究極の文字をめざして

第28回 チェック済み/テルグ文字

2015.08.23更新

 学生の頃よく、学校の近くにある居酒屋「天狗」に行ったものです。
 つい最近、同じ場所に行ってみると店名が「テング茶屋」になっておりました。
 「天狗」を「テング」とカタカナに変えることでよりキャッチーに、「茶屋」とすることでオサレ女子の利用を狙う......という戦略かなと思いましたが、実際には昔と変わらぬ単なる居酒屋でした。
 何にせよ、「カタカナにしようと茶屋にしようと、天狗から離れなければ女子は呼び込めまい」と思った次第です。

 さて、そんな無意味な前段を経て、今回取り上げるのは「テルグ文字」です。

 インド南部・アーンドラ・プラデーシュ州を中心に8000万人もの人口を誇る「テルグ人」。その言語であるテルグ語を表記するための文字です。
 テルグ語は実に、ヒンディー語、ベンガル語、パンジャーブ語に次いでインドで使用人口4位の大言語であり、インド南部を中心に広がる「ドラヴィダ語族」に属する言語では、最大の規模を誇ります。
 思わず「テングになるなよ!」とでも言いたくなる言語です。

 その特徴ですが、ちょっと見ていただくとおわかりの通り、この「チェックマーク」です。
 謎のチェックマークがついた文字がなぜか多いのです。



 昔、ある王様が臣下に文字を作らせ、「この字はダメ」「この字は採用!」と、採用する字にチェックマークを付けていったのを、そのまま文字に組み込んでしまった......なんて理由だったら愉快なのですが、まったく違います。

 インド系の文字というのはもともと「ブラーフミー文字」というものがルーツとなっているのですが、これはこんな感じの文字です。



 ただその後、どこの誰だか知りませんが、「文字の上に飾りとかつけるとヤバいよな!」とか言い出した輩がいたらしく、ちょっとした頭飾りがつくようになりました。
 たとえるなら、単なる縦棒「|」が、「I」になった、といったところです。
 その飾りがどんどん長くなり、「T」みたいになった文字もあれば、さらに装飾的に「Y」みたいになっていった文字もあります。さらにその飾りがつながって一本になってしまったのが、インドで最大の使用人口を誇るデーヴァナーガリー文字(ヒンディー語など)。



 私はこれを「インド棒」などと呼んでいるのですが、実はこれ、長くなった頭飾りのなれの果てだったのです。
 ただ、単語と単語のつながりがわかるので、意外と便利ではあります。

 そしてテルグ語に関しては、この飾りがチェックマークとして残った、ということのようですが......
 だったらもういっそ取ればいいのでは?

 まぁ、それでもこのマークが妙な魅力を醸し出しているのも事実。

 たとえば、私が一番好きな文字はこれ。



 「da」を表わす文字ですが、マークが「結び目」のように見え、紐でつるした桃を持ち運んでいるかのようです。
 他にもメロンにしか見えない、



 (ra)など、なぜかこのマーク、文字が潜在的に持つフルーツっぽさを引き出す効果があるようです。
 そんなもの引き出すべきかはよくわかりませんが。

 謎のこだわりを持つテルグ文字。
 先ほど、人口が多いと言いましたが、実は存在感が意外と薄く、たとえばドラヴィダ語系の民族の中では、人口的にはより少ない「タミル語」こそが代表、と言われたりします。
 タミル語の歴史の古さや文学作品の多さに加え、テルグ語の言語や文字の標準化が進んでいない、という問題もあるようです。
 ある意味、ちょっと不遇な言語であり、文字なのです。



究極の文字の条件
チェックマークを付けて持ち運びしやすいようにする

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

バックナンバー