究極の文字をめざして

第44回 マヤ文字/突っ込みどころは泉の如く

2017.05.02更新

 マヤ文字について語りたいのですが、突っ込みどころが多すぎて、どこから話していいものか迷います。
 たとえるなら、定年間際のベテラン社員が、ギャル上がりの新人女子社員の指導をするがごとく。
 「時間は守ろうね、あと、年上にタメ語はやめようね。それと、そもそも会社にサンダルで来るのもやめておこうか

 ともあれ、まずは見ていただきたいと思います。
 こんな感じです。



 まず、どれが文字なのかという話ですが、右に4列ほど、左に一列ほど、鎌倉彫の文様みたいなのが書かれたパネルが並んでいますよね。
 この一つ一つが文字です。

 「なんかパネルの中にちらちら、薄気味悪い人の横顔みたいなのが見えるけど......」
 と思う方もいるかもしれません。
 たとえばこの文字、



 人かどうかは疑問ですが、これは横顔にほかなりません。
 そして横顔ですが、文字です

 さて、文字には「読み順」があります。
 ラテン・アルファベットなら左から右、アラビア文字なら右から左、日本の文字なら上から下、あるいは左から右ですね。
 マヤ文字は、「左上から読み始め、まず右に、次に左斜め下、そして右......」の繰り返しです。
 ちょっと何言ってるのかわからないかと思いますが、たとえば
ABCD
EFGF
IJKL
というふうに文字が並んでいたとしたら、
A→B→E→F→I→J→C→D→G→F→K→L
となる、ということです。

 ここまで話してもまだ突っ込みどころは半分、といったところ。
 そんななんともやっかいな文字なのです。

 ところで、写真が荒くてすいません。
 以前、メキシコのパレンケ遺跡に行って自分で撮ってきた写真なもので。
 その際は10日間ほどかけて、中米のマヤ遺跡を回り、この文字の書かれた石碑をあちこち巡ってきました。
 大好きか。
 すいません、先ほどやっかいな文字などといいましたが、実は結構好きなのです。

 マヤ文字は、かのマヤ文明にて使われた文字。
 紀元2世紀くらいから現われ、9世紀ごろまで盛んに使われていました。
 ただ、9世紀以降マヤ文明は謎の衰退期に入り、文字もだんだん廃れていくことに。
 そんななかでスペイン人が中米に進出し、一部の狂信的なキリスト教徒たちが残った写本を焼き尽くすという暴挙に出たこともあり、マヤ文字の知識は完全に断絶。以後、この文字を読める人はまったくいなくなってしまったのです。

 その後、マヤ全盛期の遺跡がジャングルの中から発見されるにしたがって、この謎の文字の彫られた石碑が大量に見つかるのですが、そのあまりに独特の形状から「文字じゃなくて単なる装飾では?」「文字だとしても、原始的な絵文字に過ぎないのでは」などと言われていました。

 20世紀に入ってから徐々に解読が進み、実はしっかりとした文法を持ったれっきとした文字だということが判明。
 単なる装飾だと思われていた石碑から、失われしマヤ人たちの歴史が次々とよみがえっていったのです。
 このあたりの経緯はマイケル・コウ著『マヤ文字解読』に詳しく書かれています。
 知的興奮間違いなしの名著、お勧めです。

 とはいえ、本書を読んでマヤ文字の仕組みがわかった今でも「よくこんな文字が読めたな」というのが正直なところ。
 私の手元にはマヤ文字のリストがあるのですが、それでも先ほどの「リーゼントが二手に分かれた、眼がキラキラしたおっさん」の文字、



 これがどの文字に当たるのかよくわかりません。
 というのは、このマヤ文字、書く人によって文字のタッチはもちろん、形すら融通無碍に変わってくるので、素人目にはどの文字だかわからなかったりするのです。
 なんだそりゃ。

 それでもあれこれ見比べて、数字の4かも、となったのですが、確信は持てません。
 そもそも、数字の4を書くたびにこんなおっさんと対面しなくてはならないのは嫌です

 このように、突っ込みどころがルルドの泉のように湧いてくる唯一無比の文字。それがマヤ文字なのです。

究極の文字の条件 横顔で何かを語る

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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

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