究極の文字をめざして

第46回 アフリカンな香り/ハンター文字

2017.08.03更新

 ご存知の方が多いと思いますが、冨樫義博さんという漫画家がいます。
 『幽遊白書』や『HUNTER×HUNTER』といった名作で知られていますが、どちらかというと「遅筆」「連載が中断する」ことで有名。その世界では「トガシ」というと「締め切りに間に合わない」ということを指すとか。
 失礼な話です。

 今でも少年ジャンプで『HUNTER×HUNTER』が連載中なのですが、やはりしばしば休載しており、先日、久々に連載再開になったことがニュースになったほど。
 失礼な話です。

 『HUNTER×HUNTER』の魅力を語りだすときりがありません。
 緻密な世界観、どんでん返し連続のストーリー、考え抜かれたバトル......。
 でも、そうした魅力的な要素を失礼にも全力で無視して私がご紹介したいのが、この作品の中で使われている「ハンター文字」。
 ちなみにこんな文字です。


上の段から
「あいうえお
かきくけこ
・・・
わをん」
となります。

 見てのとおり50音とぴったり対応しています。
 ただ、形はアルファベットをベースにしており、「K」を90度回転させたのが「カ」、「S」をやはり90度回転させたのが「サ」などとなっています。
 そして、そのベースとなる文字に対して、イ行は「・」を、ウ行は「U」を、エ行は「△」を、オ行は「○」をうまく組み合わせることで、50音が表現されています。ちなみに濁音は文字の横に「・」を打ちます。
 複雑そうに見えて覚えやすい文字なのです。

 このハンター文字が読めると、いろいろと面白い発見があります。
 たとえばあるキャラがメールで「助けてくれ」と連絡するシーンがあるのですが、文字を読むと「ヘルプミー」と書いてあったりして、その人物同士の関係性がわかったりするのです。
 「『HUNTER×HUNTER』は昔読んだ」という人も、このハンター文字に着目してもう一度読むと、いろいろな発見があるかもしれません。
 まぁ、こんなところにまでこだわるからこそ、執筆が遅れがちになるのかもしれませんが。

 さて、この文字は冨樫氏が作り上げた完全にフィクションの文字ですが、実は、同じような作り方をする文字があります。
 それがあの「エチオピア文字」。
 「あの」と言われても困ると思いますが、たとえば「B」を表す

という文字を、「ビ」「ブ」「ベ」「ボ」などと一部変化させることで母音を示すのがエチオピア文字の特徴。
 これは、「・」や「△」をくっつけて母音を変化させるハンター文字とそっくりです。

 さらに、文字そのもののフォルムは、北アフリカで使われる「ティフィナグ文字」そっくり。こんな感じの文字です。


 比較のため、あの某議員が秘書に対して発したことで名高い「このハ〇ー!私の心をこれ以上傷つけるな」をハンター文字化してみます。


 いかがでしょう。あのとげとげしい発言がなんともアフリカンに!

 そういえば「ハンター」という響きも、なんとなくアフリカを思わせなくもありません(どちらかというと「密猟」という悪い意味ですが......)。
 もしそこまで考えてこの文字が作られているとしたら......冨樫先生恐るべし。


究極の文字の条件/オリジナル文字があると、作品に深みが出る


ハンター文字は「ハンター文字変換サイト」を使わせていただきました。こんなサイトがあるのですね。素晴らしい。


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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

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