究極の文字をめざして

第42回 恥ずかしいほどに華麗な/ジャワ文字

2016.12.07更新

 たまに英語の言語系の文章を読んでいると、「Javanese」という語が出てきてびくっとすることがあります。
 「ジャパニーズ」ならぬ「ジャヴァニーズ」で、インドネシアのジャワ人およびジャワ語のこと。
 たった1文字しか違わないわけです。

 これほど似ているといろいろ問題が起きそうです。
 例えば、「日本カレー」を頼んだのに「ジャワカレー」が出てくるとか。
 ......あれ、別にどっちでもいいか?

 さて、それはともかくジャワ語はインドネシアのジャワ島で使われている言葉で、使用人口7000万人を超える大言語です。
 インドネシアの公用語はインドネシア語なのですが、これはこの地域の公用語として作られたもので、母語として使っている人口は圧倒的にジャワ語が多数。インドネシア語とジャワ語は系統が同じなので似てはいますが、言語としては別物です。

 インドネシア語はラテン・アルファベットを表記に使います。
 ジャワ語も今ではこのラテン・アルファベット表記が一般的なのですが、ちゃんと固有の文字が存在します。それがジャワ文字。

 インド系文字の流れをくむ文字ですが、特筆すべきはその流麗さ。
 こんな感じです。


 流麗なのもそのはず。
 もともとこの文字は「カヴィ文字=詩人の文字」と呼ばれ、まさに華やかなジャワ宮廷文化を象徴するような文字。この文字で数々の文学が生み出されたのです。

 そんなジャワ文字の特徴をひと言で言うと、山あり谷あり感がすごいといったところでしょうか。
 例えば「h」(正確には「ha」)を表す文字が

 という感じで、山が3つ、谷が2つ一つの文字の中にあります。どんな険しい山岳地帯だ。
 「k」を表すこの文字となると、

 さらに地形が複雑化しており、真ん中の山のふもとに洞窟らしきものも見えます。

 ジャワ語は「敬語」がとても発達した言語であることが知られています。
 「世界で最も敬語が複雑なのはジャワ語か日本語だ」と言われているほど。
 ただ、ジャワ語のほうが一枚上と言わざるを得ないでしょう。
 なにしろ、それが文字にまで反映されているのですから。

 すべての文字ではないのですが、ジャワ文字では、偉い人の名前などを書く際に特有の文字があります。
 たとえば

は「n」を表す文字ですが、もし「n」で始まる偉い人の名前を表記する場合には、

という文字が使われます。
 全体に、地形をより険峻化することが、敬意の表現のようでもあります。
 長嶋茂雄氏に敬意を表して「那蛾死魔」と書くようなものでしょうか。違うか。

 さらに、文字の装飾要素もすごいことになっています。
 その最たるものが、「タイトルを書く際に前後に入れる文字」です。
 たとえば本のタイトルとか記事の見出しとかに使われるのですが、こちらです。



 このヒガンバナか線香花火かといった文字こそが、タイトルを表す文字。
 こんな文字があったら、もう下手なタイトルなんてつけられません。

 私の本職はビジネス書やビジネス雑誌の編集者なのですが、普段こんなタイトルばかり付けています。

仕事を辞めたくなった時に読む本

バカ上司との付き合い方

......。
 なんというか、「こんなチャチなタイトル付けてすいません」と、ジャワ文字に土下座したくなりました。

 オランダの支配下にはいってしまったことで、18世紀以降はあまり使われなくなってしまったジャワ文字ですが、今でもたまに、ジャワ島の街で見かけることはあります。
 むやみなまでに流麗なこの文字、できればぜひ、復活してほしいところです。

究極の文字の条件:下手なタイトルをつけられないほどに華麗

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松樟太郎(まつ・くすたろう)

「1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ロシアのロの字も出てこないビジネススキル雑誌の編集長を務めつつ、ロシア発のすごいスキルがないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。シリーズ「コーヒーと一冊」に初の単著『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)がある。

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