ローカルメディアのはなし。

第12回 メディアの尺もんだい

2017.03.22更新

 北東北のエリアマガジン『rakra(ラ・クラ)』。その10周年記念企画として、特集30ページを任せていただくことになった僕は、結果10ページオーバーの40ページにわたって特集記事を書かせてもらうことになりました。
 そのせいでレギュラーコーナーに休載いただいてしまったり、滝澤編集長にはずいぶん苦労をさせてしまったのですが、実際にこんなことが可能になったのも実はローカルメディアだからこそだと思うのです。

 この「メディアの尺(ページ数や文字数などの制約)」は、僕がいつもぶつかる大問題で、しかし実のところこれはすべてのメディアにとって避けて通ることができない重要な問題でもあります。

 濃密な取材を数百文字という字数のなかに収める新聞記者に限らず、雑誌のライターも、テレビディレクターも、ラジオパーソナリテイーも、みんなこの尺という制約のなかでさまざまな情報発信をしています。ニュース映像が3分なのか10分なのか、雑誌の対談記事が2ページなのか6ページなのか、それによって伝えられる内容は大きく変わります。
 こういった尺に向き合い、もっとたくさん伝えたいのに......なんて泣き言を言う前に、尺にあわせて伝えたいことを自在に変化させるのが、プロのライターです。ならば当然その逆もしかりで、伝えたいことにあわせて尺を変化させるのが、プロの編集者の仕事のはずなのですが、これがなかなか難しい。


 決まった尺のなかに伝えたいことを収めるというルーティンワークではなく、伝えたい内容によって常に尺をチェンジし続ける。そんなフレキシブルな編集をすることの困難さは、そこに携わる人の数と比例します。都会の大きな出版社やテレビ局など、より多くの人たちが関わるメディアは、それぞれの仕事が整理分業化されているゆえ、メディアの軸となる尺を個人の裁量で扱えなくなります。

 本連載第1回で書いたように、最小にして最強のローカルメディアは自分自身(個人)であると思う僕にとって、そういう意味で都会の雑誌の多くは(全部じゃないですよ)、編集長の強い個性が感じられなくてつまんない。その点、都会に比べてコンパクトな組織が多いローカルメディアは、自在に尺を変化させることが、都会よりもやり易いはず。
 けれどローカルメディアが、その強みを生かし、通り一遍でない編集でそのおもしろさを発揮しているかというと、これが正直、ほとんどできていない。そのことを僕はずっと残念に思っています。

 小さい組織のなかで、知らず窮屈になってしまっているローカルメディアが、いつのまにか固まってしまっている尺を取っ払ったとき、そこにあらたな地平が見えてくると僕は信じています。
 たしかに、料亭にパスタを食べにくる人はいません。だからいきなりパスタを出せということではないけれど、料理に合わせて器を変えてみることくらいはやってみてもいい。それができる環境がローカルにはよっぽどあるはずなんです。


 だからこそ今回『rakra』は、本当に思い切ってくれたなあと思います。そういう心意気は自然と読者に伝わるはず。「特集=30ページ」という10年の蓄積のなか、知らず決まっていた尺を取っ払い、この料理にこの器は合わないと、プラス10ページ工面してくれた編集長、なかなかの男ですよ。てか、大丈夫かな(笑)。とにかく僕が、ローカルを拠点にメディアのお仕事を続ける理由の一つは、この尺の問題がとても大きいのです。尺を無思考にスルーすることなく、ゼロから考えなおせる環境が田舎にはあります。

 以前台割を作らないことについて書きましたが、僕の取材スタイルは基本行き当たりばったり。机上で煮詰めた設計図をもとに素材を集めていくのではなく、取材現場でライブで編集作業をするようなスタイルです。
 たとえば、美しい器に出合ったことから、その作り手に会いに行くことにしたり、結果その人の器づくりの話よりも、裏で耕している畑の物語に惹かれてだんだん農業の話になったりと、旅をしている僕自身ですら予測不可能な展開を、臨場感たっぷりに読者のみなさんにお届けしたいと思う僕は、どうしても尺が必要になります。
 逆に、その断片だけをピックアップして、美味しいものや、いい温泉などの情報を紹介するというのは、尺の制約に縛られているからですよね。その場所や人に出会うまでの過程の豊潤さを伝えるには、既存の尺から解放されなきゃいけない。

 さあ、まずは決まった尺を疑ってみてください。たったそれだけのことで、ローカルメディアはさらに人間味のあるおもしろいメディアへとチェンジできるんです。

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藤本智士(ふじもと・さとし)

1974年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌『Re:S』編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン『のんびり』、webマガジン『なんも大学』の編集長に。編集・原稿執筆した『ニッポンの嵐』ほか、手がけた書籍多数。自著に『ほんとうのニッポンに出会う旅』(リトルモア)。編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)、近著にイラストレーターの福田利之氏との共著『いまからノート』(青幻舎)など。

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