究極の文字をめざして

第16回 中二病的ロマンにあふれた文字/ティフィナグ文字

2014.07.21更新

 私が長年あこがれ続けた文字に「ティフィナグ文字」というものがあります。
 これは北アフリカ、サハラに住む遊牧民族であるトゥアレグ族の文字で、このトゥアレグ族、その勇敢さと孤高の暮らしで知られ、着ている服の色から「青の民族」などとも呼ばれるかっこいい人々。
 しかもその文字であるティフィナグ文字は、系統は不明、周辺の文字とは全く違う独自のもので、使っているのはなぜか女性ばかりという......中学二年生が妄想小説の中で思いつきそうな文字なのです。

 そんな中二病的ロマンを感じたのかどうかは知りませんが、同じ系統の言語を使っているモロッコのベルベル人たちが、自分たちの言語を書き記すために「新ティフィナグ文字」を開発しました。

 古代は彼らもティフィナグ系の文字を使っていたのですが、その後アラビア文字に置き換えられていきました。
 民族主義の台頭もあり復活論が出てきたのですが、従来のティフィナグ文字の体系では今の自分たちの言語をうまく書き表わせない。
 困っていたら、古い文献に今まで未発見の文字があり、「あれ、なんかこれ使えばいんじゃね?」ということで開発されたとか。
 古代の資料から隠された文字が見つかるって・・・お前はインディ・ジョーンズか。


 そんな言語と文字の入門書が酔狂にも日本語で発刊されたとの情報が入り、長年ロマンを感じていたことと、俺以外に誰が買うのだろうという無用な義務感から、どう考えても使い道がないのに買ってしまいました。
 定価4600円。
 ミシマ社の経費で落ちますかね。無理ですかそうですか。

 そして手に入れた本を開いてみると、とにかく漂う圧倒的な原始感
 砂漠地帯で使われているならともかく、街に出て、活字となって立派な本になると、この違和感がひしひしと感じられます。

 なぜ原始っぽいのかというと、直線が多いからのような気がします。
 今のような優れた筆記具が生まれる前は、何かに曲線を引くのは難しいことでした。
 だから古代の文字は比較的角ばっているのに対し、時代を経るにしたがって滑らかになってくる、というのが私の仮説(偉そうだな)なのですが、古代からいきなり現代にワープしたティフィナグ文字は、まだその古代性を残しているのかもしれません。

 このモロッコ版ティフィナグ文字、徐々ではありますが浸透してきているそうです。
 こうしてどんどん使われていくに従い、徐々に文字通り角が取れて、スマートな文字になっていくのでしょう。
 それはそれで、ちょっと残念な気もしますが。

究極の文字の条件
角ばった文字にはロマンを感じる

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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

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