究極の文字をめざして

第36回 かな導入のご提案(ひらがな)

2016.04.26更新

 最近、「クールジャパン」ということで、日本文化を海外へ輸出する流れが一種のブームとなっております。
 食文化、マンガ・アニメ、ファッション......それらは確かに素晴らしいものですが、何か大きなものを忘れてはいないでしょうか。
 そう、日本固有の文字である「ひらがな」「カタカナ」です。

 文字を語るというこの連載において、この二つを忘れるわけにはいきません。

 かつて文字を持たない言語に対して、欧米の、主に宣教師たちが、ラテン・アルファベットを使ってその言語を書き表す方法を開発しました。
 そういった経緯もあり、アジア、アフリカなどを中心に、新興国の多くの言語がラテン・アルファベットを使うに至っているのですが、世界にはまだ、文字を持たない言語が数多くあります。
 そんな人たちにぜひ、「かな」の素晴らしさを伝え、採用してもらいたい......。
 その熱き思いを「パワーポイントによるプレゼン資料」にまとめました。

 「文字を持たない人たちに、パワーポイントのプレゼンが通じるのか」という問題に後から気づきましたが、気にせず進めていきたいと思います。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 「えー、本日はお忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます。私、日本かな文字普及推進委員会の松と申します。今日は錚々たる方々の前で緊張しておりますが、モジモジすることなく文字の魅力をPRさせていただきます」

 ウィットに富んだ文字ジョークで聴衆は大爆笑。心をばっちりつかみます。プレゼン相手が日本人でないことは、この際無視します。

 「では、まずはスライドの一枚目をご覧ください」



 プレゼン資料もいまや、ビジュアルが大事。ということで、みんな大好き知名度抜群の富士山のイメージで「クールジャパン」を猛アピール。
 同時に、「ダイバーシティ時代のオンリーワンを目指して」という何かを言っているようで何も言っていないサブタイトルで知性をきらりと光らせることも忘れません。

 クライアントをぐっと引き付けてからの、スライド2枚目。



 最初のメリットを紹介する前に、仮想敵であるアルファベットを落としにかかります。
 「み」を表すのに「MI」と二文字も使わねばならないラテン・アルファベットの燃費の悪さを批判しつつ、それがひいては地球環境すら悪化させる可能性も指摘。
 入力に疲れ果てた(と思われる)女性のイラストで、職場環境の悪化も示唆します。



 ここで一転、スライドをめくり、かなのメリットをアピール。
 「なんと、たった3文字で『ミシマ』が表記できるのです!」
 と、ドラマチックに訴えかけましょう。

 ここでもし、
 「その分多くの文字を覚えなくてはならないのでは?」
 とか、
 「そもそも、ワープロで打つ際は結局『MI』と入力するので、文字入力の手間は変わらないのでは」
 というもっともな疑問が上がってきたら、笑顔で「その点については、後日調整させていただきます」と答えましょう。
 どう調整しようもありませんが、ここで動揺を見せてはいけません。


 クライアントの期待(不安か?)が高まってきたところで、次の一撃。
 フォルムのスマートさをアピールします。



 不良が肩を怒らせて歩いているような「M」のフォルムを強調し、「こんな文字と街中でぶつかったら、子供が怪我をしてしまうかも」という危険性を指摘することで、保護者の親心を喚起。
 そのうえで、なめらかでやさしいかなのフォルムをアピールするという寸法です。
 「街中で文字とぶつかるって、どういう状況だ?」という突っ込みは、勢いで乗り切ります。

 ここまでくれば、クライアントもかな採用にかなり傾いているかと思います(そうか?)。
 ただ、ここまではどちらかというと主観的、感性的な話が中心。
 そこで、より客観的、学術的に、かなのマクロ的なメリットをより高い視点からアピールしていきます。
 こういうときは、最新ビジネス理論を都合よく用いるのが手です。



 ここでいう「ブルーオーシャン」とは、INSEAD(欧州にある名門経営大学院)のチャン・キムとレネ・モボルニュが説く経営戦略の一つで、競争の激しい既存市場ではなく、競合のいない市場(ブルーオーシャン)を探し出し、そこで勝つことを目指すというもの。
だから、競合が少ない(と思われる)日本語を使用することはまさにブルーオーシャンだ、と強くアピール。
 多分、キム、モボルニュ両氏が聞いたら卒倒するような論ですが、聞いているわけもないので笑顔で言い切りましょう。

 さらに、そして畳みかけるように次のスライド、「その他のメリット」を紹介。



 ここで大事なのはとにかく数。なんでもいいので集めましょう。
 その結果、途中から明らかに怪しい話になっていますが、5秒くらいで画面を切り替えて、華麗にスルーさせるのがポイントです。

 最後に「導入に向けてのロードマップ」(この「ロードマップ」という言葉もかっこいいです)で、ダメ押しを。



 単なる一方通行の矢印だけでは芸がないので、円を描くような逆向きの矢印を活用することで、「双方向感」を出すのもテクニックの一つ。
 決して、ミーティングが紛糾して先に進まない状況を表わしているのではありません。

 「これで終わりか」と思ったところにさらにもう一つ、お得な情報を付け加えるのもプレゼンのテクニックの一つ。
 通販番組でよくやっている「布団がさらにもう一枚!」「高枝切りバサミをセットで」というアレです。



 ポイントは「何が30%オフなのか曖昧にしておく」ということでしょうか。

 いかがでしょうか。
 クールジャパン全盛の今こそぜひ、多くの人に「かな」の魅力を知ってもらうべく、政府にもぜひ前向きに検討してもらいたいと思っております。


究極の文字の条件
弱点はプレゼンテクニックでもみ消す

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

バックナンバー