究極の文字をめざして

第8回 流れるようにミステリアスに/アラビア文字

2013.11.04更新

 子どものころからの憧れの文字、それがアラビア文字でした。
 流れるような、すらすらと美しいフォルム。
 そしてなにより、「これが本当に文字なのか」というエキゾチックさ。
 こんな文字を使いこなせたらどれだけ素敵か、と思ったものです。

 そんな美しい文字を、心ない人はよく「ミミズのような文字」と呼びますが、とんでもない。
 ミミズというより、むしろモズクです。
 あれ、もっと印象悪くしてますか?

 ともあれ、アラビア文字の特徴と言えば、この「つながっている感」でしょう。
 いわば英語の筆記体と同じなのですが、アラビア文字では公式の文章だろうとなんだろうとすべてつなげて書くのが正式。
 いうなれば、筆記体しかない文字というわけです。

 そして、それぞれの文字の構成要素が比較的単純なため、線を延ばしたり丸めたりしやすいのです。
 それが創作意欲を刺激して、どこからどう読めばいいんだかわからないような状況になったりするのです。

 ただこのアラビア文字、使いこなすためには大きなハードルがあります。
 それは、アラビア文字は原則「子音しか表さない」ということ。
 たとえば「やま(山)」という語の場合、ラテン・アルファベットなら「yama」と子音と母音を組み合わせるところを、「ym」(ちなみにアラビア文字ならيم)だけで「やま」と読ませるわけです。
 当然、「よめ」かもしれなければ、「やみ」かもしれないわけで、これは文脈で判断するしかありません。
 ですが、「嫁」を「闇」と読み違えたりしたら、ご家庭の円満に大いに支障をきたすことになりそうです

 これで成り立つのは、アラビア語には子音が三つ(aiu)しかないことと、代わりに数多くの子音があるからです。
 アラビア語の子音はなかなか極悪で、中には「首を絞められたニワトリのような感じのgの音」とか、「お高くとまった感じのtの音」なんてのもあります。
 また、長母音、すなわち「やー」とか「まー」とかはちゃんと表記するので、たとえば「東京」などはちゃんと「トーキョー」と表記されることになります。
 だから、日本語では不便だと思いますが、子音が多い言語なら思ったほどではないようです。

 たとえば以前、私は交通整理のアルバイトをしていて、あんまりヒマなので通り過ぎる車の名前を覚えよう、というゲームをしていました。
 そんな中、「STPWGN」と書いてある車があり、一瞬で「ステップワゴン」だとわかりました。その際に、「あ、これってアラビア語の表記と一緒だな」と思ったものでした。
 ちゃんと仕事しろよ、という感じですが。

 なにより、暗号みたいで面白いじゃないですか。
 「JJJ」が、「じぇじぇじぇ」だったり、「GGGNKTロー」が「ゲゲゲの鬼太郎」だったり、「ビーTLZGYTTKT ヤーヤーヤー」が、「ビートルズがやってきた! ヤーヤーヤー」とか

 あのエキゾチックな線を見て、この中にどんな意味が隠されているのか、なんてことを想像してみるのもまた、文字の楽しみ方の一つです。


究極の文字の条件
文字にはミステリアスさも必要

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

バックナンバー