今月の一冊

第13回今月の一冊 2012年2月 今年読んだ中のナンバーワン!

収録当日は2月7日。
そしてひさしぶりの「今月の一冊」のテーマは「今年読んだ中のナンバーワン」!

まだ2月だというのに気が早いですが、みんなそれぞれ思い入れの深い本を持って来た模様。
今回はミシマ社のPOPやパネル作りを手伝ってくれている大学生の関東&関西仕掛け屋ジュニア(略して関ジュニ)も参加しました。

さて、「ナンバーワン」のナンバーワンに選ばれた本とは・・・?

(文・富田茜)

第13回 2012年2月 今年読んだ中のナンバーワン!

2012.03.07更新

三島もう2月になりましたけど、2012年最初の今月の一冊です。テーマは「今年読んだ中のナンバーワン」です。

一同よろしくお願いします。

三島それでは早速始めたいと思います。じゃいけんするよ〜。じゃい、けん、ほい!
では、関東仕掛け屋ジュニアの臼井さんから。

村上春樹は短編がいい!

第13回今月の一冊2012年2月 今年読んだ中のナンバーワン!

『レキシントンの幽霊』(村上春樹、文春文庫)

臼井今日この座談会をするとは知らずに来てしまったのですが、ちょうどさっき電車のなかで読み終わった村上春樹の『レキシントンの幽霊』(文春文庫)を紹介します。

これは高校の現代文の授業で読んでいたのですが、村上春樹が苦手だと言う友人に勧めて、自分でもひさしぶりに読みたいと思って買いました。主人公の友人の母親が亡くなったとき、友人の父親が三週間のあいだ眠り続けてしまうんです。その間は、たまに思い出したようにベットから出てきて、食べ物を「しるしみたいに口にした」という一文があるのですが、その描写がとても印象に残っていたことと、短編なので読みやすいんじゃないかと思い、友人に勧めました。

短編集なので、小学生のとき授業で読んだ『七番目の男』という津波の話も入っていて、読後感の不思議な不気味さから、これも印象に残っています。
読み返してみて、登場人物が魅力的で読みやすくて、やっぱり村上春樹の短編はいいなと思いました。

三島ちなみにそれで友だちは読めたんですか?

第13回今月の一冊 2012年2月 今年読んだ中のナンバーワン!

臼井はまりました! この本から読み始めて、村上春樹の短編をどんどん読んでいるみたいです。やっぱり長編は苦手みたいですが(苦笑)。

渡辺ものすごい付箋立ってますけど。これは気になった箇所に貼っているということですか?

臼井大学に入学した瞬間から付箋を付けることに決めていて、読んだ本には全部付けています。3色あるのですが・・・。

渡辺それぞれに意味があるんですか!?

第13回今月の一冊 2012年2月 今年読んだ中のナンバーワン!

臼井赤色の付箋は「今の自分に必要だ!」、黄色は「この比喩素晴らしい!」、青は「これ名言!」という箇所に貼っています。最近は緑色を増やして「この言葉わかんない」という箇所に貼っています。

三島素晴らしいですね。

臼井付箋を貼った箇所を色分けしてパソコンに打ち込んで、作者ごとのフォルダに入れたのを見てひとりで満足しています。更に年代順に並べたりして。

星野すごい!

三島それを聞いてどうですか、林さん。

見習いたいと思います。


トップを極めた者が語るトップのあり方

第13回今月の一冊 2012年2月 今年読んだ中のナンバーワン!

『サッカーコーチングレポート 超一流の監督分析』(小野剛、カンゼン)

渡辺では次は僕が。小野剛さんの『サッカーコーチングレポート 超一流の監督分析』(カンゼン)です。いきなり言いますが、これは名著です! サッカーの話ですが、ビジネス書みたいに仕事の参考になることも多く、これは是非読んでほしいです。

トップのなかでも更にトップのコーチがどういうメンタリティであるのかが、著者の言葉で書かれています。著者は元日本代表のコーチやサンフレッチェ広島の監督をしていた方なのでとても説得力があります。

巻末に「岡ちゃん」こと岡田武史元日本代表監督との特別対談が入ってます。「世界との戦いから見えてきた理想の監督像とは?」とありますが、やっぱりすごいですね。
わたしなりに要約しますと、トップのなかのトップはアーティストの域にさえ入っていて、方法論はあって当たり前。そこから選手、チームをどう動かしていくかということはコーチが百人いれば百通りのやり方がある。そこで最後よりどころになるのは自分のなかにあるもの・・・、といったところでしょうか。

第13回今月の一冊 2012年2月 今年読んだ中のナンバーワン!

サッカーの領域だけに留まらない広がりが本書にはあって、自分の今やっている仕事にも間違いなく示唆を与えてくれる本だと思います。

星野(将棋の)羽生さんも出てくるんでしたっけ?

渡辺岡田監督が、やっぱり羽生さんはすごい、とおっしゃっています。

星野それを聞いて気になっていたんですよね。

渡辺監督業っていうのは、最後には「人間理解」に入っていかないと天井が見えてしまうのかな、と感じました。ちなみに今季、岡田さんは著者の小野さんをヘッドコーチにして、中国のクラブチームの監督に就任したんですよ。浦和レッズのオファーを蹴って中国で新たなチャレンジを・・・。

三島それは楽しみ。


歴史を身近にあるものとして感じられる

第13回今月の一冊 2012年2月 今年読んだ中のナンバーワン!

『オオカミの護符』(小倉美惠子、新潮社)

星野次はわたしが行きます。『オオカミの護符』(小倉美惠子、新潮社)という本です。これはもう良すぎて、みんなに勧めているので「またか」感があるかもしれませんが(笑)。

偶然ですが著者がわたしと同じ川崎出身の方で、代々そこに住まれているそうです。あるとき家の庭にある蔵にオオカミのお札が貼ってあるのを見つけ、それについて調べ始めます。やがて仕事を辞めて調べる過程を映像に取り始め、映画化に至るまで追い続けます。
どんどん調べていくうちに、それが川崎だけでなく関東全域に広がる『オオカミ信仰』に繋がっていることがわかっていく、という内容です。秩父の山奥の村にお百姓さんの話を聞きに行ったりするのですが「現代にそんなことが起こるんだ」と思いました。

読者目線での感想は、わたしも同じ土地に30年弱住んでいるけれど、帰属意識みたいなのはあまりなくて、土地に根づいていない感覚のようなものが今もあります。でも、少し踏み込めば今の時代にもとても豊かな世界が広がっているということを教えてくれる本でした。「2000年の日本の歴史があって、その積み重ねのなかに自分が生きていて、直接タッチできるのは100年くらい」と、平川克美・中島岳志両先生が対談でおっしゃっていましたが、その100年、何十年を遡るだけでもこれだけのことがあるということがすごく面白かったですね。

出版に携わる人目線での感想は、こういう本を編集できる人になりたいと思いました。頑張りたいと思います。

一同おお〜。

渡辺決意表明ですね。

富田(表紙のオオカミの護符に書いてある文字を見て)この「御嶽山」は東京の山ですよね?

第13回今月の一冊 2012年2月 今年読んだ中のナンバーワン!

星野そうですね。青梅の方にある山です。関東って山があまりないので山岳信仰はなかったように思われがちですが、そんなことはないんですね。昔の人は山を大事にしていて、今でもこの地域の人たちは毎年御嶽山に詣でに行くんです。

富田御嶽山って山頂が神社ですよね。

三島山頂が神社って山は多いよね。火山口のすぐそばとか。

渡辺山岳信仰はよく聞くのですが、これはオオカミ信仰ということですか?

星野ふたつがくっついるみたいです。ニホンオオカミが生息していたであろうエリアに色んな種類のオオカミの護符があり、関東一帯に広がっているということが書いてあります。

三島昔は関東でも山が見えた、と。

星野著者もオオカミ信仰の調査に携わってから、関東に住んでいても山を意識しながら生活するようになったそうです。


「人との繋がり」の大切さに気づくヒューマンストーリー

第13回今月の一冊 2012年2月 今年読んだ中のナンバーワン!

『ラテに感謝』(マイケル・ゲイツ・ギル、ダイヤモンド社)

新居次は関ジュニの新居です。『ラテに感謝』(マイケル・ゲイツ・ギル、ダイヤモンド社)という本です。アメリカに留学していた友だちに教えてもらいました。アメリカの大手広告代理店に勤めていた白人男性がいきなりリストラされ、スターバックスで働くという実話です。

初めはけなしていたスターバックスでの仕事も、働きながら人と関わっていくなかで「人ってあったかいな」と思うようになり、人生の見方が変わっていくというストーリーです。噂によるとトム・ハンクス主演で映画化されるそうです!

三島へ〜。実話ということは本当にスターバックスで働いたってこと?

新居そうですね。だけどいわゆる自己啓発本でもなく、スターバックスの経営のすごさについてのビジネス書でもなく、スターバックスで働くようになって、お金だけしか追ってこなかった人生が変わっていくというストーリーです。

三島気になりますね。面白そう。

第13回今月の一冊 2012年2月 今年読んだ中のナンバーワン!

新居主人公は白人階級の富裕層で育っていて、心のなかでは黒人に差別意識があったりと、アメリカの格差社会を浮き彫りにするような描写もあります。これを勧めてくれた友だちも、アメリカにいると格差が目に見えてわかるから怖いと言っていました。

三島やっぱりアメリカっておかしいよね。そういう話が成り立つこと自体おかしい。土台がおかしいからこそ、変なヒューマンストーリーを過剰に求めるというか、そこがないとバランスが保てなくなるくらいいびつな社会なんだなという印象をトム・ハンクスが出てくるような映画を見る度に思ってしまう。

臼井確かに。

三島アメリカは「君と僕は違う」というところから始まるからね。でも、そういうことだけじゃないかもしれないよっていう話なんだよね?

新居はい。人と人との繋がりがやっぱり大切やって気づいた、というストーリーですね。

三島そんなこと子どもの頃から気づいとけって話ですけどね。僕はアメリカに言いたいよ。

一同(笑)


文学者の時間の過ごし方とは

第13回今月の一冊2012年2月 今年読んだ中のナンバーワン!

『忘れられる過去』(荒川洋治、朝日文庫)

新居では次、林さんお願いします。

わたしが持って来た本は荒川洋治さんの『忘れられる過去』(朝日文庫)です。
この本は3ページくらいの短編がいっぱい詰まっています。日常の小さな出来事や、詩や文学について荒川さんが考えたことが、まっすぐな視点で描かれているところがいいなと思いました。

わたしがこのなかで好きな『お祝い』という短編があります。荒川さんの知り合いでコウモリの研究をされている方がいるのですが、珍しいコウモリがいると聞けば中国の奥地にまで行ってしまう人なんです。有名な人ではないのですが、荒川さんがその人をお祝いしたいと日々思う、ということが書かれています。どんな些細なことであれ、大切な人に年に数回「おめでとう」と言うことっていいなと思いました。

他にも芥川龍之介の日記を元に、会いたい人の家を訪ねてみるという話があるのですが、結果は14回訪ねたうち8回会えて6回は会えなかったそうです。昔は携帯電話がなかったから誰かに会いにいくなら前もって準備するし、会えなくても次に会ったときに伝えたかったことを考える。昔の人はそのくらいゆっくりした時間のなかで過ごしていたということに気づきました。

詩や文学についての書評も収録されていますが、こういう日常を切り取った話の方が、わたしは好きです。

三島僕は荒川さんの一貫した態度がすごく好きですね。ひとりの文学者として「群れない」ということを徹底している人で、今の繋がりすぎている世の中に警鐘を促している。
「詩は内なる対話から生まれるものであって、他人の批判に晒されてこそ生きてくるもの。だから詩人同士で仲良く朗読会する必要はない」と言及されている記事を読んですごく感動しました。

そういう覚悟があるからこそ、林さんが言っていたような時間の過ごし方ができるんだと思う。そこから生まれた言葉は、みなの集まりから切り離されたところにいる人の言葉だからこそ深まっていくんだと思います。

臼井村上春樹さんも群れない作家ですよね。

三島「群れない」という姿勢は作家の基本だということを改めて思いますね。


詩人が描き、詩人が訳した、詩人の絵本

第13回今月の一冊 2012年2月 今年読んだ中のナンバーワン!

『フレデリック』(レオ=レオニ、好学社)

富田関東仕掛け屋ジュニアの富田です。レオ=レオニ作『フレデリック』(好学社)という絵本を持って来ました。さっき三島さんが詩人について話されていましたが、これも詩人にまつわる話です。

5匹の野ねずみたちが冬にそなえて食べ物を集めるところから始まるのですが、フレデリックというねずみだけ働かない。でもフレデリックはそういった肉体的な労働ではない、みんなに向けての働き方をする、というストーリーです。これを読めば詩人だったり、表現する人の役割が、難しい芸術論の本を読むよりもわかるはずです。

翻訳は谷川俊太郎さんです。表紙カバーの折り返しのところに谷川さんがレオ=レオニについて書かれている文章があるのですがそれもいいんです。

第13回今月の一冊 2012年2月 今年読んだ中のナンバーワン!

「絵本作家という存在が、本質的には絵かきであると同時に詩人なのだということを、その本はわたしに気づかせてくれたのです。」とあるように、この絵本の文章も詩である、つまりレオ=レオニも詩人だということを詩人の谷川さんが言っていて、翻訳もしていることに意味があると思いました。

三島重要ですね。まさに「はやくはやくっていわないで」「だいじなだいじなぼくのはこ」の原作者である益田ミリさんもそうなんですよ。この前ミリさんがインタビューで「この言葉はどうやって考えたんですか?」と聞かれたときに「この詩は〜」と答えたんです。だから「絵本は詩」というのは本質だなと思います。

富田レオ=レオニがとてもいい詩を書いてるけれど、それをそのまま翻訳できないし、文章のレイアウトもできるだけ原本のままにしたいからカットせざるをえない言葉もあった。けれど日本人は俳句のような凝縮された文章を好むからかえってふさわしい、とも書いてあって、谷川さんはやっぱりすごいなと思いました。

三島そこまで理解して翻訳してくださるなんてありがたいですね。


壮大な絵画ミステリー

第13回今月の一冊 2012年2月 今年読んだ中のナンバーワン!

『楽園のカンヴァス』(原田マハ、新潮社)

三島最後は僕ですね。

みなさん、原田マハさんを知っていますか?
彼女の略歴を見ると・・・「第一回ラブストーリー大賞受賞」と書いてあります。どうですかみなさん、この肩書き、むしろ恥ずかしいぐらいじゃないですか?
そんなラブストーリー大賞でデビューした原田マハさん、今回、『楽園のカンヴァス』(新潮社)という本を書かれましたが、川上弘美さんの『センセイの鞄』、宮部みゆきさんの『火車』、恩田陸さんの『夜のピクニック』のように、その人が大きく飛躍し、二度と越えることができないだろうと言われている代表作が、原田マハさんにおける『楽園のカンヴァス』ではないかと、わたしは思うわけです。

ページをめくってみると・・・アンリ・ルソーです。僕はルソーと言えば、ジャン・ジャック・ルソーしか知らなかったので「ルソーって絵も描いてたんや」と思ってしまいましたが(笑)。3、4ページ読む度にこのカバーの絵を見てしまうような、見事な絵画ミステリーです。

・・・と、紀伊國屋書店梅田本店の百々さんはおっしゃっていました。ここまでは引用文ですよ、みなさん!

一同(笑)

新居思いっきり百々さんじゃないですか(笑)。

三島まあ、百々さんの話を8がけしたくらいですけれども(笑)。

そこで、実際はどうだったかと言いますと・・・その通りでした。ということでわたしからは特にコメントはございません。

富田ルソーについて書かれているということですか?

第13回今月の一冊 2012年2月 今年読んだ中のナンバーワン!

三島そう。ルソーとピカソについてですね。重要な絵画の名前が随所に出てくるので、その絵がパッと思い浮かばないと想像力を持って読めないところがあるから思わず調べちゃいましたよ。この本のお陰で近世〜近代の絵画を一通り勉強できました。まあ、元々僕も画家になろうと思っていましたし。

星野え? 野球選手じゃないんですか?

三島それはそうなんやけど(笑)。

僕の感想を言うと、この作品は壮大だと思いました。ダン・ブラウンが書いたかのようなスケール感が気持ちよかったです。『ダヴィンチ・コード』とはちょっと違うけれど、ああいうような壮大なスケール感を持つ書き手が日本に、しかも女性作家でいるということが爽快で気持ちよかったですね。

***

三島これで全員終わりましたね。
では、今日紹介された本のなかで一番読みたいと思ったものを指差してください。せーの!

第13回今月の一冊 2012年2月 今年読んだ中のナンバーワン!

一同(指差し中)

三島お! 『オオカミの護符』が4票、『フレデリック』が2票、『楽園のカンヴァス』『サッカーコーチングレポート』がそれぞれ1票。

ということで、今月のミシマガ大賞は『オオカミの護符』に決定しました! おめでとうございます。ということで、今日はありがとうございました。

一同ありがとうございました。

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ミシマガ編集部

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