに、いつの間にか自衛隊に入ることになっちゃったり。

大越まあ、いわば人さらいですよね(笑)。この本は、自衛隊という特殊な軍隊の、それも一番下っ端である「歩兵」にフォーカスして描いてるところがいいんですよね。自衛隊という、日本の鬼っ子のような組織に、吹きだまりのように時代から取り残された青年が集まってくる様子をユーモアたっぷりに描いている。

渡辺そうなんですよ。なかの若者たちは、きっと「おれはここで何やってんだよ」とかそういう思いを抱いていて、でもこの本は、そこにある青春をちゃんと描いているから、読んでてなんだか爽やかなんですよ。ひとつひとつの物語があったかい眼差しで描かれているから。きっと浅田さんも若かりし頃、こういう思いを実際に体験されたんだろうな・・・。

大越当時はきっと、オシャレな学生からしたら、「自衛隊に入るなんてだっせえ」というような風潮があったんでしょうね。今とは、まったく自衛隊の見られ方も違っていた。

渡辺まあしかし、大越さんは、やっぱり男臭い本を持ってきたなあと思いましたが、これ、とてもおもしろかったですよ。皆さんも機会があればぜひ。
続きまして、窪田さんお願いします。

亡き夫を想い続けた歳月を思う

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『歳月』(茨木のり子、花神社)

窪田私は、茨木のり子さんの『歳月』(花神社)です。これは木村さんの?

亜希子私です。

渡辺窪田さんはなんでまたその本を選んだのですか? 似合わない・・・。

窪田いや、それは「君はこれを読んだほうがいいよ」とアドバイスが出たので、読んでみました。でも、今回読ませてもらってとてもよかったと思いました。こういう世界があるんだなといいますか。もう3回くらい読みましたが、正直「わかった」とはいえないです。なんて説明していいか・・・。

木村そもそも、『歳月』はどうやって本になったんですか。

窪田これは、亡き夫、三浦安信さんへの思いを綴った詩集です。旦那さんに先立たれた1975年5月以降、31年間の長い歳月の間に書かれた40篇近い詩が一冊の本になっています。でも、これは茨木さんの生前にまとめられた本ではありません。茨木さん自身も2006年2月17日に亡くなられ、その後、甥っ子さんが書斎でみつけた原稿をもとに本にまとめています。そういう経緯についても非常に丁寧に書かれているのですが、なんといいますか、すーん・・・。

木村すーん?

窪田すごくいいな・・・と。

大越何がどういいと思ったのよ?

窪田ご主人が亡くなられて、31年間、再婚せずずっとひとりで暮らされていたのですが、ずっとご主人のことを想いつづけるんですね。亡くなられているのですが、よりいっそう強く想う。
ご主人の夢を見て、ぱっと目が覚めて夢だということに気づく。目が覚めて「もういないんだ」ということに気づいたりしたときのことを詩にされたり。

ある夏のひなびた温泉で、湯上がりのうたた寝のあなたに、煌々の満月冴え渡り、ものみな水底のような静けさ。月の光を浴びて眠ってはいけない。不吉である。どこの言い伝えだったろうか。何で読んだのだったろうか。ふいに頭をよぎったけれど、ずらすこともせず戸を閉めることも、顔を覆うこともしなかった。ただゆっくりと眠らせてあげたくて、あれがいけなかったのかしら。いまも目に浮かぶ蒼白の光を浴びて眠っていたあなたの鼻梁、頰、浴衣、素足。  (『歳月』のなかの「月の光」より)

これを読むことで、何がいいと思ったかというと、茨木さんのそのときの気持ちに、すこしだけではありますが、自分が同じ経験をしたような気持ちになれた気がしたんです。想像すらしていなかった部分も、想像することで他人事として悲しかったんだなというよりは、いずれ自分もそうなるのだな、みんなそうなるんだな、と想像して今のことを考えてしまう。
そうなると、今という時間が大切になる。そういうものが書かれて本になっているというのはすごく素晴らしいことだと思いました。

星野茨木さんの詩は、教科書とかにも載ってましたね。

窪田今までも、もしかしたら読んでいたかもしれませんが、今回静かな海辺で読んだことで、よりいっそう心に染み込みました。
ありがとうございました。では、つぎ星野さん。

海に行ってひとりで声に出して読んでみよう

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『二人が睦まじくいるためには』(吉野弘、童話屋)

星野私は木村さんが持ってきてくださった『二人が睦まじくいるためには』(吉野弘、童話屋)です。これも詩集です。

三島詩集つづきますね。

星野これは、吉野さんが編集された詩集ではなくて、編者の田中和雄さんという方がいろいろな詩集から選んでまとめているものです。普段はあまり詩を読まないのですが、読んでいて、文章を読むのと詩を読むのではまったく違う経験なんだなと感じました。

さらっと読んで、何か読み切れなかった気がして、同じ詩を何回も読みなおしてみたり、さっき窪田さんが読んでいましたが、口に出して読んでみてもよかったなと思いました。せっかくだから、海に行ってひとりで声を出して読んだ方が味わえたかなと。

文字の配列とか行の空けかたとか、文章を読むときにはあまり意識しない部分にも意味が感じられて、言葉に持たされている意味もまったく違っている。今回これを読んで、他にも読んでみたいと思えてよかったです。

窪田ですよね。

星野この詩集は、年を重ねた人が若い人に向けて書いている詩が多く集められている印象でした。それが、うるさい感じで口を出すのではなくて、すごくあたたかい。伝えたいことを、言葉を選んでエッセンスだけを伝えようとしているのが感じられました。

有名な詩で、この本の最初にも出てくる「祝婚歌」は、何度読んでもいいなと思います。最後は、茨木のり子さんが解説を書いています。「祝婚歌」は結婚する姪っ子さんに書かれているそうなのですが、銀婚式を迎える世代にも贈られていい詩だ、と。それに加えて、私みたいに結婚をしていない人にもいろいろと感じるところがある詩です。『歳月』もこないだ木村さんもすごくいいとおっしゃっていたので、読んでみたいと思います。

木村詩のおもしろさは、短いセンテンスで、人によってまったくニュアンスが変わるところですよね。小説ともまた違うリズムとかもある。

渡辺詩もそういう自由な詩と、俳句とか短歌みたいな形式が決まっているのとかいろいろありますからね。

亜希子描いているのはひとつのようであり、たくさんあるようであり。

渡辺それを読んだ場所によってもまた変わってくるかもしれないですしね。

三島いい詩って、言葉と感情が見事に重なり合っていますよね。だから、すごく短い言葉でもいろんな人に伝わってくる。

大越というところで、では、最後のとりは林さん。

みうらじゅんの「愛」について

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『Love』(みうらじゅん、角川文庫)

私が読んだ本は『Love』(みうらじゅん、角川文庫)です。これは星野さんが持ってきてくれた、みうらじゅんのエッセー集です。内容としては、基本的に下ネタとかいろいろ自分の経験を思い出して綴っています。

今回は、みうらさんの恋愛観を深く読みとろうと考えながら読みました。
何回か一番最初の彼女の話が出てくるんですね。みうらさんは2浪して武蔵野美術大学に入るのですが、2浪している間に、19歳のとき上京してきて初めて女性を知る。たぶん、みうらさんはその人のことを忘れていない。
みんな忘れないのかもしれませんが、自分の気持ちに折り合いをつけるのがうまい人と下手な人がいるとしたら、みうらさんは下手な人だと思いました(笑)。

あえて、自分で結論をつけないで、そのまま「何でだったんだろう?」という気持ちを味わい続けているというか、それを楽しんでいるような印象を受けました。愛のかたちもいろいろあって、愛するということも正しい人の愛し方があるわけじゃなくて、対人間でその人にとっていい影響があったらそれは「愛」なのかしら、と思いました。

最後の方で、みうらさんは「なんて自分は自分のことを知らないのだろう」「結局自分は他人のなかにいた」ということを書かれてるのですが、それは異性だけではなくて、いろんな「愛」につながるところなのかなと思った一冊でした。

星野すごい深く読み込んでくださいましたね(笑)。

いえいえ。感想いうために、半ば無理やりですが(笑)。

星野私は、難しい本をたくさん読みたいときと、そうではないけれど文字は読みたい、かといって何でもいいわけじゃないときがあるのですが、この本は後者の頃に買った本です。
自分が女子校だったこともあって、「男子とは何なのか?」と不思議に思ってたんですね。だから、「男子の本」という感じなんですね(笑)。

三島一番最初、ブルース・リーの話だもんね。

星野そうなんです。ブルース・リーがすごいとか、いわゆる男子の世界の話で、「そういうところに反応するのか」とか「そういう日常を送っているのか」とか、そういう意味ですごくおもしろくて、男性陣が読んだらどう思うのかなとなんとなく思っていました。大越さんとか(笑)。

大越もちろん、みうらじゅんは、師匠ですよ。

星野深く何かあるとかではないのですが、みうらじゅんさんってもともと気になる存在でもあり、何か印象に残っていたんですね。それこそ捨ててしまわずに棚にあった一冊。

窪田じゃぁ、一歩間違っていれば捨てていた一冊だった。

星野ぎりぎり残った。

三島みうらさんって、何をやっている人かよくわからない人、というところがいいですよね。

星野そうなんですよ。

窪田数年前はアングラな人だったと思うのですが、ここ数年目立ってきていますよね。みうらじゅんさんがやろうとしていたことが、ムーブメントというか、かたちになっている気がします。映画になったり、みうらじゅん原作、とか「とんまつりJAPAN」のこととか、誰も知らんやろというようなこととかが比較的目立ってきてますよね。

三島コアなファンだけが熱烈に支持しているようなものとかがね。昔よりメジャー感が出てる気がするのですが。

大越中学生くらいのときから気に入ったエロ本を切り抜いてエロスクラップというのをつくっていて、ノートで200冊くらいあるんですよね。

渡辺エロ本200冊じゃなくて、その選りすぐりの切り抜きが200冊もあるってのが、おかしいですよね(笑)。

木村おかしいです(笑)。

三島京都にはたまにこういう人いますよね。

みんなに理解されなさ感っていうのがありますよね。でも、読んでいてみうらさんの感覚にまったく違和感がなかったので、私の感覚って男子なんだ・・・、といま思いました。

窪田いや、でもこれが男子だっていうのも、少し違う気もする(笑)。こういう部分もあるけど、それがすべてじゃないと思うし。みうらさん自身もこういう部分じゃないところはたくさん持っているけれど、そこは出さないで、エンターテイメントとして出している感じがしますね。

みうらさんには女装をする期間があったそうなんですね。男らしさを求められるのが苦手でなぜか女装をしていた。もしかしたら性別を超えた目標を持っていたのかもしれませんが、そこを目指そうとするところも他人に理解されにくいところなんでしょうね。

窪田でも、話芸すごいですよね。

渡辺タモリ倶楽部に安斎肇さんと出てるときとか、たのしいですよね。

木村なんとなく安心感がありますよね。何か話をふったらおもしろいこといってくれるだろうという雰囲気がある。そういう人が世の中にいると、けっこう平和にしてくれるというか、すごく大事な存在ですよね。クラスにひとり、こういう人がいたらいいですよね。

星野うん。

大越というところで、よろしいでしょうか。

三島これで合宿終了です! フィー。

一同(笑)フィー!!

大越長い間ありがとうございました。

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