高松こんまい通信

第52回 瀬戸内国際芸術祭2013前に読んでおきたいおすすめ本 〜その2〜

2013.03.11更新

こんにちは、小西です。
ここ数日、あたたかい日が続き、瀬戸内の海風もだいぶ和らいできました。
さて今回は、3月20日から開催される「瀬戸内国際芸術祭2013」の前に読んでおきたいおすすめ島本の第2弾。いろいろ迷ったのですが、私が一番影響を受けた本をご紹介したいと思います。

ところで、「宮本常一」という人をご存じですか? 
瀬戸内海に浮かぶ山口県周防大島出身で、「歩く巨人」と呼ばれた民俗学者。戦前から高度成長期の日本各地をフィールドワークし続け、地方に生きた名もない人たちの声を、膨大な記録と写真で残した人です。

私が初めてこの名前を聞いたのは、今から5年ほど前、前回の「瀬戸内国際芸術祭」が産声をあげるずっと以前のことです。「今度、北川フラムという人がやってきて、瀬戸内海の島々で、直島の家プロジェクトのようなことをするらしいので集まって」と声をかけられ、よくわからぬまま作戦会議に参加しました。そこで芸術祭の仕掛人である北川フラムさんの口から出たのが宮本常一の名前だったのです。ただでさえ現代アートと言われて難しそうなのに、ミヤモトツネイチ??? 思わずポカンする私たち。

それでもフラムさんはお構いなしに、これからやりたいのは、宮本常一のようなことなのだと熱く語り始めました。名もないたくさんの島の人たちが生きてきた足跡を記憶に残すこと、そして島の人たちの未来が少しでも明るくなる助けになりたい。あくまで私の記憶ですから、実際はもっと別の話だったかもしれません。でもそのときのフラムさんは、同じコンセプトで一足先に実現していた越後妻有の「大地の芸術祭」のスライドを見せながら、せつせつと辺境地で生きてきた人たちへの想いを語っていたのです。


●『忘れられた日本人』(宮本常一、岩波文庫)

で、最初に買って読んだのがこの本。自分が暮らす国の話なのに、まるでどこか外国の旅話を聞いているような。私には〝忘れられた〟というよりも〝知らなかった〟日本人の話がたくさん紹介されていました。例えば、常一が訪れた村で遭遇したよなよな歌合戦のこと、世間師と呼ばれた長老の旅話などなど。とにかく昔の人は今の私たちとは比べものにならないくらい働き者(今でも島の長老たちは同じくらいよく働きますが)。そして、そのくらい働かなければ生きていけなかった時代が、ほんの少し前まであったということ。常一のいきいきとした描写が、まるで隣りに座って語り聞かせてくれるような臨場感を抱かせます。


●『宮本常一著作集/日本の離島(第1集)』(宮本常一、未来社)

その後、何冊か読む中で、う〜んと考えさせられたのがこの本です。常一という人は、じつは島を記録するだけでなく、島の人と一緒に島のために汗を流した人でもありました。自らも島に生まれ、島に暮らす大変さを身をもって知っていたからかもしれません。


島をあるくたびに、この生産と生活の低さはどこから来ているのであろうか、またどうすればそこからぬけ出せる緒が見出せるだろうかを考えるようになった。
〜(中略)〜
島に人が住みついたのはロマンティシズムや酔狂ではなかった。やむを得ずそこに住んだのである。やむを得ずすまわせたのは政治の中に多くのいたらなさがあったからである。
とにかく、まず島民のために生産エネルギーの動力化からはじめねばなるまい。私はひそかにそんなに考えた。このような希求は一方多くの先覚者やお役人たち、また島々の住民の熱望によって、昭和二八年、離島振興法という法律の制定によって、ささやかながら、実現の緒についたのであるが、しかし、島の生産や文化が本土に追いついていくには容易ならぬ努力と工夫を必要としている。
『日本の離島 第1集』より


この本が初版されたのは1969年。今から40年以上前に日本各地の島々を紹介し、それだけでなく離島が含む問題にも触れている本書。巻末には、それぞれの島の人たちから聞き取った「島の悩み」が具体的にまとめられています。フラムさんが「常一のようなこと」と言ったのは、このことを意味したのかもしれないと思いました。島をソトから見るだけじゃなくて、島の人と話したり、触れ合ったり、物理的な距離だけじゃなくて心の距離を近づけること。その上で、島の根本にまで関わるというある種の決意表明だったんじゃないかと。あれから5年、最初は誰もが夢のような話と思っていたプランは、2010年、現実となって島にビッグウェーブを起こしました。そして大勢の人が残していったエネルギーの余韻は、確実に島の人たちの何かを呼び覚まし始めています。

島を外側からだけじゃなくて、内側からも見てみたい、という人に、おすすめの2冊です。

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