高松こんまい通信

第13回 けむりが消える その1

2011.07.07更新

こんにちは、コニシです。

私の名刺には、「聞き取りスト」という聞き慣れない肩書きがあります。仕事の内容は、市井の長老たちの話を聞いて残すこと。当時まだインタビューや取材経験のなかった私が、それでも人の話を聞いて誰かに伝えたいと思った時に、「ライター」とは名乗れず、苦し紛れに自分でつけた肩書きでした。

「聞き取りスト」って何ですか? と聞かれると、恐れながら「じつは長老ラブなんです」と答えることにしています。長老とは、人生の大先輩たちのこと。ただし私的には80代以上の方がとりわけラブでして(笑)。それには自分なりの根拠があります。戦前に思春期を迎えておられる方と、戦中戦後に思春期を迎える方では、明確に"何か"が違う気がするのです。最初から区別があったわけではありませんが、何人かの長老たちにお会いするなかで、ときどき、そこに"ニッポンジンがいる"って感じる瞬間があって、ほんとうに私はただただ感動するわけですよ。

その人の話がどうとか言うのではなく(もちろんお話も貴重なのですが)、その人の内側から匂い立ってくるような存在の美しさに心の奥が熱くなる。そんな感じでしょうか。それで、自分が感じているものはなんだろう? って考えるうちに、おぼろげに見えてきた手がかりが"80代"という境界でした。

戦前に思春期を迎えた方というのは、物事の見方や考え方の土台をつくる時期に、戦前の日本の教育を受けておられます。仮に今80歳の方は昭和6年生まれですから、終戦の時は14歳。ん〜、私的にはギリギリですが(苦笑)、これが70代になると、"昨日まで信じてたことが一夜にして変わる"そんな戦中戦後の激変が原体験になられるので、ちょっと感じが変わるんですね。"ニッポンジン"というよりも、むしろ進歩的な考えの方が多い感じがします。

またお話を伺っていると、だいたいその人から3世代前くらいまで遡ることができます。例えば80代の方だと、「うちの慶応生まれのばあさんはしっかり者で・・・」という具合に、今ならまだ、話のなかで、江戸時代に生きた人と直接会うことができるのです。

そもそも私がこんなに長老にこだわるのは、大正13年生まれの父を持つからかもしれません。私は年の離れた3人兄妹の末っ子なのですが、いわばサザエさんちのタラちゃんみたいな環境で育ったので(ただし、うちの場合は波平さんが父?!)、子どもの頃からずっと父は不思議な存在でした。

逆鱗に触れると「貴様!」とどなり、仕事の話に熱が入ってくると「鉄砲の弾が飛んでこんのやから、どっちゃない」とすぐ"生き死に"を持ち出す。家族でご飯を食べにいけば、料理の中味よりも「腹一杯食え」とお腹がパンパンになるまで食べさせられ、「もう食べられない」と言うと、「お腹がはち切れたら製本テープで貼ってやる」と満足げに笑う(注:うちは印刷会社でずっと本をつくっていたのです)。

昭和47年生まれの私としては、明らかに同級生のお父さんとは違う我が父を、なんだか別の生き物みたいに感じていました。だから、「聞き取りスト」として長老に話を聞きたくなったのも、もしかしたら、父に聞く代わりに、父と同年代の人たちがどうやって生きてきたのかを知りたかったのかもしれません。

「聞き取りスト」を名乗ってからは、ステキな長老がおられると聞くと、できるだけお会いしにいくようにしています(最近はあまり行けていないのですが・・・)。80歳を過ぎて現役の芸者さんや、商店街で100年続く老舗鞄店の長老、島で代々網元をしていた漁師さん、山で棚田と集落を守ってきた里山の長老・・・。彼らが語る言葉の端々には、私が今まで教えてもらったことのないある種の規範というか、"生き方"が在ります。それが何なのかは、まだよくわかりません。

小泉八雲の描写に出てくる日本人の細やかさかもしれないし、ルース・ベネディクトが『菊と刀』で書いている恩や義理という観念かもしれない。また映画『ラストサムライ』で渡辺謙演じる勝元が、最後まで守ろうとした誇りに通じるかも知れません。でも今はそれが何かを探るより、とにかくお会いして、彼らの存在感を自分のからだにしっかりと刻み込みたい。感覚として自分のなかにきっちりとその"何か"を記憶したい。今はただただそう思うのです。

私が時々出会う"ニッポンジン"とは、かつての日本人たちの残り香のようなものです。写真や録音テープで記録できるものではなく、その人の存在を通して感じるしかありません。それも長老たちがいなくなってしまえば、けむりのように消えてしまう。一度消えたけむりは、どんなに願っても二度ともどってはきません。こうやって身近に"ニッポンジン"に会いにいけるのも、あと何年あるか。そんな焦りが年々強くなってきています。

でも今ならまだ間に合う。もし皆さんの身近にステキな長老がおられたら、ぜひ話を聞いてみてください。もしかしたら、"ニッポンジン"に出会えるかもしれません。そして、そんな話を一緒にできる仲間がもっと増えたらなぁ・・・と思います。

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