高松こんまい通信

第47回 ブラジャー観音さま

2012.12.13更新

人を好きになるのと同じで、町や島を好きになるとき、表向きのキレイな情報だけでは「いいなあ」と思っても、なかなか「好き」には届かないものです。ここで言う「表向きのキレイな情報」というのは、多くの人に共感を得られる観光スポットであったり、ビュースポットなどのこと。今からお話する粟島は、「海ほたるがキレイな島」であり、「藤井フミヤさんが『もう一度行きたい島No.1』と話した島」であり、「日本最古の海員学校跡地が残る観光地としても知られている島」です。どんな島に行っても、人がいいとか、海がきれいとか、静かに過ごせるとか・・・いいところは必ずあるもの。粟島も、はじめは私にとって「素敵ないい島」でした。

第47回 ブラジャー観音さま

栗島からの風景

ところが、通いはじめて5回目が過ぎるころ、粟島に対する気持ちに変化が出て来たのです。それはまるで、ただただ「いい人」だと思っていた人に、ひょんなことから恋に落ちてしまうかのような変化でした。

粟島で漁で使うブイ(浮き)を使った作品を数多く制作している"えっちゃん"こと、松田悦子さんの取材をしていたときのこと。「私のお師匠がつくった作品があるから見に行きましょう」と見せてくれたのが、真っ白いブラジャーをした(描かれた)その名も「ブラジャー観音さま」。元々通学路だったという山道の入口に奉られています。この観音さまは、今は亡き島のおじいさんが奥様をモデルに軽石を彫ってつくったもの。当初は裸体だったそうですが、子どもたちの通学路なので教育上よくない、と後から「ブラジャー」をつけ加えたのだとか。島の子どもたちの無事を祈る想いでつくられた「ブラジャー観音さま」。小学校・中学校が休校中の今も変わらずこの道を通る人を見守っています。 

第47回 ブラジャー観音さま

左:えっちゃん
右:ブラジャー観音さま

「ブラジャー観音さま」の作者の上田さんは、90歳になっても制作活動を続け、亡くなる前まで島の漫画(紙芝居)を描いていたそう。その漫画のなかには、明治や江戸時代を思わせる人々の滑稽で温かいストーリーが描かれています。

第47回 ブラジャー観音さま

『あわしまほのぼのうぉっちんぐ』

そして、この上田さんのお話を聞き書きした本『あわしまほのぼのうぉっちんぐ』をつくったのがえっちゃんです。

「イラストと文章をわら半紙に書いていたものをまとめたのよ」とにこにこしながら話すえっちゃん。

「いつか上田さんのようになるのが目標なの」。自らも、自宅の庭にブイでつくったお地蔵さまや人形を飾った「ぶいぶいがーでん」をつくり、自由に見られるよう開放しています。えっちゃんが10年前につくり始めたブイの人形は、島中に広がり、今ではブイ作家が何人も! ブイアートは、今や粟島名物のひとつになりました。

第47回 ブラジャー観音さま

ぶいぶいがーでん


「ブラジャー観音さま」のちょっと笑えるエピソード、上田おじいさんとその想いに共感し、自らも制作活動を続けるえっちゃん。こういった背景やストーリーに思わずキュンとして、また行きたい、もっと知りたい、と思ってしまうのです。


ブラジャー観音
(京の浜を歩いて)つき当りになったら、左の方へ行くと山道になる。そこに何故か、ブラジャーをしたボインの観音さまが――。
とっても小さな観音様だけど、この京ノ浜に住んでいるおじいさんの手造り観音さま、軽石で出来ているのもめずらしい。
ボインがある人も、ない人も、一度お参りするといいかもね・・・
春にはつくしの里になります。
(『あわしまほのぼのうぉっちんぐ』松田悦子発行より引用)

第47回 ブラジャー観音さま

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