高松こんまい通信

第21回 いつものお茶

2011.11.10更新

「こんまいマチ案内」編(vol.14)――原ヲビヤ園茶舗のこと

第21回こんまい通信

「いつものお茶ください」

高松市片原町にある大正5年創業の原ヲビヤ園茶舗に来る人は、皆決まってそう言います。どの人にもそれぞれの「いつものお茶」があり、三代目を継ぐご主人は一人ひとりが買うお茶を覚えています。

私がROOTS BOOKSのおつかいで、初めて原ヲビヤ園茶舗に行ったときのこと。「ああ、小西さんのとこね。"甘露"だね」と"甘露"の缶を取り出し、天秤ばかりで100gぴったり袋に詰めてくれました。主に宇治や鹿児島から仕入れているこれらのお茶のなかには、「鳳凰」や「友白髪」など、今も初代店主がお茶のイメージに合わせて名づけた銘柄で売られているものも。

江戸時代には質屋だった原ヲビヤ園茶舗は「お茶はええよ。捨てるとこがひとつもない」という初代の一言でお茶屋を始めたといいます。葉から茎までどこをとってもそれぞれ個性のあるお茶になる、その魅力に、物を大事にする初代店主が惹かれたのでしょう。初代がつくったという和紙を貼った箱やお金入れは、今も現役で大事に使われています。

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毎日飲むのでいつの間にか当たり前になっていたお茶。よそのお茶を飲んだとき、初めて原ヲビヤ園茶舗のお茶は何かが違うと感じました。三代目・原大策さんに美味しさの秘密を聞くと、
「それは、お客さまのおかげなんですよ。回転が早いからいつも新しいお茶をお届けできる、それだけ。在庫も不要。正の連鎖だね」

また、人気のなくなったものはどんどん省いていくそうです。
「ここに並んでいるお茶は、お客様の選んだものばかりなんですよ。"いつものお茶"というのは多くあるお茶のなかからお客様が選んだ、その人にとってのベストセレクトなんです」
「いつもの」=「ベストセレクト」。けっして特別なものではないけれど、日々のなかで選ばれたその人にとってのベストがここに並んでいたのです。

「いつものお茶をください」

お客様が来られました。お茶の準備をしながら会話が交わされます。
原さん「今にも雨が降りそうだね。時の雨と書いて"時雨"かな」
お客様「今の時期なら"紅葉時雨"かもしれないね」

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お店から1歩出ると、再開発が進む街に新しいビルが立ち並んでいます。時間の流れが違い過ぎて、まるで浦島太郎にでもなったかのような気分になりました。

今日もいつものお茶を飲むことができる幸せ。

当たり前のように毎日飲んでいたものが「ベスト」だったということに、私は初めて気づかされたのでした。




第21回こんまい通信

原ヲビヤ園茶舗
高松市片原町1−12
☎ 087-821-5741
http://wwwa.pikara.ne.jp/obiya/

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