究極の文字をめざして

第27回 そこを取るんだ!?/ターナ文字

2015.07.02更新

 今回取り上げるのはディヴィヒ語のターナ文字です。
 ......といっても、「どこの誰だ?」という感じかとは思いますが。

 ディヴィヒ語は、最近ではリゾートでも有名なモルディブの言語で、公用語でもあります。言語的にはインド系(インド・ヨーロッパ語族)ですが、アラビアの影響を受けているのが特徴。
 モルディブ人自身も、イスラム教徒が多いです。

 モルディブとは、インドの古典語であるサンスクリットで「花々の島」という意味。
 その名の通り美しい島々に、インドとアラブの混淆したユニークな文化を持つ人々が住んでいます。
 まさに、インドとアラブの「いいとこどり」。
 それがモルディブなのです。

 一般に文明の交差点と呼ばれる場所では、優れた文化が生まれるといいます。
 そしてモルディブでは、文字すらも両文明の「いいとこどり」をしようと考えました。

 どうしたかというと、アラビア数字の1~9と、インド数字の1~9を、それぞれ適当な音に当てはめたのです。

 え、そこ取ったんだ? そこでいいの!?

 前回もちょっと取り上げましたが、「アラビア数字」は今の日本で言うアラビア数字とちょっと違って、

 というように書かれます。
 で、「ターナ文字」は、これらアラビア文字の1~9を元に、

 という感じの文字を作りました。なるほど似ています。

 読み方はたとえば「1」を表わす「」が、「h」、「2」()が「sh」など、適当に音が割り振られています(何か意味があるのかもしれませんが)。
 そして、アラビア語の1~9が終わると、

...

 と、今度はインド文字を元にした文字が始まります。

 つまり、1を「あ」、2を「い」とか割り振って、「164543663」で、「ありがとう」とか表記するようなものですね。
 暗号か。

 察するに、文明の交差点だけに、インド人、アラブ人両方に、「いやー、どっちの文字も素晴らしいですなぁ」などとおべっかを使っているうちに、双方から「じゃあ、うちの文字、使うよね?」と迫られて、仕方なくこうしたのではないでしょうか。

 でも、そこであえて「数字」を使うことで暗号化し、アラビア人、インド人どちらも読めない文字が誕生した。
 これで思うまま、アラビア人やインド人の悪口が書ける......。

 文明の十字路ゆえの悲哀と、モルディブ人の反骨精神から生まれた文字。
 勝手な推測ですが、そう考えるとなかなかに味わい深い文字です。



究極の文字の条件
あえてもとの言語を「暗号化」するのもまた一興

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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

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