究極の文字をめざして

第13回 世界一危険な文字/チベット文字

2014.04.07更新

「世界で一番危険な文字」があるとしたら、それはどの文字だろうか、とたまに考えることがあります。
 危険な文字と言っても別に、反社会的な思想をあおる文字とか、「DEATH」や、「F○CK」や、「プロレタリア革命万歳」がたった一文字で表せる文字ではありません。
 あくまで物理的な意味です。

 たとえば、文字ブロックで遊んでいる子どものところから流れ弾が飛んできたり、ビルの壁に貼られた「PARCO」の文字のうち「P」だけが落下してきたとき、どのくらいの怪我をするか、ということです。

 まず、安全なのはなんといってもミャンマー文字でしょう。
第13回
 こんなコロコロした文字ばかりなので、投げつけられても、上から降ってきても比較的安全。ただし、床に転がっているのを踏むと転ぶので注意が必要です。
 ラテン・アルファベットも比較的単純な形が多いので、「V」の先端に頭をぶつけさえしなければ、そう危険ではなさそうです。
 漢字などは危険そうに見えて、意外とそうでもありません。全体に四角形になるように構成されているため、無用のでっぱりが少ないのです。

 では、逆に危険な文字は何か。私が自信をもってお勧めしたいのが、チベット語の表記に使われる「チベット文字」です。

 たとえばこんな感じです。
第13回
 見ての通り、全体的に下に向かって尖っているのです。

 他にも、
第13回
 この文字に至っては、下の部分がまるで剣山です。上の部分を握ってメリケンサックのように使うことすら可能です。
第13回
 こちらは下に突き刺したうえ、上部のレバーを握ってさらに圧力をかけることも可能です。
第13回
 攻撃力を増すために先端に黒曜石のようなものがついています。お前は縄文時代の狩人か。

 この文字はインドで今も使われている「デーヴァナーガリー文字」から派生したと考えられており、7世紀に、名君とされるチベットの王、ソンツェン・ガンポが配下の僧をインドに派遣して持ち帰らせた文字とされています。
第13回
 このように、デーヴァナーガリー文字も下に向かって垂れ下がりがちではあるのですが、チベット文字ほど尖ってはいません。
 派遣された僧たちがインドでロックに目覚め、文字の先をナイフみたいに尖らせてしまったとしか思えません。

 この文字のもう一つの特徴、それは「綴りと読みがかなり乖離している」ということ。
 たとえば先ほどのソンツェン・ガンポ王の綴りは、
Srong-btsan sGam-po
 となるそうで、英語もびっくりの乖離っぷりです。

 現在、チベットは中国の支配下に置かれ、独自文化衰退の危機に置かれていると言われます。
 でも、綴りと読みの乖離も、歴史があるからこそ。
 武器のように尖ったチベット文字で、ぜひ文化を守り通してほしいものです。


究極の文字の条件
武器のような鋭さを持つ

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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

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