究極の文字をめざして

第5回 視力検査/ミャンマー文字

2013.08.29更新

 最近、「ミャンマー」がちょっとしたブームです。
 人口が多く、国民は温厚で知的レベルが高く、天然資源も豊富。
 さらに、まだあまり外国資本が入り込んでいないので、無限のビジネスチャンスが眠っている。
 まさに、アジアのフロンティア、それがミャンマー。

 この連載ではそんなビジネスチャンスに全力で背を向け、ミャンマー文字を取り上げたいと思います。え、なにか?

 この文字、一部好事家(いるのか?)の間では、「視力検査文字」と呼ばれています。
 理由は、視力検査に出てくるあのランドルト環がすべてそろっているから。
 つまり円の一部がかけていて、「上」「下」とか開いているところを答え、視力を測るアレです。

 確かに、すべてそろっているのです。
 左が空いているのが、数字の「1」(ティッと読む)
 上が空いているのが、「p」「パ」
 右が空いている、すなわち英語のCと同じなのが「ng」「ンガ」
 下が空いているのが「g」「ガ」
 という具合です。


第5回

 こうなると、なんてことのない視力検査表が、ミャンマー人にはなにか別の意味に読めてしまう、なんてこともあるかもしれません。
 しかもそれが、殺人事件の犯人を指し示す、とか......。
 「p・ng・1」
 「パ・ンガ・1」
 ・・・「パンが1」
 ・・・「パンが一つ......そうか、犯人はあのパン屋!?」
 みたいな。
 ひょっとしたら視力検査トリック、ミャンマーのミステリー文学では定番かもしれません。
 まぁ、「パンが」とか言ってる時点で日本語ですが。

 さらに、このランドルト環が連なっているような文字も多いです。
 サンプルを見ていただければおわかりの通り、こうなるともう、延々と視力検査をしているようなもの。まさに視力検査地獄です。

第5回

 「右、左......うう、もう限界です」
 「まだまだ、ほら次はこれだ!」
 「し、下......」
 しかも、中には「○」という文字もある始末。
 「ど、どこも開いてない!? ど、どう答えれば......」
 「ふっふっふ、さあ、どうする?」

 そんな小芝居はともかく、ミャンマー文字の特徴は、単に視力検査だけではありません。

 面白いもので、押せばコロコロと転がっていってしまいそうなこの文字に、時々ごつい「箱」が現われるのです。
 それが、文字をぐるっと囲むように現れるいくつかの文字。
 ちなみに母音「オ」(ちょっと曖昧な感じのオ)を表します。

 コロコロとかわいいミャンマー文字。
 押せばどこまでも転がっていきそうですが、この箱っぽい文字があることで、転がっていくのを防止しているようにも見えます。

 10年くらい前、私もミャンマーに行ったことがあります。
 軍事独裁政権でありながら、なんとものんびりした空気が流れているという、不思議な空気の流れる国でした。

 コロコロした文字と、それを受け止める四角い箱。
 その不思議なバランスが、独裁とのんびりさが共存するミャンマーのイメージと、ちょっと重なります。
 経済の発展はミャンマーにとっていいことでしょうが、あの不思議でゆるやかな時間が失われてしまうとしたら、少しだけ残念です。


究極の文字の条件
丸い文字だけだと転がっていってしまうので、時には四角い文字も

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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

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