究極の文字をめざして

第38回 にょろにょろが人をイラつかせる(ポルトガル語)

2016.07.26更新

 リオ五輪がいよいよ始まりますね。
 ということで、ブラジルの言語であるポルトガル語、そしてポルトガル語の文字について取り上げようと思ったのですが、この言語、なんというかとくにこれといって特徴がないのです。
 文法も発音もそれほど難しくなく、使っている文字はラテン・アルファベットで、比較的そのまま読めばいいという単純さ。
 ロベルト本郷やラモスといった濃いキャラクターが使っているにもかかわらず、言語としては非常に単純なのです。

 でも、その単純さの中で異彩を放っている文字、あるいは記号があります。
 それが「にょろにょろ」です。

 たとえばブラジル最大都市であるサンパウロの名前は


と綴られますが、このaの上になんだか変なにょろにょろがついているのがおわかりかと思います。
 ポルトガル語で「ティウ」と呼ばれる記号です。
で「サン」と読むのですから、これが「n」を表すんだろうな、というのはなんとなく想像がつくと思います。
 ただ、正確には鼻音のエヌ、つまり「鼻にかかったnの音」を表わすのです。
 むりやりカナで表すと「サァン」という感じでしょうか。
 つまり、「サァン・パーウロ」。
「今度、出張でサンパウロに行くんだ」というと普通ですが、
「今度、出張でサァン・パァウロに行くんだ」というと、なぜか無性に腹が立つのはなぜでしょうか。
 あまり積極的に日本語の中に入れていきたくない、妙に気取った音なのです。

 ただこの「にょろにょろ」、意外と日本にも関連があるのをご存知でしょうか。
 たとえば、日本人が当たり前のように使っている「パン」。
 これは実はポルトガル語から入ってきた語なのですが、この綴りは
 つまり、正確には「パン」じゃなくて「パァン」となるのです。

 あの自己犠牲で有名なヒーローは「アァンパァンマァヌ」とでも発音したほうがよりポルトガル語らしくなるわけです。

 はい、もちろん、「アン」と「マン」はそのままでいいのですけどね。
 なんというか、ノリでやってしまいました。

 ところでスペイン語になると、このにょろにょろが子音の上に現れて、


 こんな感じになります。
 これで「ニャ」と読むのです。ニャ。

 このように使われ方はいろいろですが、どれもこれも「エヌっぽいな」と思った人が多いかと思いますが、それもそのはず、このにょろにょろはもともと、小さい「n」を文字の上に書いたことが始まりだったのです。
 それが簡略化され、今の形になったというわけです。

 残念ながら「リオ・デ・ジャネイロ」という語の中にはこの文字は現れませんが、オリンピックの映像に映るポルトガル語の中から、この文字を探していただくのも面白いかと思います。

 たとえば、開会式が行われるマラカナン・スタジアムの「マラカナン」は、
。オリンピックの話をしている友人を見かけたら、積極的に「マラカナンじゃないよ、マラカナァンだよ」などと指摘してあげましょう。
 迷惑がられること必至です


究極の文字の条件
エヌを鼻にかけると嫌われる

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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

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