高松こんまい通信

はじめまして、2010年11月に寺子屋ミシマ社を行ったROOTS BOOKSの小西と申します。

私が住むマチは、讃岐うどんでおなじみ、日本一こんまい(=小さい)香川県にある高松市というところです。どのくらい"こんまい"かというと、中心生活圏のほぼすべてが山手線のなかに納まるくらい。約4×20㎞の四角のなかに、海があって、商店街や百貨店があって、オフィス街があって、美術館や病院や市役所があって、住宅地があって、山もある。

そんな箱庭のようなマチで、昨年5月、小さなローカル出版社を立ち上げました。出版社といっても出版経験はゼロ(!)。当然のごとく問題山積の日々ですが、それでも毎日笑って過ごせるのはこの"こんまいマチ"のお陰。マチも、会社も、小さいけれど、その分、人の顔がよく見える。そんな新米出版社とこんまいマチの日常を、スタッフ三村とふたりでご紹介します。

第1回 出版経験ゼロ、でも出版社つくりました。

2011.01.14更新

新米出版社編(vol.1)――産直みたいな出版社

「出版社をつくる」ことについては、すでに三島社長が「ミシマ社の話」で日々熱く語っておられますが、三島社長のように、ある日、目が覚めた瞬間「そうだ出版社をつくろう!」と閃く人はなかなかいないもの(詳しくは「ミシマ社の話」を)。私の場合もそんなミラクルがあったわけではなく、ほんの一年前まで、毎回ミシマガジンを楽しみしている一読者に過ぎませんでした。ただひとつだけ、ず~っと"不満"に思っていることはあったんです。

それは、本屋さんに「地元の人が書いた本がない」こと。おそらく東京以外にお住まいの方には当たり前のことかもしれません。「それが何か?」って思う人も多いと思います。それでもなんとかこのモヤモヤをお伝えしたいので、やや(かなり?)強引に例えますと・・・。

ある日、本屋さんにある本がぜんぶ外国の人が書いた、あるいは出版したものになったと想像してみてください。店頭にはハイセンスで美しい装丁の本が並び、世界中の最新情報が溢れています。各国の著者たちが提示する多様なものの見方は大いに私たちの世界を広げ、考え方や生き方の新しい"ものさし"をつくってくれることでしょう。それ自体はとっても素晴らしいことです。でもそればかりになると、たまには同じ日本人が書いた本も読んでみたいって思う人もいるかもしれません。どんなに優れた"ものさし"でも"借り物のものさし"ではどうもサイズがあわないってことがあります。何より外ばかり見ていると、だんだん自分の根っこがわからなくなってくるんですね。

そんなことを悶々考えていた頃、ある時取材で知り合った地元農家さんからこんな話を聞きました。昔はみんな、その土地で採れたものを食べていたから、いつ何が採れて、何が美味しいかをよく知っていたけど、今はほとんど県外に出荷するもんだから、スーパーに並んでいる野菜の心配はするけど、自分ちの隣の畑には誰も興味を持たないって。

もしかしたら私も同じことをしているのかも? って思いました。自分が暮らしているマチのことよりも、どこか遠い所の出来事に囲まれて日々暮らしているんじゃないかって。でもその土地に暮らすしあわせは、その土地を知ることからしか始まらない。それなら、私のマチにも出版社がいるじゃん! ってことで現在に至るわけです。最後はかなり強引に飛躍しましたが(苦笑)、めざすは産直みたいな出版社、この先どうなりますやら。(小西)

「こんまいマチ案内」編(vol.1)――南珈琲店のこと

高松こんまい通信

高松の中心商店街にある「南珈琲店」は、今年で創業36年目。年中無休で朝の7時から夜の8時まで、マスターが一杯ずつ点てる珈琲を求めて、ひっきりなしにお客さんがやってきます。

その半数以上はマチで働く人たち。散髪屋さん、焼き鳥屋さん、ホルモン焼き屋さん、洋服屋さん、割烹のママさん、高校生、ピアノの先生、お医者さん・・・。

いろいろな人が珈琲を飲みにきては、カウンター越しにマチの匂いを残して帰ります。

大学卒業後しばらくして香川にもどった私は、この店にお客として通ううち、アルバイトとして働き始めるようになりました。 

「当たり前のことを当たり前にしてくれたらいいからね」

バイト初日、マスターからいわれた言葉はとてもシンプルなものでした。お客様の注文を聞いて、出来上がった珈琲をお客様のもとへ運ぶ。たしかに"当たり前"のことです。

高松こんまい通信

南珈琲店のメニューは、珈琲、紅茶、ミルク、生ジュースに食べ物はトーストのみ。これに夏は珈琲ゼリーが加わります。わずか数種類のメニューですから伝票はありません。よく見て、よく聞いて。ウエイトレスは誰が何をたのんだかをすべて把握しておかなければなりません。

「毎日同じように見えて、少しずつ違うからね」。

マスターの口癖どおり、いつもはバタートーストを注文する人がジャムトーストをたのむ日があります。アイスコーヒーも、砂糖あり、砂糖少なめ、砂糖なし、砂糖別とお客様によって色々。また同じお客様でも、おひとりの時と恋人といらっしゃる時では注文の内容がちょっぴり異なったり・・・。難しくもなければ、簡単でもない珈琲店の仕事。それを36年間休まず続けてきたマスターの言葉は、ときに長年修行を積んだお坊さんのようでもあります。

また、こうして一日の大半を南珈琲店で過ごしていると、店にいながらマチの様子がわかるようになります。

朝は出勤前の会社員の方がモーニングを食べに。入れ替わるようにカウンターに近所のご飯屋の女将さんたちが並ぶと、いつもの井戸端会議が始まります。制服姿のOLさんが来はじめたらお昼のサイン。やがて食後の珈琲を求めるサラリーマンで満席になり、それが終わると今度は飲み屋の店主さんたちが休憩にやってくる。

「雨が降ってきたで」、「今日は○○商店街でイベントしよるわ」、「この天ぷらあげるけん(香川では蒲鉾の平天のことを「天ぷら」と呼びます)、ここの美味しいんよ」・・・。小さな珈琲店から垣間見えるマチの姿は、人が動き、流れて、刻一刻と留まることがなく、まるで生き物のようです。

今、私が働いているROOTS BOOKSの事務所は、こんな暮らしの匂いがする下町のど真ん中。ここでも日々、マチの声が聞こえてきます。(三村)

第1回こんまい通信

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ROOTS BOOKSルーツブックス

日本で一番小さな県、香川県の高松市にある出版社。
本は、考え方や生き方の「ものさし」をつくるものだから。
本という媒体を通して、借り物ではない自分たち(香川)のものさしをつくって行きたいと思います。

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