究極の文字をめざして

第20回 思いのままにピックアップ/チェロキー文字

2014.11.08更新

 中学生の頃「自分文字」というものを開発したことがあります。
 一時期は学校の授業のノートをこの文字で取るなど自在に操っていたのですが、そのせいで成績が悪くなったのは言うまでもありません。
 今ではさっぱり読めなくなってしまったこの文字ですが、唯一覚えているのは、「あ」を表わす文字が「す」を左右反転させた形だったこと。
 つまり、「す」のくるっと回転させる部分が左ではなく右についていたわけです。
 なぜかと言われても困りますが、一から自分で文字を作るより、ある文字を適当に借用してしまえ、という省エネ発想だったのかと思います。

 この省エネを地で行った文字があります。アメリカ先住民の一つであるチェロキー族の使う「チェロキー文字」です。

 この文字を作り出したのは、チェロキー族のシクウォイア(Sequoyah)という人物で、19世紀初頭のことです。
 当時のチェロキー族は文字を持たず、彼もまた文字は全く読めなかったのですが、白人たちが文字というものを使って記録を取っているのを見て、「お、これは使えそうだ」と思い立ちました。
 ただ、英語も話せない彼は、とりあえず白人たちが使っているアルファベットの教本を手に入れ、そこに載っている文字を、自分たちの言葉の音に適当に当てはめていくという離れ業をやってのけました。
 しかもラテン文字だけでなく、ギリシャ文字やキリル文字まで総動員。
 その結果、「どことなく見たことがあるけど、さっぱり読めない」というフラストレーションがたまる文字が誕生したわけです。

 たとえば、「Ꭱ」はどう見てもアールですが、こいつは「e」と読みます。同様に、「Ꭰ」は「a」、「Ꮃ」は「la」、「Ꭺ」は「go」などとなっております。
 さらに、ギリシャ文字の「Ꮎ」は「na」、キリル文字の「Ꮁ」は「hu」、さらに数字まで動員してしまい、「Ꮞ」は「se」と読む文字に早変わりするなど、まさに文字の万国びっくり大博覧会の様相を呈しているのです。
 ちなみに一つの文字が一音節を表わすという、カナと同じ仕組み(音節文字)です。

 例文を挙げると、こんな感じです。

ᎾᎥ ᏔᎾᏏ ᏛᏍᎩᏥ ᏙᏧᏙᎥ ᎦᏚᎲ, ᎤᎿ ᎨᏎ ᎤᎨᏓᎵᏴ ᏕᎨᎦᏨᏍᏔᏁ ᎠᏣᎳᎩ ᎤᎬᏩᏳᎯ ᎤᏪᏥ, ᏭᏖ, ᏃᏊᎴ ᏅᏕᏂᎵ ᎩᏍᏗ. ᏗᎦᏁᎦ ᏗᎦᎾᏕᎩ ᎨᏎ ᏅᏕᏂᎵ. ᏭᏕᏁ ᏏᏉᏯ ᎦᎵᏆᏍᎪ ᎦᎵᏆᏚ ᏑᏓᎵ ᎤᏕᏗᏴᏌᏗᏒᎢ.

 ぱっと見、ラテン文字っぽいのに、まったく読めないというもどかしさを感じていただけますでしょうか?

 これだけいろいろな文字を流用すれば、一つくらい偶然読みが同じになりそうなものですが、すがすがしいまでに違っています
 知っててわざとずらしているんじゃないか、とすら思います。

 とまぁ、正直文字の開発方法自体は、私の「自分文字」と同レベルです。
 ただ、シクウォイアのすごさは、その文字を普及したこと。
 これは他の多くの文字を持たない人々の間でも同様ですが、文字は「魔術的」なものとして敬遠されがちでした。このチェロキー文字も最初はなかなか受け入れられず、最初に学んでくれたのは彼の6歳の娘だったそうです。
 その後もあちこちに出向いては文字の有用性を説き、辛抱強く文字を普及していきました。
 彼が願っていたのは、白人たちの施策により居住地が離れ離れになってしまったチェロキー族たちを再び一致団結させること。
 たしかに文字があれば、遠くの人たちが意思疎通することも簡単なわけです。

 面白いなぁと思ったのが、彼らチェロキー族たちは文字のことを「トーキング・リーフ」と呼んでいた、ということ。
「モノを言う葉っぱ」、つまり「言葉」。
 彼がこの文字を普及させたおかげで、今でもチェロキー文字の新聞が発刊されるなど、言葉を載せる葉っぱとして大いに機能しているわけです。

 ちなみに「シクウォイア」を表わす文字は、
ᏍᏏᏉᏯ
 となり、心なしかカッコいい文字が並んでいるような気がします。
 ランダムにピックアップするにしても、やっぱり自分の名前を表わす文字は、ちょっとカッコいいのを選んだんじゃないかなぁ、などと勝手に夢想しています。


究極の文字の条件
文字そのものの開発は省エネでOK

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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

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