今月の一冊

たくさんの書店員のみなさまのご協力のもと、ついに完成した『THE BOOKS 365人の本屋さんがどうしても届けたい「この一冊」』。
巻末の書店MAPから行きつけの本屋さんのオススメ本を探したり、占いのようにパッと開いたページのオススメ本を読んでみたり、たくさんの楽しみ方ができる一冊となりました。 
今回は、自分のお誕生日の日付に紹介されている本を読もう! という企画。普段は読まないジャンルの本が当たったメンバーも多く、意外な本との出会いに大盛り上がり! ぜひみなさまも自分のお誕生日の本、読んでみてください。
全2回でお届けします。

(文:篠崎佐知子)

第14回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本(前編)

2012.09.07更新

今日は8月5日に刊行されました『THE BOOKS 365人の本屋さんがどうしても届けたい「この一冊」』の刊行記念に、みんな自分の誕生日の本を読んで話し合おう! ということで集まっていただきました。

一同よろしくお願いします!

人間ひとりの力を信じている

それでは、今回は誕生日の日付順ということで。まずは、1月生まれの方―?

第14回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本

『あなたの中のリーダーへ』(西水美恵子、英治出版)

窪田はい。1月13日生まれ、営業の窪田篤から、いかせていただきます。No.013、20ページ、西水美恵子さんの『あなたの中のリーダーへ』。神奈川県横浜市の石堂書店の書店員さん、石堂智之さんが選んでくださいました。

「今、「本気のスイッチ」入ってますか?」、『THE BOOKS』のなかのこのコピーにドキッとさせられました。著者は世界銀行の副総裁として、途上国の貧困と闘い、巨大組織の改革に取り組んできた方です。この本では、本気で動けば、何だって変えられるっていうのがひとつのテーマです。とにかくすごくって。「信念」という言葉が、とても似合う気がしました。

グッときたのは、西水さんが、女性、男女平等の働き方ということも、すごく大事にされていて、その重要性を説いているところです。女性の側だけを見るんじゃなくて、男性の側も見ていて、男性も育児休暇を取れるように考えたり。

この本を読んでいると、西水さんご自身が、自分の力をすごく信頼されているというのが伝わってきました。個人のひとりの力が、いろんなものごとを変え得るんだと信じていて、世界銀行という大きな企業でも、自分が動くことで体質を変えていけると。人間ひとりの力を信じていて、その姿勢がすごく素晴らしい方だと思いました。

第14回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本

そして、この石堂書店さんの話に戻りますが、『THE BOOKS』のなかの紹介文を読んでいると、街の小さなひとつの書店でも、社会全体、出版全体を少しでも変えられるんじゃないか、と考えながら働かれているんじゃないかなと想像しました。だからこそ、「この一冊を少しでも多くの人に伝えたい」と、この本を選ばれたのではないかと。この本を読むことで、石堂さんの思いが伝わってきた気がして、良かったです。

渡辺この本の前に、『国をつくるという仕事』も同じく英治出版から出ましたね。

三島以前、この座談会で出てんだよね。

渡辺僕がその本を紹介しました。

足立『THE BOOKS』にも選ばれてましたよね。

三島西水さん、2冊選ばれてますよね。

渡辺そうなんですよね。で、『THE BOOKS』にも書きましたが、石堂書店は、地元の著者や地元の本を大事にするという方針でやってらっしゃるのですが、なんと西水さんが妙蓮寺にご縁があるとのことで、英治出版さんと協力しながら、お店で講演会をやったそうです。もうほんと商店街のなかにある、街の本屋さんなんですけど、そこに西水さんをお呼びしてお客さんは30名くらい来たとか。

三島すごいね、それは。

渡辺石堂さんが日頃から、地元に対する熱い思いがあって、あとやっぱりね、西水さんがすごいなと思った次第です。

足立そうですよね。来てくれるっていう。

窪田この本を読んでいると、西水さんは規模の大小とは関係なく、変な言いかたかもしれませんけど、現場で動いている人をちゃんと見られている、という気がしました。石堂書店さんのご依頼を引き受けられたっていうのも納得です。

渡辺西水さんは世界銀行の副総裁だったから、その立場で世界中のリーダーたちとも会うわけですよね。例えば、ブータンのワンチュク国王ともサシで会う。世界銀行って開発途上国に融資をするわけだから、その現地に行って視察ももちろんする。だけでなく、実際に現地で暮す人々と触れ合うことが重要な仕事だという認識でいらっしゃる。そういう現地の人々の思いを汲んだ上で、リーダーとはいかにあるべきか、という部分にかんして、自分の言葉を持っている方なんだろうなと。

西水さんの文章に触れて思うのは、リーダーは能力よりも人間性みたいなものがやっぱり大事だなって。この方の本を読んでいると、自然と背筋が伸びるような感じになりますね。

三島読んでみたいと思われましたか?

足立読みたいですね!

自然に全然逆らってない

第14回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本

『ほんまにオレはアホやろか』(水木しげる、新潮文庫)

では、次は3月8日のわたしですかね。わたしは水木しげるさんの『ほんまにオレはアホやろか』という本です。

窪田これは、名著がきましたね!

こちらを紹介してくださったのは「本は人生のおやつです!!」という名前の本屋さんの坂上(さかうえ)友紀さんです。3月8日は水木しげるさんの誕生日なので、この日を指定されたようです。

この本は、水木しげるさんがご自身で書かれた自伝です。水木さんもすごいのですが、この時代自体もすごかったんだなぁとわかります。大正11年生まれなので、青春時代と戦争は重なっているし、世の中全部もまだゆるくて、学校に入ったけど出席とかあまり取ってなくて、なんかいつもフラーッといなくなったりとか、入れないと思ってた美術学校になんとなく行けたとか・・・。

三島(笑)。

なんかよくわかんないけど、ほんとに!? みたいな時代のゆるさもさることながら、とにかく、水木さんがマイペースなんです。「他人と体内時計(生物時計)ともいうべきものがちがうのだ」と言い切って、遅刻してゆうゆうと登校する。勤めたところはことごとくクビ。でもぜんぜんめげない。自然をみて「落第なんていう、そんな小さい言葉はないのだ。」「自然は巨大でさわやかだ」とおっしゃっています。先生が言うことをぜんぶ聞く必要はないと。

しかも感覚がユニークで、不思議なところに視点があるんです。興味があるところは詳しく記述されて、興味がないところはあっさりとしたものです。
たとえば戦争で南の島へ行っているときに「敵が上陸してきて、敵機が爆撃してきたのだ。目の前がぴかっと光って、あーっといったら、腕の負傷で切断である。二等兵の・・・」という自分の腕が切断したっていうエピソードが、あまりにもふつうに書かれていて、この一行しかないんですよ。

一同(笑)

それを、すごいショックだったとか、絵がすごく好きだったのに描けるだろうかとか心配するのではなくて、基本的スタンスが「運命をすべて受け入れて」いるんです。腕なくなった。あ、ないのね。学校に行こうとしたら、受験資格がない。じゃあ、そこはぼくの場所じゃないんだ、と。常に平常心。そこがすごく素晴らしいと思いました。

水木さんはものすごく自分を信じていて、坂上さんの紹介文でもでてたんですけど、「好きなことを一生懸命、ただ、それだけ」やればいいっていうのを、ただひたすら、水木さんは言ってるんですね。
では、本当に好きなことだけをしてるかというとそうではなくて、本当に売れない、貧乏時代のエピソードも壮絶で、いらないって言われているのに漫画を書いて持っていって、なんとかお金にしてくれ、と頼み込んだり、質屋に通ったり、すごく苦労されてるんです。好きなことをただ、一生懸命の言葉の捉え方を間違っちゃいけないな、と思いました。

「この大地の中に、木の霊、草の霊、山の霊と、この踊りさえあれば、なにもいらない感じ」と書かれた部分があるのですが、水木さんは非常にプリミティブな感覚を持っていて、そこはやはり、どこかわたしと似ていると感じた感覚がありました。

あとがきの前、最後に「人に遅れたからといって、おどおどすることはない。人間は元来、鳥、獣、虫けらとまったく同じものだ」という言葉で締めくくられているんですけど「そうだよね!」と共感して、なんか読んだ後に、はぁーっ! 良かったと思う、すごいいい一冊に出会えました。
『THE BOOKS』に載っていなかったとしても、自分と誕生日が一緒の作家を調べて読んでみたら、すごく面白い気がします。

渡辺私が本屋さんだったらその本100冊注文したくなった! いい営業トークでした。(笑)

あははは(笑)。いやほんと、読むと元気になる感じです。

三島巨匠はデカいね。自分にこだわらないっていうのが素晴らしいですね。

自然に全然逆らってないんですよ。何も欲しがってないし、何も憂いてなくて、流れに乗りつつ、でも、どうでもいいというわけでもなくて、すごく自然・・・。

足立めっちゃ林さんに、ヒットしたなって感じですね。

哲学書への入口の一冊がこの本で良かった

では、お次は?

第14回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本

『信頼』(アルフォンソ・リンギス、青土社)

亜希子はい。3月17日、三島亜希子です。タイトルは『信頼』。著者は、アルフォンソ・リンギスさん、哲学者の方です。

足立「哲学書に涙せよ!」ってコピーが書いてありますね。

亜希子このコピーが素晴らしくて。それを見たときに、この本は絶対に読みたいと思いました。紹介されたのは、フタバ図書MEGA中筋店の芝健太郎さんです。

哲学っていうのは、すごく興味のある分野だったんですけど、あえて避けてきたというか、今まであまり読んで来なかったんです。読んで来なかった理由というのは、哲学って、言葉にしなくていいことをあえて言葉にしたり(笑)、形ないものを形で表そうとしたりとか、結局は自分に返るんじゃないかという思い込みがあって、なかなか、触れるきっかけがないなと思ってたときに、ちょうど誕生日がこの本だったので、これはと思って読み始めました。

読んで思ったのは、哲学書への入口の一冊がこの本で良かったなと。この『信頼』という本は、机上の哲学ではなくて、このアルフォンソ・リンギスさんが実際に世界中を旅されていて、わりと辺鄙なところとか、命の危険にさらされるような場所に行って、そこで実際に、生きるということを通じて、"信頼"、"勇気"であるとか、いろんなことを言葉にされているんです。これを読んですごくなるほどと思って。

第14回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本

哲学は、自分のなかから出るんじゃないかという思い込みが間違っていたなと思った一文があったので、読みます。勇気と信頼についてです。

「勇気と信頼には、共通点がある、それは、どちらもイメージや表象に関連した態度ではないことだ。勇気という力は、計画や期待や希望が消失するときに発生し、不動のものとなる。勇気は、湧きあがり、確固たるものとなり、ひとりでに大きくなる。信頼という力は、死が抱く動機と同じように、その動機を知りえないだれかに対して湧きあがり、しがみつく。知らない相手を信頼するには、勇気が必要だ。信頼には、浮き立つ気分があり、それもひとりでに増大する。この浮き立つ気分の中にある信頼の力と勇気の力を分けることはできない。」

この本のオビに、「信頼とは、未知なるものだ」とあるんですけど、「信頼っていうものは、相手の内部を知ることではなくて、知らないものと触れて、そこに身を委ねるというときに生まれるんだ」という言葉がすごく私のなかで、腑に落ちたというか・・・。

それは飛び込んだ人でないと、出ない言葉なんだろうなと。これがタイトルである理由もしっくりしきたんです。内容は、旅を通じて哲学をされるというもので、私の頭では、まだちょっと上手く言葉として表せないんですが、すごく大事なことを教えてもらった気がしています。学ぶべき言葉が、この本のなかに、まだまだ詰まっていて。一回じゃなくて、一生かけて、そのひとつの言葉の意味っていうものを学んでいこうっていう気持ちにさせてくれた一冊でした。

これをみんなに紹介するときに、あまりにも、私は言葉足らずだと思ったので、芝さんの、「哲学書に涙せよ!」のあとの、紹介文をもう一度読んだらすごくしっくりきたので、最後に紹介しようと思います。

「この本を読んだときの高揚感は忘れられない、いま、人とのつながりとか、絆という言葉を聞かない日はない。それは逆にいうと人間関係が薄くなっている社会ですよ、ということなのだろう。信頼とは、リンギスは言う。「信頼とは、意思をむき出しにして、相手の知りえない核に突き進むことではない。マダガスカルのジャングルで現地の若者に道を案内される。彼について行って、自分が無事でいられるか。『信頼とは危険を笑う』そして『信頼とは未知なることに跳び込むこと』」だと。自分ひとりではだれも生きていけない。信頼とは「勇気にあふれ感情的で欲情的」なもの。よし、旅にでよう。そう読む者を突き動かす力を持つ。哲学の本だが、読みやすく、リンギスが隣で話しかけてくれるような本だ。」

まさに、この一文が、この本の私もいちばん感じた部分です。ちょっとまだ難しくて、みなさんに伝える域まで、達してないんですけど、これは何年もかけて、理解していきたいなって思う本でした。

三島面白そうだね。

亜希子最初、難しいなと思ったんだけど、こういう言葉なら、知りたかったっていう言葉が詰まっているというか、形ないものを表すっていうのは、こういうことなんだなって思いました。

窪田この本を紹介してくださった芝さんですが、あれだけ本を読んでいる芝さんですから、こういう本を選んでくれて、ほんとに良かった。芝さんにも直接お伝えしたんですけど、『THE BOOKS』に重石を入れてくださったんだなって。なかなかこういう本は出てこない。

三島入っててすごいいいよね。自分では見つけられないもんね。

亜希子この本も探すのも大変やったんですよ。

三島俺も気になって、相当、京都中の本屋を回ったけど、なかった。そういう一冊ですね。

渡辺てことはこれが棚に入っている本屋は、なかなかいい本屋なんじゃないんですか。

三島こういう哲学書って、もう一回ちゃんと読まれるといいよね。

伊坂作品にはタランティーノの影響がある!?

では、次は4月生まれの方。

ジュニア林(仕掛け屋ジュニアの林さん) はい。

三島誕生日本じゃないんですよね。

第14回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本

『重力ピエロ』(伊坂幸太郎、新潮社)

ジュニア林私は伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』を紹介します。読んだのは2年ぐらい前で、初めて伊坂幸太郎さんの本を読んで。友達が紹介してくれました。

三島伊坂本の最初の本なんですね。

ジュニア林はじめに「春が二階から落ちてきた」という、文章があるんですけど、春は主人公の弟なんですが、そこからわけがわからなくなって引き込まれるような。どんどんどんどん読める本です。それからまた伊坂さんのいろんな本を友達に借りたりとか、買ったりして読んでいました。伊坂さんの本って、いろんな人が繋がりながら、物語が展開していくんですけど、みんながちょっとずつ繋がっていくところがすごく面白くて、とてもいい本だなって思いました。

三島伊坂さんの作品って、女性にすごく人気があるよね。

第14回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本

ジュニア林本自体が全部繋がっているようになっていて。

三島そうそうそう、たまに出てきよんねんな。

渡辺面白いって思うと、また違う本も読みたくなるし、そういう作家さんがいるっていいですよね。

平田伊坂さん、もう一個選ばれていますよね。『砂漠』。

三島『砂漠』ね。「ミシマ社の本屋さん」の貸本に入っましたよね。

亜希子伊坂幸太郎さんは、確かに一冊読んだら、一気に全部読みたくなる。

三島伊坂幸太郎さんを読んだときに思ったのは、これまでのミステリーとか、エンターテイメント作品とは、もうなんか全然違う次元に入ったなと。勝手な想像なんですが、タランティーノの『パルプ・フィクション』の影響があるような気がしてます。構成の仕方とか。

というより、ぼくの世代で、『パルプ・フィクション』の影響を受けていない人は少ないと思います。僕が、高校、大学のクリエイティブなことへの関心がいちばんすごいとき、この道に進もうとしているとき、だから、伊坂さんは、仙台の大学に行っているときで、たぶん、その時期に『パルプ・フィクション』とか、『ジャッキー・ブラウン』とか、そういうのが出てきました。ああいう映画が世界中で流行った。全然、タランティーノとは違うけれど、『ビフォア・ザ・レイン』とか。

第14回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本

つまり、小説の作り方が、一個一個、ひも解かれていって、最後パッと合ってっていう、直線的なやつじゃなくて、螺旋的に、今自分がどこにいるのかよくわかんない、そこを解明していったら、また、ぐるっと戻って同じ位置に居たりとか。それがいろんな作品で、また繋がるようにしていったりとか、なんかそういうのが、映画的に作られているなというか。よく三部仕立てとかするじゃん。登場人物を変えて、三部の最後に、一部の主人公と二部の主人公とか全部繋がってみたりとかさ、ああいう作り方っていうのは、いろいろ、オムニバス形式、『パルプ・フィクション』とかも、一章、二章、三章あって、それが最後、あれどうなっているの? って感じで終わるわけです。

星野『パルプ・フィクション』を観たことないから、それが観たくなりました。

三島『パルプ・フィクション』は90年代に最もクリエイターに影響を与えた映画。

渡辺僕も好きなんですよー。最高ですよね。

三島誰もが、タランティーノっていう(笑)。『レザボア・ドッグス』っていう映画にはじまり、だからそれで、彼は深作欣二をはじめ、日本のヤクザ映画を最高にリスペクトしてるっていうところから、『キル・ビル』とか、出てくるわけです。だけど、タランティーノがいちばんのってたのが、『パルプ・フィクション』。かっこよすぎる。音楽とか、サントラとかも全部持ってます。

ジュニア林なるほど。そうなんですね。ありがとうございました。

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後編へ続きます!

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