究極の文字をめざして

第40回 コケコッコー/ヘブライ文字

2016.09.22更新

 最近のPCやスマホの性能はすごいな、と思うことの一つに、使える言語の豊富さが挙げられます。
 たとえばiPhoneで「使用言語」のプロパティを開くと、ロシア文字やアラビア文字はもちろん、タイ文字やヒンディー文字なども使えます。
 うれしくなって思わずヘブライ文字を選択。
 画面の表示が一瞬ですべてヘブライ文字になり、思わず「おおっ!」と歓声を上げてしまいました。

 ただ、そうすると当然のことですが「設定」とか「言語」という表示もヘブライ語になってしまうわけです。
 どこをどうしたら元に戻るのかわからなくなり、しばらく途方にくれました。

 さて、そんながっかりエピソードで知られる(俺だけか)ヘブライ文字ですが、私はこの文字を見るたびに「古代の風」を感じます。
 「風を感じる」というと中二病の人かナ○シカみたいですが、実際、この文字の歴史は古く、遅くとも紀元前後には今のような形に落ち着いたと言われています。
ただ、単純に古いというだけならば、ギリシャ文字やラテン文字、インドのデーヴァナーガリー文字はさらに古いですし、字体がだいぶ変わったとはいえ、漢字もさらに歴史のある文字です。
 なのになぜこのヘブライ文字に古代を感じるのか。
 それは、この文字が文字として稚拙なところを残しているからだと思うのです。

 そんなことを言うと、イスラエルの諜報機関であるモサドに暗殺されそうですが、まずは話を聞いてください。

 文字は一般に、歴史を経るにしたがって「書き分け」ができるようになります。
 似通った形の文字があったとしても、それが徐々に明らかに違う形に進化していくわけです。
 逆に言えば、古代の文字ほど似通った文字が多いということなのですが、このヘブライ文字、そうした文字が多いのです。たとえば、

 なんて、ほとんど誤差の範囲に見えますが、しっかりと違う文字なのです。
 ちなみに一番上が「b」を表す「ベート」、二つ目が「k」を表す「カフ」、最後のが「n」を表す「ヌン」です。

 ヘブライ文字はアラビア文字と同じく、母音を表記しません。
 ということで、「バカな子ばっか(BKNKBKK)」といいたければ、

と、鶏の鳴き声みたいなことになってしまうわけです。コココココ。

 ちなみに、この文字に「v」を表す「ו(ヴァヴ)」と、「d」を表す「ד(ダレット)」、さらに「ע(アイン)」という文字を加えることで。

 「コケコッコ」が再現できます。
 驚くほどどうでもいい情報ですが。

 以前、イスラエルに行った際、この文字が現役で使われていることにいたく感動したものです。
 それもイスラエルというのは意外なほどの近代国家。近代的な建造物にこの文字が書かれているわけですから、なおさらユニークなわけです。

 このヘブライ文字もヘブライ語も、一部のユダヤ人家庭で細々と使われていたのを、「現代ヘブライ語の父」と呼ばれるベン・イェフダーという人物が現代に復活させたことで、日の目を見ることになりました。
 イスラエル建国についてはいろいろな問題を生み出しもしましたが、一つの文字がこうして日の目を見るというのは、文字ファンにとってはうれしいことです。

究極の文字の条件・古い文字には古い文字なりの良さがある

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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

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