究極の文字をめざして

第1回 究極の「美しさ」を求めて(ウイグル文字)

2013.04.17更新

 若い頃の恥ずかしい過ちというのは誰もが振り返りたくないものですが、自分にとってのそれは「文字を作る」ことでした。
 一番熱中したのは、おそらく中学二年生の頃。まさに「中二病」です。

 学生のころ、友人間だけで通じる暗号などを作り、それを授業中にこっそり回したりした、といった経験のある方も多いでしょう。
 いわばその類の話なのですが、私の場合なぜか、
 「すべての文字を自分オリジナルなものにして、自分だけの究極の文字体系を作ってやろう」
 と思い立ち、ひたすらその作業に没頭したのです。

 どうせヒマな中学生、何をやろうが勝手ですが、今考えても極めて非生産的な活動でした。
 別に友人と共有するわけでもなく、ただ自分の書きたいことを書くばかり。さらに、その文字で授業のノートを取り、後でそれが読めなくなるに至っては、もはや実害です。
 青春の一ページというよりは、青春のページをムダに破り捨てた中学時代でした。

 そもそも、なぜ自分のノートが読めなくなってしまったかというと、特に初期はいろいろとこねくり回して、しょっちゅう文字の形や読み方が変わっていたからです。
 ただ、面白いもので、そんな「自分文字」も書いているうちに進化していき、徐々に書きやすく、機能的になってきたりするのです。
 結果、あれからもう20年以上もたっているにもかかわらず、いまだに私はこの自分文字をすらすら書くことができます。そして、今でも嫌なことがあったり、隠し事があったりすると、この文字で怒りや妬みや嫉みをぶつけたりするわけです。
 全然成長してないな、おい。
 お前は永遠の中学二年生か。

 ただ、もし文字に興味を持ったことに意味があったとしたら、その後世界や言語にいろいろと興味を持ち、「文字が変わっている」という理由で本格的にロシア語を学んだり、変わった文字を求めて中東やインドを旅したり、ヒエログリフやマヤ文字といった古代文字を現地で見たりする貴重な機会を得たことでしょう。

 そこで、考えたのです。
 「中学生当時の俺は、『究極の文字を作ってやる』との思いで自分文字を作成した。だが、あれからいろいろな文字を知った上で今、究極の文字を作ろうとしたら、もっとすばらしい文字ができるのではないか?」

 エジプトのヒエログリフ解読のきっかけとなった「ロゼッタストーン」は有名ですが、あれのもう一つの面白さは、エジプトの文字がどのように変化していったかがわかるということです。
 ヒエログリフというまさに「絵文字」が、使いやすい「ヒエラティック」という書体に、それがさらに簡略化された「デモティック」という文字になる過程が見えるのです。
つまり、文字は「変化」あるいは「進化」していく。実際、私の自分文字ですら、進化していったのです。

 だからこのバカな試みを公開することで、人類における文字の変遷を知るための貴重な資料となる。なるかもしれない。なったらいいな。なると思うのは勝手だろ――。そんな強い願いを込めて、ここに今「究極文字プロジェクト」をスタートさせようと考えた次第です。
 今まで私が見た、知った、学んだ文字を紹介しつつ、その「いいところ」を抽出し、組み合わせて「究極の文字」を作っていきたいと思います。我ながら書いていて「本当にできるのか?」と思いますが、まぁそのへんは騙し騙しやっていきたいと思います。

 ここで、最初に取り上げたい文字があります。
 それが「ウイグル文字」です。

 私がやたらと文字に入れ込んだのには、実はきっかけがあります。
 当時、世界史の資料集に乗っていたこの「ウイグル文字」に一発で惚れ込んでしまったからです。
 これまで、見たことのある文字は漢字、カナとアルファベットだけ。世界史をやっていた以上、ヒエログリフなどの古代文字なども知っていたはずですが、当時の私はあれを「文字」とは認識しなかったのでしょう。
 おそらく、このウイグル文字が衝撃的だったのは、「しっかりと文字でありながら、なおかつ絵画的に美しい」からだったと思います。

 画像は、私が資料を複写したものなので美しさが伝わりにくいかもしれませんが、文字一つひとつが自然に連結し、縦にすっと流れるように続いていく様子は、私にはこの上なく美しいものに見えたのです。

 正直、この文字を美しいと思うかは個人差があるかもしれません。
 ただ、「流れるようなフォルム」が美しいことは、多くの人が賛同してくれるのではないでしょうか。
 ということで、究極の文字の第一の条件、それは「流れるように美しい」こととさせていただきたいと思います。

究極の文字の条件 その1
文字は「流れるような美しさを持つべき」


第1回究極の文字

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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

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