ローカルメディアのはなし。

第9回 雑誌Re:Sのこと。その5「代理店不在な座組」

2017.03.01更新

 雑誌『Re:S』のことを書きはじめたら、ついつい暑苦しくなっちゃいましたね。反省......。
 でもやっぱりなんというか、あらためて、あんなチャレンジをさせてもらえていたことこそがミラクルで、だからこそ僕はその使命を果たさねばと思ったのです。しかしこれまでの流れのなかで、僕はまだ一番大事なことを書いていません。それは、そもそもどうして『Re:S』が生まれたのか? という大切なお話。それこそ奇跡のような話です。

 Re:S=Re:Standard、あたらしいふつうを提案する。Re:Sというタイトルにこめた思いについてはすでに書きましたが、Re:Sという言葉が生まれた、そのインスピレーションの源は、大阪に本社をおく都市銀行、りそな銀行にありました。
 いやいや、これはさすがに突然すぎますよね。でも事実なんです。つまり「Re:S」は「RESONA」の頭文字でもありました。

 『Re:S』を作る以前、フリーの編集ライターとして仕事をしていた当時の僕は、一定のギャラを確保してくれる「広告代理店」を非常にありがたく思いつつも、どこか懐疑的でいました。さらに言うと、電通や博報堂に代表されるような広告代理店だけでなく、旅行代理店や、出版取次なども含めた代理業的なビジネス全体に疑問を感じていました。それらの便利さを享受し、大切な存在だと認識しながらもです。

 当時抱いていた僕の違和感を、語弊を恐れず言うと、「ものを作っている人」よりも「それを右から左へ動かす人」が儲かる現実に対する違和感でした。いまはもちろん、生み出されたものを適切なところに届ける技術や双方の考えを汲み取りまとめていく技術、そういったことのプロフェッショナルとしての代理店の大切さを十分に理解しているのですが、若かった僕は、どうして0から1を生み出す人より、1を2にしていく人が得をするんだ?! と、どこか苛立ちに似た気持ちすら持っていました。

 ここでさらに話が飛ぶようですが、少し我慢してくださいね。
 僕がローカルメディアを考える上で、多大な影響を受けた放送局にFM802という大阪のラジオ局があります。そのFM802のプロデューサーである谷口純弘さんという方が、局のロゴデザインや街に配布されるプログラムのデザインに若手アーティストを起用することを起点に、クリエイターを発掘していく「digmeout」というオーディションプロジェクトをスタートさせ、当時僕はその審査員を務めさせてもらっていました。
 視覚的なデザインとは無縁に思えるラジオ局が、どうしてビジュアル表現にこだわるのか? と、各所で話題となった「digmeout」でしたが、関西の人たちに広く認知されるきっかけとなったのは、りそな銀行との協働プロジェクト「RESONART(りそなーと)」でした。

 銀行のキャッシュカードのデザインを「digmeout」で見出した若いアーティストに解放する「RESONART」は、谷口さんのディレクションのもと大成功。おしゃれなキャッシュカード持ちたさに若い人たちがこぞって、りそな銀行の口座を開設し、街のATMにまでそのビジュアルが起用されるなど、大きな広がりをみせました。
 僕は、そんな「RESONART」のさまざまを伝えるフリーペーパーの編集をさせていただくことになったのですが、そこで出会ったのが、りそな銀行の社員、藤原明さんでした。


 編集会議などを通して知る、りそな銀行、藤原さんの考え方に僕は当時とても衝撃を受けました。上述のとおり、代理店という存在を疑ってしまっていた僕にとっては、りそな銀行という大きな組織と、自分のようなフリーの編集者が、代理店を介さずに仕事をさせてもらえること自体とても刺激的だったのですが、それ以上に、藤原さんが語ってくれた銀行本来の姿ともいうべきビジョンに僕はめちゃめちゃトキメいたんです。

 銀行というのは、多種多様な企業とのお付き合いがあります。しかもそのお付き合いは、業務内容どころか財務的なところまで踏み込んだ深いお付き合いだったりするわけです。そのお付き合いのなかで、ある企業が何かで困っていると知ったとき、ならばそこに対して強みのある別の企業をつなげてあげることで問題が解決する。そんなふうに企業と企業や、企業とクリエイターの間を取り持つことで、単なる貸付業務を超えた仕事ができる。というより、それこそが本来の銀行の役割なんじゃないか? と、藤原さんは話してくれました。

 しかも銀行は、いわゆる銀行業でしか儲けてはいけません。となれば、これは代理業というビジネスの話ではないわけです。
 そう考えたとき、実は銀行という存在は、最もピュアな代理店なんじゃないか? と思いました。だとすれば、広告代理店の代わりに銀行がその役割を果たすような、そんな雑誌があってもいいんじゃないか? これがRe:Sのはじまりでした。

 藤原さんは、行内においてかなりの宇宙人だったにちがいありません。
 しかし僕はこの人の考え方をシェアしていくことに使命を感じ、また、未来を感じました。藤原さん自身もその当たり前なビジョンについて、行内でなんとか理解を得ようと必死だったと思います。「りそな」とはラテン語で、共鳴せよ、響きわたれという意味の言葉だそうです。
 当時藤原さんと僕は、まさにresonaな心境で、『Re:S』という雑誌を生み出したのです。

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藤本智士(ふじもと・さとし)

1974年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌『Re:S』編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン『のんびり』、webマガジン『なんも大学』の編集長に。編集・原稿執筆した『ニッポンの嵐』ほか、手がけた書籍多数。自著に『ほんとうのニッポンに出会う旅』(リトルモア)。編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)、近著にイラストレーターの福田利之氏との共著『いまからノート』(青幻舎)など。

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