高松こんまい通信

第48回 ひとつずつ、一歩ずつ

2013.01.10更新

新しい年になり、またひとつ、真っ白なページが開かれました。
はじまりは、いつもワクワクしますね。

ROOTS BOOKSでは、この春出版する「島あるき本」の取材で、今年も"島づくし"で1年が始まりました。島に通っていると、波が高くて1日3往復しかない船が止まったり、定休日でもないのにお店は閉まっていたりと、思い通りにならないことがしばしば起こります。行く度に出会う人が違い、迷う道も違う。誰がいつ行っても、同じような体験ができるという保障はありません。そんな島をご紹介するのは難しくもあり、面白さでもあります。

今回ご紹介する志々島は、かつて花栽培がさかんで「花の島」として知られていました。しかし、他の島と同じように人口減少が激しく、一時は1000人を超えていた人口も、今では20人ほど。花農家も1軒だけとなりました。

高松こんまい通信 第48回 ひとつずつ、一歩ずつ

花畑 (撮影:宮脇慎太郎)

島で唯一残った80歳の花農家の高島さんの畑は、細い坂道を15分ほど登った見晴らしのいい場所にあります。海はもちろん、瀬戸内の島々が眺められる絶景スポット。しかし、見晴らしのよさとは裏腹に、ここでの農作業は過酷です。種蒔き、草刈り、花が真っすぐに育つように敷居をつくる作業。収穫時期になると20㎏の花を背負い、坂の上り下りを1日5往復。それらをすべて高島さんが、お一人でしています。畑作業はもちろんのこと、畑で使う籠や帽子も手づくりするとか。途方もなく思える大変な作業だけれど、毎日欠かさず畑に行き、ひとつずつ行う高島さん。

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最後の花農家の高島さん (撮影:宮脇慎太郎)

花畑から降りる途中、腰を90度近く曲げて、山を登るおばあちゃんに出会いました。腰が曲っているのと、耳が聴こえにくいのとで、こちらには気づいていません。目の前まで来て、ようやく「まあ、どこから来たんな」と。一言二言交わし、そのまま私たちは山を降り、別の山へ登りました。その山の帰り、またそのおばあちゃんに出会ったのです。一歩ずつ、ゆっくりと杖をついて登ってくる姿。「また会ったね、私は今から大根をとりにいくんよ」と一言。

高松こんまい通信 第48回 ひとつずつ、一歩ずつ

道で出会ったおばあちゃん (撮影:宮脇慎太郎))

島に行くと、本当になにげない出会いをいただいたりするのですが、予期せず出会った人が、きれいな海や空よりも心に刻まれることがあるのです。ひとりでここまでしたの?! と驚くような作業を日々、ひとつずつこなしていく姿や、一歩一歩ゆっくりと、でも確実に山を登っていくおばあちゃんのうしろ姿。語らずとも、行く度に大切なことを教えてくれる島の人たちに感謝して、私もひとつずつ、一歩ずつ、歩んでいきたいと思います。

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志々島の埋墓 (撮影:宮脇慎太郎)

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港 (撮影:宮脇慎太郎)

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