今月の一冊

第9回 2011年4月

2011.04.28更新


今日は2011年3月31日。ミシマ社の仕掛け屋作業を手伝ったくれた仕掛け屋ジュニアの4年生3人が卒業する卒業式です。
というわけで、「今月の一冊」特別バージョンを開催して、仕掛け屋ジュニアに「卒業式でみんなと共有したい本」を紹介してもらいます。みなさん、よろしくお願いします!

三島じゃぁ恒例のじゃんけんで。じゃいけんほい!


日常の小さな「とっかかり」に挑む作者を横目に、明るく生きていきたい

今月の一冊

『キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか』(北尾トロ、幻冬舎文庫)

市川成城大学4年、市川優香です。私が選んだ本は『キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか』(北尾トロ、幻冬舎文庫)です。
著者の北尾トロさんが、日常生活のなかにあるけれど実行するには少し勇気のいる小さな「とっかかり」をひとつずつ実際にやっていく、というお話です。みんなそれぞれ実行には移さないけれど、小さな「とっかかり」があると思います。そういう一見ばかげたことでも真剣にやっている人がいることを考えると、自分もがんばってみようかなあ、という気になります。この本を読んで明るく生きていきたいなと思い、これを選びました。

三島これを「勇気の書」として読むんだ。おもしろい。

人に「鼻毛が出ていますよ」というほかに、どんな例があるんですか。

今月の一冊

市川「初恋の人に告白する」とか、「電車でマナーを守らない乗客を叱る」とか、「詩の発表会に参加してみる」とか。

一同ああ~(笑)

三島「筆者に勇気と希望を与え続けてくれたチータ(水前寺清子)に捧げる」って書いてあるね。

市川「幸せは歩いてこないだから歩いて行くんだよ」がテーマの本だそうなので。

一同なるほど~!


社会という砂漠に雪を降らせたい

今月の一冊

『砂漠』(伊坂幸太郎、実業之日本社)

目白大学3年、梶理恵子です。私は『砂漠』(伊坂幸太郎、実業之日本社)を紹介したいと思います。

伊坂幸太郎をこよなく愛していて、そのなかでもこの本が大好きです。この本を手に取ったのは、帯に惹かれたからです。「自分たちさえ良ければいいや。そこそこ普通の人生を、なんてね。そんな生き方がいいわけないでしょ。俺達がその気になれば砂漠に雪を降らすことだって余裕でできるんですよ」という言葉が、なんてロマンチックなんだろう、と。

本の内容は、大学生の日常。いろいろな困難が起きて、それに立ち向かっていくような話です。主人公は破天荒なキャラクターで、彼の発する言葉がひと言ひと言、名言です。帯の言葉も彼のものですが、他にも「ピンチは救うためにあるんでしょう」のように、今まで気づかなかったけど言われるとはっとなる言葉が多いです。

今月の一冊

私自身、学生というオアシスのなかにいるような存在だけれど、社会人になったら砂漠のような、自分の知らないところに出て行くんだと思います。そのとき「砂漠に雪を降らす」ではないけれども、無理だと思ったことにも挑戦して、実現していきたいです。

今回の震災はピンチだけれど、自分の考え方や行動次第で状況を変えられるんじゃないかと思います。これから何ができるかまだわからないけれど、被災地が復興できるようにボランティアをしようと考えています。卒業して社会に出て行く人に、読んで勇気を出してほしいな、と思います。


言葉で世界は変えられる

今月の一冊

『シンジケート』(穂村弘、沖積舎)

内山早稲田大学3年、内山菜生子です。今日持ってきたのは『シンジケート』(穂村弘、沖積舎)です。いまや大人気の穂村弘の処女歌集で、彼が会社員だったときに貯めた数百万円で自費出版したものです。今日これを持ってきた理由は、短歌だったら回し読みができて簡単に共有できるかな、ということに尽きます。というわけで、お気に入りの三首をご紹介します。

子供よりシンジケートを作ろうよ壁に向かって手を挙げなさい

新品の目覚め二人で手に入れる ミー ターザン ユー ジェーン

「酔ってるの? あたしが誰だかわかってる?」「ブーフーウーのウーじゃないかな」

言葉の力で世界を変えられる、と私は信じています。まだ歌人として認められる前の穂村さんによる、どこか現実離れしていて、切実でひりひりする言葉をぜひみなさんにも読んでほしいです。短歌ならお気に入りをすぐノートにメモしたり、手先が器用だったらハンカチに刺繍したりできるので、触れてみるといいと思います。

三島なんだかおかしいのに、体にきますね~。

内山太宰治が好きな女子ならはまると思います(笑)。


学校を卒業しても、人生の学びは終わらない

今月の一冊

『先生はえらい』(内田樹、ちくまプリマー新書)

富田多摩美術大学2年、富田茜です。私が選んだのは『先生はえらい』(内田樹、ちくまプリマー新書)です。この本は、いろいろな例が挙げられるので主張がわかりやすい。私たちが今まで経験して思ってきたことが、「ああこういうことだったんだ!」と納得することができます。

たとえば私は夏目漱石の『こころ』が好きなのですが、なぜ好きなのかはわかりませんでした。それが「謎の先生」という節で書かれる「先生」と主人公の関係を読むと「なんだ!」と、これまでの「教育」というものが笑っちゃうくらい、覆されます。

大学を卒業しても、人生、学びはずっと続くんだということがこれを読めばよくわかります。「先生」だって学校の先生だけが先生ではない。「この人はこの行動を通して私に何を伝えたかったのだろう」と考えるだけで自分のためになり、それだけで成熟のきっかけになります。特に最後の「沓を落とす人」という中国の故事を、ぜひ読んでほしいです。

三島師と弟子のありかたをそれで書いているんだよね。これと、ミシマ社の『街場の教育論』を併せて読むとよりいいですよ。

一同(笑)


チャーミングに、大胆に、縛られず生きていく

今月の一冊

『マリス博士の奇想天外な人生』(キャリー・マリス、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

藤枝東洋大学1年、藤枝大です。僕が持ってきたのは『マリス博士の奇想天外な人生』(キャリー・マリス、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)です。

訳が『生物と非生物のあいだ』の福岡伸一さん。このマリス博士は1993年にノーベル化学賞を受賞するのですが、一般的な学者の堅苦しいイメージから離れた破天荒な人です。

受賞につながるアイデアを思いついたのもガールフレンドとドライブしていたとき。うとうとする彼女に一生懸命語って聞かせようとして「ちょっと眠いからやめてよ・・・」と言われたそうです。他にも、受賞の報を聞いたときにとりあえずサーフィンに行ったとか。

科学者や数学者の自伝を読むのが好きで、たとえばポアンカレ予想を解いたペレルマン博士も変わっています。ロシア人で、才能があって教授の職を得ていたのですが、急にロシアのなかでもすごい田舎にある、お母さんとふたりきりの実家に戻って閉じこもり、長い間解かれていなかった問題を解きました。

このように理系の人には大胆な生き方をしているひとが多く、マリス博士もそれにご多分にもれず、です。僕は人生チャーミングに生きたいと思っているのですが、そういうチャーミングなエピソードをたくさん持っています。たとえば、彼が日本の国際科学技術財団の賞を取ったときの話。

『授賞式では、天皇と皇后に会うことができた。日本の皇后に向かって「スウィーティ(かわい子ちゃん)」と挨拶したのはたぶん後にも先にも私だけだろう。皇后は私の無礼に対してもまったく寛容な態度を示してくれた。私は皇后ととても楽しく会話した。他の国の皇后とはお知り合いですか? 私はたずねてみた。世界に皇后の称号をもつ方は私を含めて三人しかおりません、と彼女は答えた。あとの二人はどなたかと私は聞いた。その答えを聞いて、私はその人たちがガールフレンド候補とは考えにくい方々だと言い、皇后もそれに同意してくれた』(本文37ページ)

今月の一冊

天皇論はあちこちで書かれて分析されているけれど、ある研究者が自分の研究分野で書いたものよりも、彼のエピソードのほうが皇后陛下を活写しているといえなくもない。そういう、意図しなかった面白みもあります。

「チャーミングに生きる」ということで、人生思い通りにいかないこともあるかもしれないけれど、ひとつの特定された生き方なんてないから、縛られずに生きていったら楽しいと思います。

三島科学者ってむちゃくちゃな人が多いよね。僕は『ご冗談でしょう、ファインマン先生』が大好きな作品です。みんな自由。「これでいいんだ!」と思えてくる。

藤枝「なんでも見てやろう」という感じがしますよね。


物語を語るのは人間だけじゃない

今月の一冊

『タイ・レイ・タイ・リオ紬記』(高木正勝、Epiphany Works)

上智大学3年、工藤愛子です。『タイ・レイ・タイ・リオ紬記』(高木正勝、Epiphany Works)という本を持ってきました。実はこれ、高木正勝という音楽家のアルバム「タイ・レイ・タイ・リオ」に付録でついてくるもので、単体で手に入れることはできません。

高木正勝は電子機器を使ったアンビエント・ミュージックを発表していたのですが、このアルバムは世界の民族音楽・民族楽器の要素が多く取り入れられています。民族・伝統・伝記などをテーマにした作品です。なぜこの本が付録になっているかというと、おそらく彼が音楽で表現したかったことを、実在する神話とセットにすることで、聴く者により深く伝わると考えたのだと思います。

日本ないしは世界中の民族に伝わる伝記を集めたもので、たとえば最初は私の生まれ故郷である岩手県の「オシラ様」についての話だったり、他にはネイティヴ・アメリカンの詩だったりが並べられています。ただ集めただけで、何か答えがある本ではないのですが、一貫して感じるのは「物語というものは人間だけがつくり出すものではない。

たとえばそこらへんに転がっている石でも、時間を経るうちに物語を紡ぎ、それが過去と未来をつなぐ」ということです。地球はひとつの星であり、何年も何年も存在している。ひとりで東京に住んでいる私ですが「みんなに見守られて、生まれ落ちて死んでいく」ように感じます。物と時間と空間とが一本の線になるとそう思えたり、御先祖様や毎日の食事などに対しても異なった見方ができて感謝の気持ちを持てるようになります。

今月の一冊

捉え方は人それぞれ。気になった方はぜひCDショップに足を運んでみてください。そして、これを読んでから音楽を聞くと、聞こえる音が変わってきます。

文化人類学に興味のある人にはとくに良いと思います。突拍子もない展開や生々しい話などもあり、話が読者の想像力に委ねられるのが面白い。単純に「世界にはこんなにたくさんの民族がいるんだ」という発見にもなります。1ページにも満たないような話もあるため収録された話の数はかなり多くて、ひとつのストーリーが違う民族にはどのように伝わっているか比較されていたりもします。

音楽については、ホーミーのような珍しい歌唱法が使われたりしているので、ぜひ良いヘッドホンで聞いてほしいです! 「ここはどこだ!?」となりますよ。

もともとナバホが好きなので、表題の「タイ・レイ・タイ・リオ」の詩をいま読んだのですが、いいですね!


何もないところから文化をつくった姿が、いま心に響く

今月の一冊

『代表的日本人』(内村鑑三、岩波書店)

渡辺営業の渡辺です。『代表的日本人』(内村鑑三、岩波書店)

タイトルのとおり、西郷隆盛や上杉鷹山など、代表的な日本人を挙げた本です。特に二章の二宮尊徳のところがおすすめです。

何もない場所で田んぼを耕し、自分で勉強をして、たくさんの村々を救った人です。震災でへこんでいるときに、どっと心が響きました。こんなときだからこそ、読んでほしい一冊です。


自分に起こらないとは言い切れない、リアルな家族の崩壊

今月の一冊

『砂上のファンファーレ』(早見和真、幻冬舎)

三島ミシマ社代表三島邦弘です。まだ読んでいる途中なのですが、今日、かばんのなかに入っていたので。『砂上のファンファーレ』(早見和真、幻冬舎)を紹介します。これは映画にもなった『ひゃくはち』の作者である早見さんの三作目にあたります。今日の場にふさわしいとはまったく思わない内容ですが(笑)、家族が崩壊していくさまを描いた小説です。

まあ、リアルなんです。そのリアリティがなにかというと、ひとつはお金の問題。自分たちと親の世代はずいぶん金銭感覚が違うと思うのですが、その理由のひとつに家のローンがあります。親世代にとっては経済成長や終身雇用というものは前提にあって、給料が上がっていくつもりでローンを組むんです。最初は負担のない額の支払いから、昇進を見越して5年後、10年後に払う金額を増やしていくプランを立てる。それでマイホームを購入してすっごい郊外に家を建てるんです。

そこからすべてが狂いだしていく家族の話です。ひとつは、社会の状況が変わり、終身雇用どころか企業の統合や外資系の参入によって、首切りが行われるわけです。主人公のお父さんは「子会社に移る」というかたちで年収が半分になる。そのうちそこにもいられなくなり、最終的にチャンスだ、とばかり独立する。でも、独立するとローンどころじゃなくなる日々になっていくわけです。

そのなかで家族も変化を迎えます。子どもが大きくなり、大学を出て就職して結婚、となったときに、母親が脳の病気にかかる。たとえばまだそれを誰も気づいていないとき、お兄さん夫婦に会いに行った場で、母親が急に変なことを言う。誰の身にもこういうことが起こらないとは言い切れないわけで、この描写にはリアリティがあります。そのときに家族はどうなるか、どう動いていくかを描くんです。

今月の一冊

それでお母さんを病院に連れて行ったらなんと、ガンが脳に転移しているかもしれないという話になった。入院費をどうしようかという話になって長男が家に帰って調べてみたら、お母さんが30社くらいのサラ金から借金していたことが発覚します。ここで早見さんが主人公に言わせているのが「何を考えているんだこの母親は」ということと、一方で「一介の主婦になんでこんなに貸しているんだよ」ということで、どっちもすごくまっとう。そして、他人事ではない。伊坂幸太郎さんとは違うスタイルだけど、読み出したら止まりません。

早見さんは77年生まれで僕よりふたつ年下ですが、これからの活躍が期待されるエンターテインメント小説家です。また、早見さんのことは気になっていて、三作目が出たので買って読んでみたらとても良かった。皆さんがこの場で読むかどうかはわからないけど(笑)、いつか読んでもらえたらいいんじゃないかな。


見えないものを見つけて、自分のものにしたい

今月の一冊

『建築に夢をみた』(安藤忠雄、NHKライブラリー)

藤原駒澤大学4年、藤原慎也です。僕も今読んでいる本で、『建築に夢をみた』(安藤忠雄、NHKライブラリー)です。

安藤さんは若い頃に世界中を歩いて、それぞれの土地の文化や土壌からどんな住まいができるのかを見てきたそうです。それぞれの地域にちゃんとした理由があって、その土地にあった素材や形状で、住みやすいように家がつくられているのが面白く感じました。

このあいだ読んだ『アースダイバー』(中沢新一、講談社)は、縄文時代の地形から今の東京のまちの姿を読み解くもので、ずっと昔の人と今生きている自分たちがリンクしていることをわかりやすく見させてくれました。とても長い時間だけれど、そのあいだに見えないところでつながっているなにかがあって、そういうところを発見して、愉しむことができたら人生もっと面白くなる気がしています。

今月の一冊

アースダイバーにも通じて言えることですが、建築様式と、まちや土地の関係も、意識はしていないけれどなんらかの理由がある、それをこの本では見られた気がします。これから生きていくなかで、そういう目に見えないところをどんどん見つけていきたいです。想像して、自分なりに構築して理論化して、自分ならではのなにかを見つけて生きていきたい思いで、今読んでいます。

三島工藤さんの『タイ・レイ・タイ・リオ註記』ともつながりますね。

工藤そうですね。

三島すべてがつながっているというか、それを感じながらじゃないと、実はものづくりはできない。安藤さんはある意味、基本を書いていらっしゃるんだと思います。ゼロから何かをつくることって実際にはほとんどなくて、自然界に流れているエネルギーにちょっと人の手を加えて違う角度にしたらなにか違うものになるし、すでに素材は溢れています。たぶん「生み出す」とはそういうことです。

僕は、本というものはそうだと思っているし、そういうふうに編集したい。企画についても、みんな「降って湧く」みたいなオリジナル神話にとらわれている。でも、「降って湧く」というのは感覚を解放しているからで、反応を感知して出すということです。ゼロから出てくるのではなく、外に流れている情報や聞こえた響きなどをちゃんと感じ取って、ものづくりをやっていく。建築やデザインはその最たるものですよね。

本来、ありとあらゆるものはそうであるはずだと思います。怖いのは、そこから完全に切り離されて人間だけでしている仕事が増えすぎてしまったことで、だからおかしくなっているんだと思います。エネルギーの補給源である自然と切り離しちゃ、ぜったいいけない。たとえば建築も、観念的になりすぎる建築家は、その土地の風土をそっちのけにして自分のつくりたいものをそこにぽんと置いてしまう。でもそれは、もろいんです。それこそ、天災にも弱い。最終的に人の心にも溶け込みません。『貧乏のススメ』(齋藤孝/ミシマ社)にも安藤さんのエピソードがありますね。彼は独学だから活字に飢えていた。

藤枝大学に行かないぶん、京大で使っている教科書を聞いて全部取り寄せて、勉強したんですよね。

三島なぞるんですよ、コルビュジェのデッサンを。まるっきり同じになるまで、何度も何度も。


「型にはまらない就活本」という根本的な矛盾

今月の一冊

『逆境を活かす!就活面接「エモロジカル理論」』(後田良輔、実務教育出版)

高木早稲田大学5年、高木加奈子です。たまたまかばんのなかに入っていた本なのですが・・・『逆境を活かす!就活面接「エモロジカル理論」』(後田良輔、実務教育出版)です。型にはまらずに自分の経験を・・・まあ型にはまっているんですけど・・・理論的な部分と感情的に相手に訴える部分を併せて話したり書いたりすることで、面接官の心に自分の人となりが届くんだということが書かれています。

就活本としてはうまくできていると思います。
でも、最初に読んだときは「おぉっ!」と思うのですが、実際にやってみると型にはまったストーリーになってしまって、結局あまり使えませんでした。


三島・・・ということで、「今月の一冊特別編・卒業式バージョン」ということで。こういう機会がないと知らない本がいっぱいあって、僕は全部読もうと思いました。本というのは出会いだから、出会ったときはしっかりと受け取るのが重要です。受け取ったら自分のものになるので、ぜひそうしてくださいね。

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