究極の文字をめざして

第10回 カンバンが読めません/ルーン文字

2014.01.03更新

文字の連載なのに、いきなりゲームの話をします。

小学生のころの夢が「ゲームの中に入ってお姫様を助けたい」というほどのゲーム好き(二次元好き?)だった私は、以後30年近くにわたり、天文学的な時間をゲームに費やしてきました。
 その時間を別のことに当てていれば、たぶんオリンピックにも出れたと思います。

 さすがに最近はゲームをすることも減っていますが、たまに最新のゲームをしていると、「なんて親切なんだろう」と思います。
 マニュアルを見なくても、ゲームの中で懇切丁寧に操作法を教えてくれる。
 ちょっとミスをしてもすぐリカバリーできる。
 ストレスがないよう、サクサク進むようゲームバランスが調整されている。
 まさに至れり尽くせり。お前は星野リゾートか。

 昔のゲームはとにかくシビアでした。開始5秒でゲームオーバーになったり、マニュアルがないと最初の一歩すら踏み出せなかったりなんて日常茶飯事。
 なかでも印象深いのが、「ウルティマV」というパソコンゲームです。

 俗にいうロールプレイングゲーム(RPG)というもので、間違いなく傑作なのですが、その操作方法が鬼のように複雑なのです。
 キーボードに割り振られた何種類ものコマンドを覚えないと、ドアも開けられなければ階段も下りられない。人との会話は、こちらが聞きたいことをキーボードでいちいち打ち込まないと話してくれません。「はなす」でペラペラ情報を垂れ流すドラクエの通行人とはわけが違うのです、わけが。
 そして、その不親切の極みが、「ゲーム内のカンバンがルーン文字で書かれている」ということ。

 ルーン文字とは、古代北欧のゲルマン系言語を中心に使われていた文字で、明らかにギリシャ文字やラテン文字の影響を受けつつも、独自の直線的なフォルムをしています。森林の多い北欧では、木に文字を彫りつける際に直線のほうが書きやすかったから、などと言われています。
 キリスト教導入以前から使われており、キリスト教が広まるにつれラテン文字に取って替わられ、廃れていきました。
 そのことで逆に、古代の魔術的なイメージを持つ文字として、現在でも占いなどにしばしば用いられています。

 構造はとても簡単で、ほぼ1対1でアルファベットに対応します。
 たとえば、「四面楚歌」なら、

となります。( s )や( m )などは、かなり近い形をしていることもわかります。
 まぁ、近けりゃ読めるってもんでもありませんが。

 ゲームにはルーン文字とアルファベットの対応表が付いてくるので、それがあればなんとか解読できますが、そこで出てくるのは英語の文章。
 つまり、「ルーン文字」→「英語」→「日本語」と二段階にわたって翻訳しないとカンバンすら読めないというのが、このゲームなのです。

 とはいえさすがに開発者も「どうせ読まないだろ」と思ったのか、ゲーム内のカンバンにはたいしたことが書いてありませんでした。たとえば、
ᚦ ᛁ ᛋ ᛁ ᛋ ᚨ ᛋᛁᚷᚾ
→This is a sign.
→これはカンバンです。

 ・・・・・・。

 知っとるわ。

 でも、この翻訳作業が私にはとても面白く、時間を忘れて読み込んだものです。
「読めないものが読めるようになる楽しさ」を、このルーン文字から教えてもらいました。

 今でも、タロットカードなどによく書かれているルーン文字。
 さらっと読んで占い師を驚かせるのも一興かと。


究極の文字の条件
カンバンに使っても読めること


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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

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