今日の人生

第2回 今日の人生

2013.05.29更新

今日の人生

 ライブハウスに行く。 ゆっくり座って音楽を楽しむことができるライブハウスだった。

 音楽にはくわしくない。家でもほとんど聴かないのだけれど、それでも50枚くらいはCDを持っていると思う。スピッツ、ミスチル、ユーミン、奥田民生、エレファントカシマシ、宇多田ヒカル、加藤ミリヤ、森高千里、ドリカム、ビートルズとカーペンターズ、クラッシクを2~3枚、その他。これでわたしという人間がざっと表現できるのだろうか?

 音楽の種類についてもくわしくないのだけれど、この夜はブルースということだった。ハーモニカの音が気持ちよく、足でリズムをとりつつ聴きいった。

 なぜか、ふいに、校歌のことを思い出していた。

 ブルースを聴いて小学校の校歌を思い出すしくみはわからないが、うちの小学校の校歌ってどんなだっけと 頭の中でひとり唄いはじめる。あの頃はなんとも思わなかったけれど、「命の炎を燃やそう」という歌詞の部分に差しかかったとき、子供の口からこの歌詞が出てくる光景は、すごくいいものではないかと思った。

 脳内でこっそり唄っていた校歌は、途中からどうしてもラジオ体操のメロディにすり変わってしまう。帰宅後、湯舟の中で声に出して唄ってみたらちゃんと唄えた。 ライブハウスは、1ドリンク付きで2500円だった。

第2回 今日の人生

左:ライブハウスで作った紙ウサギ
右:チューリップのあとに、トマトの苗を植える



今日の人生

 喪服を買う。

 朝目覚めたときにはそんな計画はまったくなかったのだけれど、日中、打ち合せの合間に空き時間が2時間ほどできて、そうだ、買おうとひらめいたのだった。

「なにもないときに買うのがいいのよ」

 誰が言っていたのかは忘れたけれど、なにかあってからバタバタ買うものではないというのを思い出したのである。

 渋谷の百貨店へ。カラフルな洋服が並ぶ中、奥のほうに黒いエリアが現れた。 ブラックフォーマルというコーナーだった。

 落ち着いた感じの女性の店員さんがいて、入店すると、とても控えめな笑顔で声をかけられた。商品柄、悲しみに暮れながら買いにこられる方も大勢いらっしゃるのだろう。わたしは喪服を買いに来たことと、すぐ使う必要はないことを告げた。

 取りあえず、どういうタイプのものがあるのかを説明してもらう。

「こちらはシルクになっておりまして、本当の墨の色をイメージして作られたものです」

 ふむふむ、なるほど、生地の色は薄墨のようである。

「こちらは、喪服としてだけではなく、礼服として入学式などでもお召しいただけます」

 わたしが保護者として入学式に出席することは一生ないと思うけれど、そんなことを言われても店員さんも困るだろうし、「お得ですねぇ」とひとこと。

「こちらは、ジヤケットとワンピースが別々になっておりまして、お好きな組み合わせを選んでいただくことができます」

 あ、それ、いいですね、わたし、これがいいです。
 というわけで、自分チョイスの喪服となる。
 試着して鏡の前に立ってみる。くるりとまわってみたりもする。似合うかどうかを確かめている自分自身と目が合うたびに、後ろめたい気持ちになる。喪服ではないか。

 長々と選ぶのもなにか違うような気がして、さっと決めてお金を払って店を後にした。家に帰ると、クローゼットの奥に隠すように釣り下げる。悲しみを買って帰ってきたような気持ちだった。


今日の人生

 生徒手帳に詩を書いたことがある。中学校の1年生のときだった。ふと浮かんで書き留めたのだけれど、それを隣の席の男の子が見ていて、

「なに書いてんの?」

 聞かれて、「別に」と言えばいいものを、小学校から一緒の子だったから、なんとなく気を許して「詩」と答えて爆笑された。

「お前、詩とか書くん?」

 冷やかしたくなる年頃である。へへへと笑ってやり過ごしたものの、詩を書くことがダサくない世界になればいいのにと思ったものだった。その頃のわたしは、絵描きの他に、詩人にもなりたかった。詩は 今でもときどきノートに書きとめる。最近、書いたのがこれ。

 生きている時間のほうが長い
 どんなに短い人生だったとしても
 生きていた時間のほうが長い

 これ詩と呼んでいいのかわからないけれど......道を歩きながらでも、浮かんだら立ち止まって書いている。「ネタ集め」みたいに言われることもあるのだが、ネタでわたしの人生ができているわけでもないのだった。

 詩よりもっと短いものもある。これはなんだろう、格言??
 今日、書き留めたものはこのふたつ。

「頭が良くなりたいと思うのは、誰かにいいくるめられたとき」

「歳の差に関係なく、友達になれないと直感的に思う子供は存在する」

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益田ミリ(ますだ・みり)

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。

主な著書に『すーちゃん』『結婚しなくていいですか。すーちゃんの明日』『どうしても嫌いな人』『すーちゃんの恋』などのすーちゃんシリーズ(幻冬舎)、『ほしいものはなんですか?』『みちこさん英語をやりなおす~am・is・areでつまずいたあなたへ』(ミシマ社)などがある。作を手掛けた絵本『はやくはやくっていわないで』(平澤一平・絵、ミシマ社)は、第58回産経児童出版文化賞を受賞。『だいじなだいじなぼくのはこ』『ネコリンピック』『わたしのじてんしゃ』(平澤一平・絵、ミシマ社)も大人気。2016年8月には脚本に初挑戦。「コーヒーと一冊」シリーズより『脚本版 ほしいものはなんですか?』を上梓。

脚本版 ほしいものはなんですか?

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