ローカルメディアのはなし。

第4回 ローカルメディアなお店

2017.01.25更新

 いろんな意味でスーパーローカルメディアなケーブルテレビ、LCVさんにお邪魔した僕は、せっかく諏訪まで来たのだからと、JR中央本線上諏訪駅から普通電車に乗って松本市まで足を伸ばしました。
 松本に着く頃にはすでに夜だったので、とりあえず駅前のホテルに宿泊した僕は、翌朝、これでもかというくらいの青空のもと、12月の澄んだ空気を胸いっぱいに吸いこみながら、松本駅からまっすぐ伸びる駅前通りを歩いていました。

 最近は、移住したい県ナンバーワンといわれたりする長野県。
 単純に東京と名古屋という大都市圏からアクセスしやすいというのが一番の理由だと思うのですが、僕にとっての長野の魅力はなんといってもこの天候と空気。ここ松本もそうなんですが、長野のなかでも僕は特に上田と茅野の町が好きで何度も訪れていて、それらの理由もそこにあるように思います。

 真田丸で有名になった感もある上田市は、そもそも市川崑、山田洋次、北野武など、錚々たる名監督が数多くの映画撮影を行った映画の町で、その大きな理由は雨が少ないから。そして茅野市は寒天の里と言われていて、それも雨が少なく全国的にみても晴れの日が多いことが、寒天づくりに適しているとされてきたからです。

 集中力のなさを棚にあげて、今日は気が乗らないなあなんてついつい原稿書きを後回しにしがちな僕にとって、晴れの日の気持ちいい朝独特の無敵感は、心の甘えをも晴れやかに吹き飛ばしてくれるから、僕にとって長野の町は、こうやって原稿を書くには最高の町。
 しかもここ松本には、そんな朝を迎えるにきっと最適にちがいないと、以前から気になっていたお店がありました。

 そのお店の名前は『栞日 sioribi』。
 「流れ続ける毎日に、そっと栞を差す日。あってもなくても構わないけれど、あったら嬉しい日々の句読点。今日があなたの栞日になりますように」
 そうHPに書かれているこのお店は、カフェと書店とギャラリーが併設されたお店。僕が編集長を務めていた秋田県庁発行のフリーマガジン『のんびり』を置いてくださっていたことや、何人かの友人からこのお店の話を聞いていたこともあって、一度訪れてみたいと思っていたのです。
 しかも『栞日』さん、僕の旅の楽しみのひとつ、モーニング営業もされているというから、朝ごはんをいただきつつ、原稿を書いて帰ろうと思ったのでした。

 駅からのんびり歩いて15分。一階のカフェにはいかにもいい仕事をしてくれそうな古い活版印刷機が鎮座し、それだけでこのお店の人格のようなものが伝わってきます。
 店主の菊池徹さんが丁寧に淹れてくれたコーヒーとハチミツバターのトーストに舌鼓をうちながら、松本まで来た甲斐があったなぁとしみじみ。二階の書店コーナーには、信州周辺のローカルメディアだけでなく、全国から送られてくるフリーマガジンなどもたくさんあって、何よりほら、ミシマ社の本がきちんと置いてあるから、それでもう僕はこのお店がしっかり町のメディアとしての機能を果たしていることを感じて、思わず「好きやわあ」と声に出します。
 そう、それだって僕の小さな発信。第1回で書いたとおり、究極のローカルメディアは自分自身。

 日本全国いろんなところを旅するなかで、ここ好きだなあ、と思うお店は言ってみるならば「ローカルメディアなお店」なのだと最近気がつきました。
 その土地における役割を真摯に考えつづけ、町のみなさんに何を伝えようかと考え発信しつづけているお店。そんなまるで一冊の書籍や雑誌のような、ローカルメディアなお店が僕は大好き。決して声高に叫ぶわけでもなく、淡々と誰かの毎日に栞をさすような、日々の句読点のようなお店。
 『栞日』のコンセプトは、まさに僕の思うローカルメディアなお店の定義のようで、当然のように僕はまた、このお店と出合ったことで人生が小さく変化しました。

 実は、思い切って松本までやって来たものの、早い時間に関西に帰らなきゃいけなかった僕は、一階のカフェに戻って原稿を書く一方で、刻々と電車の時間が迫っていました。
 もっとのんびりしたい気持ちに、そっと栞を挟み込んで、菊地さんに「またゆっくり来ます」と伝えて店を出た僕は、なんだかバタついてる自分が恥ずかしかったのか、菊池さんに気づかれないよう、お店から少し離れてから駅にむかって駆け出します。
 かなりギリギリの時間のはずなのに、それが松本の澄んだ空気のせいなのか、なぜか僕は絶対電車に間に合う気がしました。

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藤本智士(ふじもと・さとし)

1974年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌『Re:S』編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン『のんびり』、webマガジン『なんも大学』の編集長に。編集・原稿執筆した『ニッポンの嵐』ほか、手がけた書籍多数。自著に『ほんとうのニッポンに出会う旅』(リトルモア)。編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)、近著にイラストレーターの福田利之氏との共著『いまからノート』(青幻舎)など。

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