究極の文字をめざして

第6回 文字は踊る/グジャラーティー文字

2013.09.24更新

 以前、インドの文字(デーヴァナーガリー文字)の特徴として、単語ごとに一本の棒を通すことで、文章の切れ目をわかりやすくする、ということを挙げました。
 単語の切れ目がわかるとともに、インドっぽさも200%アップのこのすばらしい棒のことを「インド棒」(本名はシローレーカー)と呼び絶賛したのですが、実際これ、書いてみると結構めんどくさいのです。
 書き終わってから最後に一工程加えなければなりませんし、すべての文字にバランス良く一本の棒を通す、というのは意外と難しいもの。
 ど真ん中に棒を貫き通してしまった日には、図のように全否定と受け取られかねません。

究極の文字

 これでは「おもてなし」ではなく、「だいなし」です。
 うまいこと言いましたか? 違いますかそうですか。

 ともあれ、
「ええいめんどくさい、こんな棒いらん!」
 というインド人が現れるのも無理はありません。

 そういうラディカルな文字が、インドはグジャラート州を中心に使われている「グジャラーティー文字」です。
 グジャラート州というのはインド西部の海沿いにある地域で、古くから商業が盛んな地域です。
 グジャラート語という言語が使われ、その表記にこの文字が使われます。
 話者は4500万人以上に上るというのですから、下手なヨーロッパの言語よりよほどメジャーです。

 見ていただければわかる通り、デーヴァナーガリー文字文字からインド棒をスポッと抜くと、ほぼグジャラーティー文字になります。

デーヴァナーガリー文字
究極の文字
グジャラーティー文字
究極の文字

 なんというか、インド棒というくびきから解放されたことで、一気に自由奔放になったイメージがあります。
 まるで文字が踊りだしているようです。

 究極の文字(dh)とか究極の文字(dz)なんて今にも踊りだしそうな雰囲気ですし、究極の文字(tsh)は、ステージの上で突然クルクル回りだす人を彷彿とさせます。

 この究極の文字(k)に至ってはまるで、『サタデー・ナイト・フィーバー』でのトラボルタの決めポーズにそっくりです。

 まさに自由奔放な文字、それがグジャラーティー文字なのです。

 ちなみにこのグジャラート州出身で最大の有名人といえば、なんといってもマハトマ・ガンジー。言わずと知れたインド独立の父です。
 インド棒を取り払ったグジャラート人の末裔が、今度はインドを支配するイギリスという棒を取り払った......。
 まぁ、インド棒をイギリスの植民地支配と重ねるのもどうかと思いますし、そもそもガンジーはそんなこと一ミリも考えてなかった
と思いますが。


究極の文字の条件
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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

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