究極の文字をめざして

第24回 リーゼントブルース/シリア文字

2015.03.23更新

 世界史を専攻した人は、「アッシリア語」や「アラム語」といった言語のことをなんとなく、かすかに覚えているかもしれません。
 どちらも古代中東で使われていた言語で、とくにアラム語は「イエス・キリストが使っていた言葉」として、一部好事家の間ではそれなりに知られた言葉です。

 完全に古代のものと思われがちなこれらの言語ですが、実はまだ、シリアやレバノンあたりにひそやかに残っていると知ったとき、かなり驚きました。
お前はシーラカンスか!
 と思わず突っ込みを入れてしまいましたが、別に私が知らなかっただけでずっとその地に存在していたわけですから、なんとも失礼な話ではあります。

 さらに、それだけでなく、彼らが「シリア文字」を今でも使っている、と聞いて、非常に興奮したものです。
 シリア文字とは紀元後から1000年くらいにわたってこの地域周辺で広く使われた文字で、こんな形をしています。

 これで、「アッシリア語」を表すそうです。
 なんとも古代っぽい文字で、「お前はやっぱりシーラカンスか!」と突っ込みたくなる素敵なフォルムです。

 この文字、右から左に書かれ、母音を基本的には表記しないというシステムで、現在残っている言語で言えば、アラビア語と同じです。
 それもそのはず、実はアラビア語とルーツは一緒で、たとえば「シリア語」を表す

 などを見れば、真ん中のうにゅーんと伸ばすあたりにアラビア文字の色気を感じてもらえるのではないかと思います。

 この文字、全体的に低い場所でうねうねしているような感じなのですが、たまにしゅっと上に向けてパンチを繰り出すような文字が現れるので、油断ができません。
 たとえば、「(l)」とか、「(a)」とか、「(t)」といった文字です。
 とくに「」の文字の、右上に伸び上っていくあたりなど、ツッパリ兄さんのリーゼントのようにも見えます。
 そのせいか、たとえば先ほどの

 といった文字列を見るたびに、背が低いツッパリが「なんじゃワレエ?」と下から睨み付けているような印象を受けます。

 日本人の目からは変わったフォルムが多い文字に見えますが、アラビア文字などを知っていると、「ああ、あの字と似ているな」というのが結構見えてきたりします。
 そうでなくても、たとえば、

 という文字があり、「g」と読むのですが、これはおそらくギリシャ文字のガンマ「γ」とルーツが同じで、向きが微妙に変わっただけだと思われます。
 このように、よくよく見てみると似たような文字が出てくる、というのは、古代文字を読む醍醐味。見かけたら、ぜひ注意してみてください。
 まぁ、まず見かけないかと思いますし、見かけるとしたらシリアでしょうから、古代文字を愛でている場合ではありません

 ともあれ、早くシリアに平和が戻り、文字に気軽に接することができるようになれる日が来ることを願います。


究極の文字の条件
リーゼントっぽい文字があると尖って見える

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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

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