究極の文字をめざして

第33回 丸から始まり丸に終わる/タイ文字その1

2016.01.27更新

 私の手元に、「タイ文字の書き順を勉強する本」があります。
 文字の解説だけでなく、なぞりながら習得することもできる本格派。
 なんでそんなもの買ったのかさっぱり覚えていませんが、なんとなくたまに見返しています。

 ちなみにこの本、帯に「ドリアンは果物の王様。タイ文字は文字の王様」と書いてあるのですが、最後まで読んでもその根拠がどこにも出てきません。
 見るたびに、ちょっと心がざわつきます。

 それはともかく、今回取り上げるタイ文字は、日本でもよく見かける代表的な外国の文字と言えるでしょう。
 その独特のかわいらしさで女子高生に大人気かもしれないという説もあったりなかったりするそうです(ちなみに、タイの女子高生の間では日本語のカナが「カワイイ」と大人気だとか。世の中、需要と供給のバランスがうまくいかないものです)。

 見た目のかわいらしさは、なんといってもその「丸」の多さでしょう。
 例えば、「タイ王国」を表す以下の文字、



 実に13文字中9文字に丸が入っています。
 フックをかけて吊るすのに便利そうですね。

 ちなみに「ラーチャ・アーナーチャク・タイ」と読みます。
 このうち、後ろから5つめの文字



は、「カ」を表す文字で、ここでは「アーナーチャク」の「k」を表しているのですが、この文字の解説を読んでみると、
 「タイ文字には珍しく、丸のつかない文字です」
とあります。
 やっぱり自分でも、丸の多さを自覚はしているようです。

 この丸、一つならまだいいですが、


となってくると、「最初のやつはともかく、右下のそれ、わざわざくるっとしなくてもいいんじゃないか?」という気にもなりますし、一つの文字の中に3つ丸が入っている


という文字になると、うっすらとした狂気すら感じられます。

 元々、カンボジアで使われているクメール文字がタイ文字のルーツで、このクメール文字にもわりと丸が多いのですが、ここまでじゃありません。
 カンボジア人たちはそんなタイ文字を見て、
 「あいつら、丸くなっちまったな」
とか思っているかもしれません。
 大都会で人間関係の荒波にでももまれたのでしょうか。

 なぜ丸まっていくかというのは、多少は論理的に説明できます。
 文字は誕生した頃には主に、木に刻まれたり石に彫り付けられたりしたため、どうしても直線が多くなります。
 それがだんだんと滑らかな素材に書きつけられるようになり、徐々に丸みを帯びてくる、という寸法です。
 ちなみに今のようにワープロ、プリンター時代になると文字はどう変化するのか、これもまた面白いテーマです。「インクの減りが少ない文字」なんてのも現れてくるかもしれません。

 この丸の唯一のメリットと言えるのは、「書き順がわかりやすい」ということです。
 どんな文字でもほぼ、この丸から書き始めることになっているのです。ただ、


とか


とかはわかりますが、


とかは、下の丸から書き始めて、上にグイッと持ち上げねばならないので、明らかに地球の重力に反した書き方をしなくてはなりません。
 あれ、メリットじゃないか?

 ともあれ、なぜここまでタイ文字には丸が多いのか。
 もう「この丸はドリアンを表している」ということにしてしまっていいかもしれません。
 ほら、タイ文字は「文字の王様」ですから。


究極の文字の条件
丸を多用すると高貴なイメージになる

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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

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