ローカルメディアのはなし。

第14回 編集者は魔法使い

2017.04.05更新

 最近、ウェブまわりの編集者を見ていて辛そうだなあと思うのは、やれこんなことをつぶやいたらフォロワーが何人減ったとか、PV数が激増して逆にやばいとか、そういう「数字」に振り回されちゃっているところ。
 そもそも編集って魔法だから、かつての編集者って、もっと霊能者的特別さがあったのだけど、いまはあまりそれがないように思えて、しんどそうだなって感じます。

 しかしこれ、とてもわかりにくいことを言っている気がするので、どう説明するとよいかなあ? と考えていたら、ずっと以前に聞いた、とある写真家のお話を思い出したので、それで説明してみます。


 それまでカメラ屋の売り場を占拠していたフィルムカメラが、デジタルカメラの登場で一気に隅っこに追いやられてしまった10年ほど前、デジカメと同じくらいフィルムカメラも素晴らしいということを伝えたくて、いろんな写真家にフィルムのよさについてインタビュー取材をしていた僕は、とある風景写真の巨匠からこんな話を聞きました。
 ベタ焼き(※フィルムカメラで撮った写真をそのまますべて印画紙に焼き付けた一覧)を見れば、これはいついつどこで撮った写真で、たしかこのときは南からとても強い風が吹いていて、そこにちょうど西から陽が射してきて......って、ワンカットワンカット、その状況を克明に思い出せた。だけどデジタルカメラを使いはじめてからは「あれ? この写真、俺撮ったっけ?」って思うことがよくある、と。

 これはいわば「シャッターの重み」の話です。もちろん、デジカメになってシャッターの押しごたえが変わったわけではなく、フィルムがわかりやすく有限であることや、シャッターを押した瞬間にフィルムに像が焼きつけられるゆえに失敗してもすぐdeleteできないことなどから、ただシャッターを押すという行為に、いかに緊張が伴ったかという、そういう意味の重みの話。

 ファインダーの向こうに、理想の光や構図といったカメラマンの意図するものと、意図しないものとのギリギリの折衝があって、かつてそこはカメラマンだけにしか踏み込めない聖域のような場所でした。だからこそ、その刹那、人差し指にそっと力を込めるその重みの向こう側に、魔法がかかったんだと思うのです。
 デジカメの登場以降、撮った写真をその場ですぐディレクターやらクライアントやらに確認されちゃういま、カメラマンの仕事は急激に作家性を失っている気がするし、そのなくなっているものこそが、魔法だと僕は思っています。


 最近、友だちがスマホのアプリを使ったマジックを見せてくれたんですが、正直、あんまりドキドキしなかったのは、デジタルってものがやっぱり身体性から遠く離れたものだからで、そのマジックを見せてくれるのが、たとえ友だちではなく、プロのマジシャンだったとしても、僕が感心したのは職人的技術ではなくデジタルの技術力だったと思います。
 つまりそれが写真家であれ編集者であれ、いまやその評価が単なるデジタルの使い手としての評価としか立ち上がってこないのはとても不憫だなあと思います。


 さらに話を戻すようですが、フィルムカメラは古いものがいまだに使えるけれど、デジタルカメラはそれができないのは、アナログ機器のように仕組みが明らかでないゆえ個人で修理のしようがないからで、ヨドバシカメラもビックカメラも、両方「○○カメラ」って名乗りながらも家電量販店としてここまで成長したのは、まさにフィルムカメラからデジタルカメラにチェンジする瞬間に、そのことを甘んじて受け入れたからにほかなりません。ほかの小売店とは違う相当な覚悟が必要だったはず。だからこそ一気にそのタガが外れたのです。

 家電量販店を別の言い方でいうなら、自分で修理できないもの屋さん。デジタルはすべてを近づけてくれたけれど、その実、すべての溝を深くしています。そのことが編集という世界にも影響していると、若いウェブ編集者を見ていると実感します。


 編集者というパーソナリティが仕掛ける魔法が、ファンタジックに評価されるのではなく、単なるやり手的評価しか受けられないのは、本当に悲しい。編集は魔法だし、編集者は魔法使いです。僕はそういう世界で、もう少し人を驚かせたいと思っています。

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藤本智士(ふじもと・さとし)

1974年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌『Re:S』編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン『のんびり』、webマガジン『なんも大学』の編集長に。編集・原稿執筆した『ニッポンの嵐』ほか、手がけた書籍多数。自著に『ほんとうのニッポンに出会う旅』(リトルモア)。編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)、近著にイラストレーターの福田利之氏との共著『いまからノート』(青幻舎)など。

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