高松こんまい通信

第12回 サーカスが、はじまる。

2011.06.23更新

「こんまいマチ案内」編(vol.6)――サーカス堂ふなんびゅるのこと

「小さくても一人前」。ROOTS BOOKSの合い言葉です。どんなに小さなマチの小さな出版社だとしても、根っこがちゃんと張られた本をつくることができれば、世界中、どんなマチに行っても、言葉の通じない誰に会っても通用するはず。そんな想いでROOTS BOOKSは日々、本づくりを行っています。

第12回高松こんまい通信

ある春の日、片原町のセレクトショップ・ルビー商会の奥に、小さなデスクと本棚が現れました。仕事帰りに立ち寄っても誰もおらず、何をするところかわかりません。デスクの前の立て看板に「サーカス堂ふなんびゅる」とありました。

サーカス???

ルビー商会の方にたずねてみると、担当の方は11時〜14時ごろまで(日・月曜日以外)いらっしゃるとのことと「サーカス」のお話ができること、がわかりました。

その後、「フランス国立大道芸サーカス情報センターの方が高松に来ている」ということを風の噂で聞き、まさか・・・と思いながらルビー商会へ。小さなデスクに座っていた女性は、フランス国立大道芸サーカス情報センター・オール・レ・ミュールの日本でただひとりの特派員・田中未知子さんでした。

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オール・レ・ミュール???
なぜ高松???
田中さんは何者???

言葉通り、私の頭のなかは「?」でいっぱいです。

2004年、当時北海道新聞社で働かれていた田中さんに、突然サーカスとの出会いは訪れました。フランスから国立サーカス学校CNACに日本人ではじめて入学を許可された金井圭介さんとヌーヴォー・シルク(フランスの新しいサーカス)の一団が、札幌に作品制作・公園の企画を持ってきたのがはじまりでした。このとき、田中さんはこの企画に関わりたいと立候補します。

「・・・・・・これだけはどうしても、誰になんと思われても譲れないことに思えた。自分の人生にとって、これは間違いなく事件で、大きな転換点になった。なにしろ、これを境に私はヌーヴォー・シルク(新しいサーカス)にのめりこみ、この世界に飛び込み、まるで小魚の群れを呑み尽くす巨大な魚のように大きな口をあけて、できうる限りの出会いと情報を得るべく動き出したのだから。」 (田中未知子著『サーカスに逢いたい〜アートになったフランスサーカス』現代企画室発行より)

2007年ヌーヴォー・シルクに惚れ込んだ田中さんは、会社を辞め、フランスへ。サーカスの本の企画書を手に、フランスに活動拠点が必要と、フランス国立大道芸サーカス情報センター・オール・レ・ミュールの門をたたきます。例外的に研修生としてデスクとインターネット環境の整ったスペースをもらうことができた田中さんが行ったことは、インタビューを重ねることでした。

「とにかく、サーカスの本を書くことを目的にフランスに行ったので、人を紹介してもらっては、次の日に会いに行き、取材して・・・・・・を繰り返しました」

フランス国立大道芸サーカス情報センター・オール・レ・ミュールにいた3カ月間、2日に一度は何百キロの旅をして、田中さんは人を訪ねて回りました。チュニジアにサーカスのキーパーソンがいると聞けば、「明日行きます」と返事をし、パリから飛んで行く。

「もらった情報は無駄にしない」

約90日の間にインタビューした人の数は50人は軽く超えたと田中さんは言います。その後、オール・レ・ミュールの所長の紹介でラ・ヴィレット公園に移り、サーカスを実際に見たり、インタビューをする日々を送ります。

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『サーカスに逢いたい〜アートになったフランスサーカス〜』
田中未知子著
写真:クリストフ・レノー・ド・ラージュ
発行:現代企画室

その後、2009年に無事『サーカスに逢いたい〜アートになったフランスサーカス〜』を発行し、瀬戸内国際芸術祭2010のスタッフとして香川県に来ることになった田中さん。一度、北海道へ戻られた後、どうして再び香川県へ?

「人の巡りあわせはもちろんですが、
自然環境や地域芸能が豊かだから。
海も島もこんぴらも。少し行けば徳島、高知、愛媛がある。
見るものが無尽蔵にあるから、今、去れない、と思いました。
瀬戸内にしかない個性はとても貴重なもの。
ここから発信していくことの意味を感じています」

今年の2月、正式にオール・レ・ミュールの特派員として認められ、フランス人に「サーカスのジャンヌ・ダルク」と呼ばれた田中さんは、現在、こんまい高松の商店街の小さな一角で活動をしています。サーカスに関する本を貸し出したり、月一度イベントを行ったり。「サーカスの人は、たとえ集団で公演をつくっていても、行動単位は個人」だそう。固定したチームではなく、いろんな仲間を増やして、サーカスをつくることもしてみたいと言います。

たとえひとりの人間の力は小さくても、
どんな場所にいても、
どんな小さなデスクでも、
そのひとりの想いが波をつくると
少しずつ波紋のように広がって行く。
私にできることはないですか? とついつい聞いてしまいそうになる、静かだけれど熱い田中さんという存在。
今までのミラクルも田中さんがそうやって呼んできたのだろうなあ、と感じました。

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©ROOTS BOOKS 三村

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サーカス堂ふなんびゅる
高松市片原町9-2ルビー商会内
田中さんがいる時間:
11時〜14時ごろ
休:日・月曜

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