高松こんまい通信

第17回 本の森

2011.09.08更新

「こんまいマチ案内」編(vol.10)――宮脇慎太郎さんのこと

第17回こんまい通信

再開発が進むマチのまちで、秘密基地のように地下に降りたところにある本屋さんで働く宮脇慎太郎さん。宮脇さんの本業はカメラマンなのですが、いつかブックカフェをつくりたい・・・と、勉強のために休みの日もマチの本屋さんで働いています。宮脇さんの本へのこだわりは、店内の至るところに垣間みることができます。以前からそれを見に行くのが、私のマチぶらの楽しみのひとつでした。例えば、彼の書くポップ。本の内容を書くことなく、その本の「力」を表現しようとする宮脇さんのポップに、ついつい引き込まれてしまうのです。

〜この本のお陰でたくさんの本を捨てる事ができた。(小さく)アリガトウ。〜
『自然のレッスン』(北川耕平、太田出版)

宮脇さんは、その名の通り「宮の脇」、神社の隣で育ちました。神社には森があり、小さいころはそこでよく遊んでいたと言います。ところが大学時代、1年ぶりに実家に戻ると森は消え、駐車場に。その時の喪失感は、その後の宮脇さんに大きな影響を与えました。

「ほおっておいたら、どんどんなくなってしまう。だから、今、見ておかないと」

それから宮脇さんの『聖地』巡りが始まりました。当時、大学で写真を専攻していた宮脇さんは、カメラを持って奈良の神社やお寺を撮影して歩き、お金を貯めてはバックパッカーとして、ヨーロッパ、アメリカ、インド、中国などを自分の足で旅しました。世界中の『聖地』と呼ばれる場所を訪れ、写真を撮って歩いた学生時代。

「聖地は、地球のツボだと思う。歩いているだけで気持ちがいい」

自分の足で聖地を歩くなか、気がついた何とも言えない感覚・・・人の力がとても小さく思えるほど自然や土地の力に圧倒される感覚、そこには畏れと共に不思議な安心感もあったのかもしれません。

「ここにどれだけの時間があったんだろう・・・と、どんどん想像が膨らむ」

自分が今いる時代だけでなく、過去のこと、そして未来のことも考えさせられる場所。神社やお寺や駐車場や・・・外見はどんどん変わっていっても『聖地』と呼ばれる場所は変わらない。

「聖地は、1ミリも動かないそうだよ」

と彼の言った言葉が心に残りました。

にぎやかなマチの喧噪から離れて本屋さんに入るとき、無意識にほっとする場所を求めていることがあります。本屋さんでは、それぞれの人が自分の必要な本の前に立ち、自分の時間を過ごすことができるから、と思い込んでいた私ですが、宮脇さんのある言葉にはっとさせられました。

「本屋には、森とおんなじ安心感がある。本はもともと木からできているでしょ。だから、本棚に本を並べることって、森を復活させることになるんじゃないかな、と思って」

本屋さんや図書館で感じる、本に囲まれたときの不思議な安心感。もちろん、本は紙だから木からできているわけですが、宮脇さんが言いたかったのは物理的な理由だけではないように思いました。時間をかけて先人の残した知恵や情報が編まれた本と、種から芽が出、実が成り、年輪を重ねていく木との共通点。

「いつか、ブックカフェを・・・」と話す宮脇さん。もしかすると宮脇さんは、彼なりの聖地をつくろうとしているのかもしれません。木漏れ日ができたり、そよ風が吹いたり、いろいろな生きものが集まる憩いの空間としての本の森という名の聖地。

「この本屋さんがあるからマチに来るんです」と、宮脇さんに言いに来るお客さまがいます。地下にあるこの森で過ごした若者たちが、いつか面白い人間になって、10年後、20年後、この土地に戻ってくることを願いながら、日々お面白い本を仕入れては、本の森を育てている宮脇さん。その姿を見て、いつかマチにジャングルのようなエネルギーいっぱいの本の森ができるといいな、そう思いました。

第17回こんまい通信

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