究極の文字をめざして

第48回 蚊取り線香を吊るそう/ソヨンボ文字

2017.11.02更新

 さて、前回は「ワォ、なんて四角いの!」と欧米セレブの間で話題沸騰のパスパ文字の話をいたしました。
 ちなみにこの文字はあの「ハングル」のモデルになったという説もありますが、その四角さゆえか、モンゴルではすぐに使われなくなってしまいました。

 そんな文字不在の荒ぶる時代を変えるべく世紀末(17世紀のですが)に現われた救世主......それこそが「ソヨンボ文字」なのです。
 もっとも音の響き的には、救世主というよりケンシロウに倒されるザコキャラの叫びのようです。
「ひでぶっ!」
「あべしっ!」
「ソヨンボッ!」

 この文字を開発したのは、モンゴル人の僧侶であり学者のボグド・ザナバザル。主に、サンスクリットやチベット仏教経典からの翻訳の用途に使われました。
 従来のモンゴル文字ともパスパ文字とも違い、この文字は仏教の総本山であるインドはデーヴァナーガリー文字を元に作られており、字形も明らかにそれを模しています。

 それでも、あのパスパ文字の影響は確実にモンゴルに残っていたのでは、と感じます。
この文字もまた何より「四角い」からです。

 どうでしょう。どんな文字にもほぼ、Lを逆にしたようなカコミがついており、それがなんとなくあのパスパ文字を感じさせませんでしょうか。
 ちなみに後半の4文字で「ザナバザル」と読みます。

 さて、どちらかというと平べったく、それがさらなる四角感を出してしまっていたパスパ文字に対して、逆L字のソヨンボ文字は比較的スマートです。
 ただ一方で、この逆L字があるからこそ、全体的に「なんか電灯に吊るされている感」が出てしまっているのです。
たとえば、



吊るされるランプ(taを表わす文字)

吊るされるハンガー(ya)



吊るされる蚊取り線香(nya)

さらに、この文字となると、夜の電灯に群がる虫たちにしか見えません。



あ、虫が増えました。

ブーン!

蚊取り線香で撃退だ!



うわっ、逃げろ!

ヒューン。

 さて、小芝居はこのくらいにして、ソヨンボとはサンスクリットで「自ら生み出した聖なる文字」という意味だそうです。
 自分でデコった木刀を「わが生みし聖なる剣」とか言っちゃう中学生みたいな肥大した自我を感じますが、この文字を生み出したザナバザルさんいわく、
「ある日空に突然この文字が現われた!」
とのこと。
 ザナバザルさん、本当に中二病だった可能性があります。

 え?......あ、いえ、違います。
 スーパーファミコンと同時に発売されたにもかかわらず、スーパーファミコンのせっかくの機能をまったく活かすことのない単なるパズルゲームで、「なぜあえて今出した」と世間を困惑させたソフトの名前は「ザナバザル」ではなく「ボンバザル」です。

 それはともかく、結局はモンゴル国旗にも採用されたこの文字。
 ザナバザルさんの自我も大いに満たされたのではないでしょうか。


究極の文字の条件
国旗に使われてこそ一人前

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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

声に出して読みづらいロシア人

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