究極の文字をめざして

第30回 他人の空似/オルホン文字

2015.11.01更新

 日本語は世界の有力な言語としては珍しい、系統がまったくわからない言語です。
 どの言語と親戚関係にあるのか、そもそもの発祥はどこなのか、いろいろな説はあれどいまだ定説と呼べるものはなし。
 そのため、いわゆる「日本語系統論」というのが昔から花盛りで、日本人はモンゴル語やトルコ語と同じアルタイ系だとか、南方のポリネシア系だとか、果てはインドのタミル語と同じだとかユダヤ人のヘブライ語と同系列だとかいうエクストリームなトンデモ論がまことしやかに語られたものです。

 以前何かの本で、日本人の名前の「なんとか左衛門」の「ざえもん」は、ユダヤ人の名前の「サイモン」から来たのだという説を読んだときには、子供ながらに「人間はなんと自由に想像の羽を大きく広げられることであるか」と思ったものです。
 まぁ、鳥人間コンテストだと、羽が大きすぎるやつはだいたい垂直に落下するのですが。

 そもそも、サイモンは英語読みで、ヘブライ語では「シモン」だろうとか、太郎とか次郎ではなくなぜピンポイントで「左衛門」なのかとかいう前に、モンしか会ってないだろモンしか、と強く思ったものです。
 あの本、まだどこかの古書店に眠っていたりするのだろうか。勘弁してほしいです。

 そんな発想力豊かな方々に、ぜひともお見せしたい文字があります。
 まずはこちら。



 以前にも取り上げたことのあるルーン文字です。3世紀くらいに生み出され、中世まで使われた北欧のゲルマン人固有の文字。今でもその呪術的な雰囲気から、占いなどで使われることもあります。

 もう一方が、8世紀以降の中央アジア、現在のモンゴル付近で使われていたオルホン文字です。



 似てますね。
 ていうか、もうこれ同じ文字だろ。

 はい北欧人とモンゴル人は同系列決定。
 いやむしろ直接交流があったに違いない。
 この時代、遠距離を苦にせず交流できるということは、相当な移動力を持っていたはず。
 彼らはすでにワープシステムを実現化していたに違いない。
 それは宇宙人が残した超古代文明が(以下略)
 と、アレな人たちが一瞬でヒートアップする様が目に浮かびます。

 もちろんこの両者、全体の雰囲気と一部の文字がたまたま似ているだけで、読み方も表記システムもまったく違います。
 そもそも、どちらの文字ももとをたどればフェニキアのアルファベットにたどり着くので、形が似ていてもそれほど不思議とも言えません。

 それにしても、なぜここまで似ているかといえば、どちらの地域も紙や葉などの柔らかい素材が少なく、石や木に文字を彫り込むことが多かったため、直線的なフォルムになったと考えられます。

 そういえば、同じくヤシの葉に書くシンハラ文字とジャワ文字もその丸まっこいフォルムがそっくりですし、筆とインクで書くという共通点がある中国の漢字とエジプトのヒエラティックは、ちょっとはっとするほど似ていることがあります。
 同じくアラビア文字とウイグル文字やモンゴル文字の流線的なフォルムは、きっと砂に文字を書いたからに違いありません(嘘)。

 ともあれ、文字の形はまったくのオリジナルかと思いきや、意外と環境に左右される、というお話でした。

 このオルホン文字については、もう一つだけ面白い特徴があるので、また次回に。


究極の文字の条件
文字の形は書くものや書かれるものによって左右されがち

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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

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