究極の文字をめざして

第2回 何に書くか、それが問題だ(シンハラ文字)

2013.05.16更新

 丸い。

 それが、とにかく最初の印象でした。
 全体が丸いのはもちろん、線という線が丸い。
 ほとんど丸そのものという文字もあれば、頭に丸い帽子がついたような文字、ハートをひっくり返したような文字もあり。
 女子高生が作ったのか、と思わせるかわいさです。
 まぁ、「丸文字=女子高生」って、いつの時代の発想だ、という話ですが。

 このシンハラ文字とは、スリランカのシンハラ語話者の間で使われる文字です。
 インドのサンスクリットと同系統の文字で、お寺に立っている「卒塔婆」によく書かれている梵字とルーツは同じ。つまり、最初から丸っこかったわけではないのです。

 ではなぜ、厚木シロコロホルモンのように、ちょっと箸で押したら焼き網から転がり落ちるようなフォルムになってしまったのか。

 本当かウソかわかりませんが、スリランカで聞いた話によれば、もともとシンハラ語はヤシの葉に書かれていたそうです。
 いかにも南国らしい話ですが、このヤシの葉は繊維の関係で、まっすぐ線を引くと葉が切れてしまう。
 だから自然と丸みを帯びていった、とのことなのです。

 なるほどシンハラ文字は、葉っぱの上にも書けるというフレキシビリティを持った文字だったのです。
 まさに生活の知恵。
 私はそれを聞いて、ガツンと頭を殴られたような気になりました。

 当たり前のように紙が手に入る現代ですが、いつ何時、資源不足にならないとも限りません。
 そうなったら我々はまた、ヤシの葉を紙として使う日が来るかもしれない。
 いつの時代にも使える「究極の文字」を目指すからには、ヤシの葉だろうが手のひらだろうが、どこにでも書けなくてはならない。
 もの余りの時代、私はシンハラ文字から「エコロジー」の本質を教えられたのでした。

 まぁ、スリランカと違って、日本にはヤシがほとんど生えていない、という問題はありますが。


究極の文字の条件 その2
文字は「ヤシの葉にも書ける丸さを持つべし」


第2回 何に書くか、それが問題だ(シンハラ文字)

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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

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