究極の文字をめざして

第37回 タイガージェット文字/グルムキー文字

2016.06.28更新

 インド人の典型的なイメージはいまだに「ターバンを巻いてサーベルを振り回し、名前はシン」というものですが、これはどう考えてもかつて一世を風靡した悪役プロレスラー、タイガー・ジェット・シンの影響以外の何物でもないと思われます。
 今の若い人は知らないと思いますが、かつてはそれはそれは有名な人物で、学生の頃の私の持ちネタ、「始皇帝が作った、中国初の統一王朝の名は?」「タイガー・ジェット・秦」というギャグが同級生にどっかんどっかん受けていた時代があったほど。
 でも実際にインドに行くと、地域にもよりますがターバンを巻いている人はごく少数で、サーベルを振り回している人にいたっては極めて稀です。
 実はターバンを巻いている人の多くはインド人の中でもシーク教徒の人がほとんど。
 シーク教は、インド北西部・パンジャーブ地方で、16世紀にグル・ナーナクによって創始された宗教で、髪や髭を剃ることを禁じられており、それをまとめるためにもターバンを被るそうです。ちなみにグルとは指導者の意です。

 ヒンドゥーでも、イスラムでもない新宗教だったシーク教だけに、様々なモダンな改革が行われました。その一つが文字改革。
 当時のパンジャーブ地方ではランダー文字という文字が使われていましたが、二代目グルのアンガドが、「うちらの使ってる文字、読みにくくね?」ということで、既存の文字を改良して作られた文字なのです。
 基本はインド系の文字ですが、誰にでもわかりやすくということで、幾何学的に簡略化されているのが特徴。
 こんな感じです。



 はい、ほとんどの人には他のインド系文字と区別がつかないかと思います。
 でもそんなことをいったら、グルに怒られます。
 「グル、それほど読みにくくないすよ」
 「なんだとコラ、ムキー!
 だからグルムキー文字、だったらなかなかアバンギャルドなのですが、そうではなく、グルの口(ムキー)が、由来です。そりゃそうだ。

 さて、一見他のインド系文字と区別がつかないグルムキー文字の見分け方をお教えしましょう。キーワードは「宇宙」です。

 たとえばこの文字を見てください。



 そう、UFOキャッチャー以外の何物にも見えません。
 ちなみに「n」を表します。



 この文字(l)は改良型のUFOキャッチャーと思われます。
 支える部分がしっかりしているので、巨大なリラッ○マでもなんなく持ち上げそうです。

 まぁ、「UFOキャッチャーは宇宙じゃないだろ」というもっともなご指摘があるかと思いますが、この文字を見てください。



 これはどう見ても、「UFOキャッチャーから怪光線が発せられている」、いや、もはやキャトルミューティレーション以外の何物でもありません。
 ご存じない方のために念のため説明すると、キャトルミューティレーションとは、UFOとかが怪光線を発して、牛などをUFOに釣り上げていくという、UFO特番でよく見るあれです。
 この文字の下に、かつてヒエログリフの「牛」を表す文字から作られたギリシャ文字のアルファを並べると、



 今まさに、牛をめがけてUFOから怪光線が発射されているようにしか見えません。

 ともあれ、500年も前に作られたのに宇宙を感じられるこの文字、文字は洗練されればされるほど、宇宙に近づくということかも知れません。


究極の文字の条件
文字は改良を重ねると、宇宙につながる。

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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

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