ローカルメディアのはなし。

第15回 ウェブマガジンをはじめた理由。

2017.04.12更新

 秋田県庁のお仕事として2012年の春から2016年の春まで4年間、『のんびり』というフリーマガジンの編集長を務めさせてもらいました。そして現在は、『なんも大学』という、同じく秋田県発行のウェブマガジンの編集長を務めさせてもらっています。

 15年以上も紙媒体を作ってきた僕は、最初ウェブマガジンの編集を請け負うことにとても抵抗がありました。4年前、秋田で紙媒体を作りたいと思った当時とは違って、大切な秋田県の税金を使ってまでしてウェブ上でやるべきことが、なにも思い浮かばなかったからです。
 前身とも言える『のんびり』は、これまで連載で書いてきたさまざまな方法論をローカルというフィールドで存分にぶつけさせてもらい、いまもなお各地で「うちの地域でも『のんびり』のようなものを作りたい」とお声かけいただくほど、確かな手応えを感じさせてもらいました。しかし、だからこそ、その方法論はウェブでは通用しないと編集者の嗅覚をもって強く感じていました。

 第13回の原稿で書いたとおり、ウェブメディアにはウェブメディアの取り組み方があって、それを同じフィールドでしょ? なんて先輩づらして踏み込もうもんなら、赤面ものの結末しか想像できません。
 正直、紙媒体の編集者が鳴り物入りではじめたウェブマガジンって、スタートがピークなものばかりだし、そういう諸先輩がたを見ていると、フリーで生きる者の防衛本能として、自然と身を引きたくなるわけです。とにかく僕の実感としては、まったく違った歩みを経てきた若い編集者が作るウェブメディアのほうが500倍おもしろい(当社調べ)。


 しかしそんな僕が、冒頭に書いたとおり、『なんも大学』なるウェブマガジンの編集長をやっているのは、泣く泣くだとか、嫌々ながらとか、決してそういうわけではありません。簡潔に言うと、僕がウェブマガジンに取り組む理由が見つかったからでした。
 というよりは、地方自治体が予算かけて取り組むべきウェブメディアのあり方が、僕のなかでひとつ明確になったからというほうが正しいかもしれません。今回はそのことについて書こうと思うのですが、ここでつらつらと説明するよりも、友だちの発酵デザイナー小倉ヒラクくんが、彼のブログのなかで、バッチリ言葉にしてくれていたので、勝手ながらここに引用させてもらいたいと思います。

「とりあえず短期的にPV数稼げればいいや」という狭い視野ではなく、「未来の僕たちへの贈り物」になるような素敵なメディアに育てていってくださいね。

 こんなふうに引用すると、さも僕に宛ててくれたメッセージのように見えますが、実はこれ、ヒラクくんが『灯台もと暮らし』という ウェブメディアの編集長、佐野知美(現:伊佐知美)さんに送った一言。しかし僕はこの言葉を、飛んでくる銃弾を前に身を挺す殉職手前の刑事のごとしスローモーションで横取りしちゃいましたよ。


 ウェブメディアにつきまとう「バズらせることの正義」の彼岸に行きたいと思っていた僕は、この言葉に、いや〜救われました。同じ川の向こう側でも対岸ではなく彼岸。あちらはあちらというよりは、この川を越えた先にあるであろう場所に僕はいち早くたどり着きたかったわけです。それは編集者としての僕の意地でした。

 『のんびり』を終えてウェブメディアをやることになった僕が、そのときに考えていたことは、絶版になった途端に地底深くに貯蔵されてしまうような紙媒体と違い、それが駄文であろうがなんだろうが、黒魔術のごとし「ググる」の呪文一発で蘇らせられるウェブコンテンツこそ、短期的な動向に左右されるのではなく、未来に向けてどっしり腰据えて作らなきゃいけないのではないか? ということでした。

 やれ移住定住だと、各地でバズりそーな動画を作って流して、それをこちらも受けては流していますが、実際これ、やさしい顔した信長の野望ですよね。ローカルというフィルターのせいで、もはやみなさんの頭のなかでサンリオキャラクター大賞みたく、やれキティ頑張れ、ポムポムプリンちゃん頑張れ、すなわちみんな頑張れ、みたいに置き換えられてますけど、みんなほんと目を覚ましてほしい。

 移住定住施策の名の下に、兵数増やすべくバズり合戦してる、ガチの信長の野望ですよ。コーエーさんにロイヤリティ払うレベルです。だから秋田県もそれとは違う場所に身を置かないと、無駄にお金が右から左へ流れていっちゃう。と、そう思ったわけです。だから僕は未来の秋田のために、良質なコンテンツをいまから貯蔵していこうと思いました。それが『なんも大学』です。

 『のんびり』ではよそ者視点を活かし、地元の人たちにとっては当たり前なことのスペシャルを取り上げてきましたが、『なんも大学』ではその真逆、秋田のことをあまり知らない人でも、なんとなくイメージすることができる「なまはげ」「きりたんぽ」「秋田犬」などのステレオタイプな秋田コンテンツをあらためて取材しています。

 それは、単純にこれらを検索したときに、良質な記事が検索上位に上がってこないからです。それらの正しい情報や背景や歴史など、かつて先人たちが書物に書き残してくれたように、いま僕たちがウェブ上に残していくということを最優先しています。

 目先の数字に翻弄されそうなウェブメディアだけれど、長期的な視点をもって、しっかりコンテンツを残していくことにこそ、公的なお金が使われるべきではないだろうか? と。だから『なんも大学』の読者は極端に言えば、何十年、いや何百年先に「秋田」を知りたいと思った人です。そんなことをこそ行政がやらなきゃいけないと僕は思いました。


 ということで今回はちょっと長文になってしまったのですが、それもそのはず、この連載、今回で休載させてもらいます。
 というのも、なんと本連載をベースに単行本を6月に上梓することになりまして。ちょっとそっちの原稿に集中させてもらいたく......。ということで、そちらを楽しみにお待ちいただければ嬉しいなあと思っています。数カ月、お付き合いいただき、ありがとうございましたー!

 なんか間違ってバズれ!!! と、祈りをこめて。

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藤本智士(ふじもと・さとし)

1974年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌『Re:S』編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン『のんびり』、webマガジン『なんも大学』の編集長に。編集・原稿執筆した『ニッポンの嵐』ほか、手がけた書籍多数。自著に『ほんとうのニッポンに出会う旅』(リトルモア)。編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)、近著にイラストレーターの福田利之氏との共著『いまからノート』(青幻舎)など。

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