今月の一冊

たくさんの書店員のみなさまのご協力のもと、ついに完成した『THE BOOKS 365人の本屋さんがどうしても届けたい「この一冊」』。
巻末の書店MAPから行きつけの本屋さんのオススメ本を探したり、占いのようにパッと開いたページのオススメ本を読んでみたり、たくさんの楽しみ方ができる一冊となりました。 
今回は、自分のお誕生日の日付に紹介されている本を読もう! という企画。普段は読まないジャンルの本が当たったメンバーも多く、意外な本との出会いに大盛り上がり! ぜひみなさまも自分のお誕生日の本、読んでみてください。

前編はこちら

(文:篠崎佐知子)

第15回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本(後編)

2012.09.18更新

沖縄の人たちの、ひとつの戦いの形

じゃあ、次、5月生まれの方、星野さん。

第14回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本

『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること――沖縄・米軍基地観光ガイド』(須田慎太郎 写真、矢部宏治 文、前泊博盛 監修、書籍情報社)

星野私は5月15日の『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること――沖縄・米軍基地観光ガイド』という本です。

5月15日が沖縄本土復帰記念日ということで、選んでくださったのは、ジュンク堂書店天満橋店の中村明香さんです。
これも、本当によく選んでくださったなという本で、『THE BOOKS』がなかったら、出会えてなかった一冊です。

基地の写真をメインにした観光ガイドブックで、これがすごく面白い。いちばんこの本を象徴していると思ったエピソードは、基地の写真って、法律によって撮っていけないものなど決められていて、間違えると懲役などの罪になってしまうそうなんです。この本をつくったのは東京の方たちなのですが、沖縄の人たちに聞くと、なぜか絶好の違反にならないスポットをみんな知っていて、親切に教えてくれる。

で、途中からなんでだろう? と不思議に思い始めて、そのうちそれは「基地の近くに住む人たちの暗黙の共同作業であり、ひとつの戦いの形なのだ」と気づくのですね。長年基地の危険と隣り合わせで生きるなかで、基地を見わたせるポイントを見つけて、監視してきた。沖縄の人たちの基地に対する思いの、すごく象徴的なエピソードだなと。

三島日本人として、知っておくべきですよね。こういうことを見ずに、ぼくたち本土の人たちは生活してるけど、沖縄は日々これらに接しているわけですから。

足立逆に、著者が沖縄の人じゃないってのが良かったのかも知れないですね。

星野そうですね。フラットな目で、報告というか、現状を知らせてくれるっていう。

三島沖縄八景・・・最後に(笑)。

第14回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本

星野一応というのも変ですが、観光ガイドなので、観光スポットとか、バスの使い方とかも載っています。

足立すごい! めちゃめちゃ実用的じゃないですか!?(笑) 

三島「ペリーはなぜ、最初に那覇に来たのか」

星野ペリーってアメリカから、太平洋を渡ってきた印象があるんですけど、そうじゃなくて、反対側から来て、沖縄に最初に上陸したんだという話で。

足立えっ!? そうなんですか? 知らなかったです。アメリカから浦賀に直行したのかと思っていました。

星野反対側のアフリカの方から回って来て、沖縄に日本に初めて上陸していて、「ペルリ提督上陸之地」という石碑が立っている。そういう知らなかったエピソード満載で、ほんとに面白かったです。

足立それだけの情報が詰まっていて、351ページで1300円って、安いですよね。それもオールカラー。

平田ちなみに、私は、来月沖縄行きます(笑)。

読まなきゃ。

渡辺基地の場所が地図で色分けして載ってましたけど、結構衝撃的ですね。結構な面積取ってますね・・・。知りませんでした。

星野アジア・太平洋地域で最大の弾薬庫も沖縄にあるんです。あ、なんかすごく軍事に詳しい人の解説のようになってきましたが(汗)

一同(笑)

沖縄に行く人はぜひ。ありがとうございました。

原点を思い出させる、力のある本

では、次は6月の方?

第14回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本

『二十歳の原点』(高野悦子、新潮文庫)

三島私、6月24日。高野悦子。"二十歳の原点"このタイトルなんて読みます? 「はたちのげんてん」と思いきや、「にじゅっさいのげんてん」。ちなみに、『THE BOOKS』の初版では、「はたちのげんてん」と思って、索引は、は行に入っております。2刷から、な行に、移ってますので、大変失礼しました。ということを申し上げたいです・・・。

内容ですが、学生運動の時代です。思いっきりね。学生運動っていう、全共闘世代という単語しか知らないけれど、いったいどういうふうなことが行われていたのか。

しかも、その渦中にいたらどうだったのかということの生の声がすべて詰まっている。

この高野さんという人は、立命館大学に入って、東大紛争があって、翌年ぐらいのときに、東京から、だんだん火の粉が飛んでくるわけです。京大に飛んで、立命館大学。彼女はもともと、栃木出身なんですが、途中実家に帰って、息抜きとかするんです。京都にいて、学生とは何かということとかを、日々悶々と考えていて、どんどんどんどん危険な方向に行っていて、たまに一度、実家に帰ったときに、でもやっぱり、生きるってことだってなるんだけど、また京都に戻ってくると、日々、とにかく自活だ、というふうになっていく。

"独立、独立"みたいなふうになると、親からの仕送りに頼らずに、生きていく。
でも、ひとり暮らしをしていて、女性的なところも日々の日記が綴られているんだけれども、とにかく、恋人がほしいとか(笑)。

足立えぇーーー!? 意外なんですけど。

第14回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本

三島仮想恋人とかをつくって、バイト先の京都国際ホテルの、ウェイトレスとかをやるんだけども、そうすると、そこの一応、社員的なポジションで20代後半ぐらいの男性に結構勝手な妄想恋愛をしていて(笑)、それとかも綴っていて・・・。

足立女子ですね。

三島でも、その翌日の日記に、奴も、結局はブルジョアだ! みたいな(笑)。

一同(笑)

三島一方で、ここまで、ストイックに考えるかって、ぱっと開けたページとかで、「英語を仏語を学べ 料理を学べ 親からの金は住居関係費のみに使おう。今月はあと2000円しかないが何とかやりぬこう。学生として私は何をやるべきなのか。学校側が44年のプログラムを何にも示してない以上、今授業料を払いこむことはない。中核なり、社学同のデモの隊列に加わった以上、それはその組織とのかかわりを意味する。留置所に入るには独りでもできる。やるぞお ぼかあ闘いますぞお」という。

足立想像したものと全然違う本ですね。

三島絶対に資本家たちに、おもねったら駄目だという価値観のなかで日々、生きているわけですよ。
だけど日々生きていくためにはお金は必要で、そのためにはバイトをする、バイト先の大元の企業は大資本家が経営していたりして。結局、自分はその一員。でもそれを、煩悶を日々するわけ。そういうことに対して、日々直視しながら生きていくというような。

ベルリンの壁が崩壊して以降に、大学生、社会人になったりしている僕たちと時代状況がまったく違う。だから、それを日々、すべてそこを抜きに生きるってことは、やっぱり、自分の何か閉ざしていた見るべきものを見ないで、卑怯者だという思いが常にあるんでしょうね。

そこで、煩悶し続けて、最後、6月24日、鉄道自殺をするわけです。もちろん、この日記には、その部分は書いていませんが。私の誕生日と高野さんの命日は同じっていうことでした。

直前までって、日記はいつまで綴られているんですか?

三島日記は6月22日。結構、最後とか、強烈。「また、朝がやってきた。19日以来の、このどうしようもない感情、うさ晴らしに酔うだけ酔って、すべてを嘔吐し忘れた方がよかったのかもしれない」

何があったのでしょう・・・。

三島その後に、詩を書いています。

「生きてる 生きてる 生きている 
バリケードという腹の中で 友と語るという清涼飲料をのみ デモとアジ アジビラ 路上に散乱するアジビラの中で 風に吹きとび 舞っているアジビラの中で 独り 冷たいアスファルトにすわり 煙草の煙をながめ 生きている イキテイル 
機動隊になぐられ 黒い血が衣服を染めよごしても でも、それは非現実なのか! おまえは それを非現実というのか! しかし何といわれようと 私は人を信じてはいけないのだ!
警察官総数八万四千人 十万の人をもってすれば警察官は打ち破れる 自衛隊の捜査官二十五万人 三十万人の人をもってすれば自衛隊をうち破れる しかし その十万人の人 三十万人の人とは一体何なのだ」

すごい。女性ですよね? なんか思考回路が特異ですね。

三島この日の日記は長く、その後にこんなことも書いてます。
「今や何ものも信じない。己自身もだ。この気持は、何ということはない。空っぽの満足の空間とでも、何とでも名付けてよい、そのものなのだ。ものなのかどうかもわからぬ。」
「独りである心強さも寂しさも感じないのだ。彼が静かに部屋で寝息を立てていると思ったところで、一体それが何なのか。あるいは彼女といっしょに肉体を結び合っていたところで。もし私が彼といっしょに「燃える狐」の情感をたぎらかせていたとしたら」

ええ~

三島面白いんです。突然、空想の彼が出てきて。

足立なんか、世界がすごく凝縮されているんですね。

三島水木しげるさんの広大な宇宙と逆かもしれないし、つきつめた先は一緒と言えるかもしれない。
ただ、本人もときどき自覚していて、「駄目だ、自分はこんなちっぽけなところにとどまっていちゃ。もっと広い世界あるのに」とかっていう自制の言葉も残している。

足立高野さんが『信頼』の本とか、読んだら、全然違う人生を歩んでそうですよね・・・。

亜希子確かに・・・。

この本を選んだ山下書店の東銀座店古川努さんは、これを読んで、この本を購入した本屋でバイトをはじめたことによって、現在に至る書店員の原点になったというふうに書かれていて、そういう本なのかなと思っていたんですよ。

渡辺なんかね。もうちょっと前向きな感じの本かと思った。

三島いや、でもね・・・。前向き・・・ではないか(苦笑)。

ただ、いろいろごまかそうとしていることに対して、ここまで向き合っている人がいるっていうのは、「あ、こういう時代が自分のなかにもあったな」っていう意味での、そういう原点を思い出させる、力のある本です。

渡辺山下書店の古川さんも90年頃に、学生なのに学校にいかないで、不精な生活を送っていたと。その私の心を動かした一冊っていう感じなので、高野さんがすごい向き合ってて、自分は、なんか・・・みたいなのがあったんですかね。

星野平川先生も俺たちの世代はみんな読んでるって仰っていた気がします。

亜希子世代を象徴する本なんでしょうね。

三島めっちゃ頭いいよ。すごい、こんなこと文章にできるんだっていうぐらい、それこそ、哲学的な。

亜希子(写真を見て)きれい。

渡辺なんかきれいな方ですね。

三島本人はさ、「私は美人で、もっと鼻がつぶれてたらいいのに」とか。

亜希子嫌味じゃなく、本当にそう思ってはるんだね。

足立いろんな思考が一回りした後の発言な気がしますね。

渡辺本書とあわせて、あゆみBOOKS早稲田店の寺田俊一郎さんが挙げたこの一冊、小熊英二さんの『1986(上)―若者たちの叛乱とその背景』も読めば、この時代の空気感がさらに理解できるかもしれないですね。

人生でいちばん読み返した本

三島じゃあ、次お願いします。

第14回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本

『きらきらひかる』(江國香織、新潮文庫)

渡辺じゃあ私。7月20日は、江國香織さんの『きらきらひかる』でした。

平田えー! 私、人生でいちばん読み返した本です! 風呂でも読みまくっているので、カバーが破れて、ヘロヘロになって、破壊寸前です(笑)。

三島それを聞いて、渡辺さん?

渡辺いやぁ、最初は読むのが正直しんどかった(笑)。私、いわゆる恋愛小説をほとんど読んだことがなくって。でも途中からは、スルスル入ってきましたよ。これは簡単にいうと、ちょっと変わった夫婦の話です。シチュエーションが変なんです。旦那の睦月はホモで恋人アリ、奥さんの笑子はアル中。そんなふたりがそれぞれ許し合って結婚したのだったが・・・。という話なんです。

この文庫が出た1994年に私は18歳です。そのころに読んでいたら、もっとふたりの気持ちに感情移入できた部分もあるかもしれないなと思いつつ、でも、昔の自分は結婚生活みたいなのも経験ないし、ちょっとわからない部分も出てきただろうとは思いますが。

第14回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本

読んでいて感じたのは、男女に限らず人と人とのあいだって、相手に優しさのつもりでなにかをやってあげても、その相手はすごいそのことで傷ついたりすることもあると思うんですよ。で、私は最近そういうものに対して非常に鈍感になっちゃってたんだけど(笑)、あ、そういうこともあったよなって。自分も傷つけたことがあるし、なんか傷つけられたこともあったよなあ、と、そんなことを思い出しました。

恋愛に限らず、そんなつもりじゃなかったのに、ちょっと気持ちがすれ違っちゃうみたいなことを江國さんが上手に書かれていて。

平田その通りなんですよね。そこが、テーマというか。人に優しくしたつもりでも、相手はそれを望んでるんじゃないみたいな、そういうじれったい切なさがすごいいい感じで書かれてて。確かこれを買ったのは、私13歳の時です。このころ本当に思春期真っ盛りだったので、何度これを読んで泣いたか。この主人公のアル中の笑子ちゃんっていうのが、ほんとめちゃくちゃな子なんですけど、すごく感情移入してしまったというか、上手く言えないですけど。

渡辺13歳で読んだんですね! 僕なんて36歳で今読みましたよ(笑)。ええ、面白かったですよ。

三島ちょっと読みたくなった。

入手がむちゃくちゃ大変でした

三島じゃあ、次は平田さん。

第14回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本

『月刊ビル』(BMC)

平田私は、7月22日の『月刊ビル』です。入手がむちゃくちゃ大変でした(笑)。紹介いただいたのは、Calo Bookshop & Cafeの石川あき子さん。手書きコメントが「はみだすビル愛があなたも幸せに!」。よくわからんなと思って。

一同(笑)

平田このBMC(ビルマニアカフェ)という、昭和のビルが大好きみたいな人たちが、不定期で出している『月刊ビル』の特別号総力特集。総力特集なのに、こんなに薄い(笑)。
これが千日前にある味園(みその)という、レジャービルなんですけど、それを解説しています。

第14回 2012年8月 『THE BOOKS』刊行特別企画 自分のお誕生日の本

(本を広げて)例えば、これは500人が一度に宴会できるホール。こっちはキャバレーユニバースという千人の客が入るところ。ガーッと踊り子さんたちが台に乗って降りてくる。

三島大阪人の文化やな。

足立なんかちょっと行ってみたい。

平田いちばんびっくりしたのが、このビル、サウナが入っているんですよね。天井には、このビル特製の赤いキラキラ灰皿がなぜか埋め込まれてる(笑)。

三島狂ってるな、やっぱな。大阪城って、基本的に太閤秀吉の晩年、狂った後の、建物で。秀吉が全盛期じゃないときに入っているから、狂っている。

話変わるけど、赤瀬川原平さんの『千利休――無言の前衛』って本を読んだの。寄藤文平さんがとにかく、自分のなかの何番の本だっていうから。そこで、赤瀬川さんは、すごい仮説、暴論を立ててはるんやけど、おそらく太閤秀吉は、あの頃世界中から、貢物があって、そのなかには、世界中から女性の貢物もあっただろうと(笑)。で、おそらくそれで、性病にかかって脳みそがやられてたんだと。

で、その晩年、息子秀次を殺しただだけじゃなくて、一家全員39人、彼の周りの人全員皆殺しにするんだけどさ、それと、やっとつくった聚楽第を全部破壊するという。とにかく、ありとあらゆるめちゃくちゃなことを繰り返していくんだけど、自分の正妻と、淀殿のどちらかを家康の妻にしたいとか言いだしたり、その話は流れるんだけどさ。大阪城とかって、秀吉の狂ったときのすべて凝縮した場所として残ったんだと思う。そのビル、そうとしか思えへん(笑)。

平田狂ってますよね。ここは社長の志井銀次郎さんという人がつくったビルで、この人の趣味が満載のビルらしくて。車がすごい好きで、キャバレーのボックスシートにクライスラーの方向指示器のセットランプを使ったとか。なんじゃそりゃ? みたいな(笑)。

渡辺この方、まさか、秀吉なんじゃないんですか。

足立生まれ変わりかもしれないですね。

三島こういう人たち大阪に多いで。

平田この本には、ビルの電気職の人とかもみんな社長のことを「オヤジ」と言ってみんなで楽しくやっていましたというエピソードも書いてあって。すごい悪趣味って言われると思うんですけど、でも、なんとなく地元愛というか、これが大阪やねん! みたいな。

三島そうやねん。

平田そういう感じで楽しく読みました。大阪に帰ったらいつか行ってみたいです。

三島行ってみたいな。

この本の誕生日が7月22日ということでこの日なんですね。『THE BOOKS』で取り上げなかったら、出会わなかった本ですよね。

『THE BOOKS 365人の本屋さんがどうしても届けたい「この一冊」』を片手に、自分の誕生日の本も読むのも、面白いですね。
今日はみなさん、ありがとうございました。

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