究極の文字をめざして

第45回 自由にもほどがある/マヤ文字その2

2017.06.03更新

 さて、前回に続いて文字界のトリックスター、かの彦〇呂が「突っ込みどころの宝石箱やー」と叫んだとか叫ばなかったとかで名高いマヤ文字を取り上げます。

 怪しい顔と謎の飾りばかりが目立つこの文字ですが、基本的には「象形文字」、つまり、なんらかの形を模して造られたと考えられています。
たとえばこの文字なんてもう一目瞭然ですよね。

 はい、どこからどう見てもジャガーですね。

......。

............。

......私の画力に致命的な欠陥があることは重々承知ですが、本当にこんな感じの文字なのです。信じてください。
 するどいキバとブチあたりから、ジャガーっぽさを感じ取っていただけますと幸いです。

 ちなみにこの文字は「バラム」(マヤ語でジャガー)と読みます。

 では、マヤ文字はこんな感じですべて象形文字(より正確には「表語文字」)なのかというとさにあらず。
 音だけを表す文字もちゃんとあります。
 日本語の仮名と同じく、一つの文字が子音と母音を表す「音節文字」としての要素も持ち合わせています。

 そして、この表語文字と音節文字が闇鍋のように混在しているのが、マヤ文字の最大の特長。
 たとえば、先ほどご紹介したこのジャガー(バラム)の文字ですが、このように書くことも可能です。

ジャガーの絵が前と微妙に違っている点は置いておいて、その横に謎の物体が現われています。ジャガーが謎の肉にかみついているように見えますが、この謎肉こそが「BA」を表す音節文字なのです。

 ご丁寧にも「この文字はBAで始まりますよ」と宣言してくれているわけです。
 さらには、こんな書き方もできます。

 何度も繰り返しますが、ジャガーの絵の安定感のなさはスルーしていただいて、今度はジャガーの下に足のようなものが生えてきました。
 これは実は「MA」を表す文字。語末では母音が消滅するので「M」。
 あえてアルファベットで表記すれば「BA-BALAM-M」と書いているわけですね。

 ということは、音を表す文字だけで表現することも可能なわけで、たとえばこれ。

「BA」「LA」「MA」で「BALAM」。
 形だけ見ると頭が巨大すぎるカメのようにも見えますが、これまたジャガーを表わすわけです。

 こんなふうにかなり自由な表現ができるのがマヤ文字の特長。
 では、どのようにこれを使い分けていたのかというと、どうやら書記の人の好みだったようです。
 「今日はバーンとジャガーに足でも生やしとくか! バーンと!」みたいな感じで。
自由にもほどがあるだろ、おい。

 とまぁ、ネタっぽく書きましたが、実際にはちゃんと用途があります。
 実はこのマヤ文字、同じ文字が複数のものを表すことが結構あるのです。
 その際、「この文字はこっちの意味ですよ」ということを示すため、音節文字を加えて意味を確定させることができるのです。

 お気づきの方も多いと思いますが、これは日本語の「漢字かな交じり文」と原理は一緒。

 たとえば「行」という文字だけでは、これが「ぎょう」なのか「ゆく」なのか「おこなう」なのかわかりません。
 そこでたとえば「ぎ行」とすることで、「あ、これは『ぎょう』と読むのだな」とわかります。
 あるいは送り仮名をつけ「行う」とすれば、「これは『ゆく』ではなく『おこなう』だな」とわかります。
 つまり、振り仮名や送り仮名と同じような役割を果たすのです。

 この文字の解読に多大な貢献をしたユーリー・クノローゾフはロシアの言語学者で、解読に日本語の知識が役立ったとも言われています。
「日本語の表記法はなんでこんなに複雑なんだ!」と嘆かれる方も多いと思いますが、マヤ文字と同じと言われると、なんだか素敵なものを使っているように思えてくるのではないでしょうか。
 ちなみにあのヒエログリフも、楔形文字も、表記法の原理は近いものがあります。

 まぁ、全部古代ですが。

究極の文字の条件/古代ロマンが感じられる

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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

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