みんなのミシマガミュージック

第4回 優しく澄み切った歌声 アイルランドの伝統音楽

2013.07.29更新

 こんにちは、アルテスパブリッシングの鈴木です。
 「みんなのミシマガミュージック」、今月はヨーロッパ西端の島国、アイルランドの伝統音楽を奏でるグループ、アルタンをご紹介しましょう。

 アイルランドの音楽というと、ロックではU2やポーグス、97年の映画『タイタニック』のダンス・シーン、あるいは99年に初めて日本で上演されたショー『リヴァーダンス』などを思い浮かべる人が多いでしょうか。僕よりぐっと若い人たちだとゲーム音楽から知った人もいるようです。
 僕がアイルランドの伝統音楽(アイリッシュ・トラッド)にはまったのには、96年に東京と佐渡で観たドーナル・ラニー率いるクールフィンというバンドのライヴにぶっとんだこと、さらに翌年日本にやってきたアルタンのライヴを体験したことが決定的でした。

第4回 優しく澄み切った歌声 アイルランドの伝統音楽

 彼らを代表する名盤『アイランド・エンジェル』をはじめとするCDでアルタンの歌と演奏を愛聴していた僕には、夢のような来日だったのですが、銀座の山野楽器で彼らの生の音、とくに独特のフィドル(バイオリンのことをこう呼びます)の音を初めて耳にしたときは、感激のあまり泣き崩れそうになったほどです(すぐ泣くんです、はい)。

 ラフォーレ原宿で行なわれたメインの公演もそれはそれはすばらしかったのですが、強烈に記憶に残っているのは、公演後の打ち上げのことです。少し遅れて会場の小さなパブに入ってしばらくすると、メンバーたちが演奏を始めました。関係者へのサービスで1、2曲だけかと思いきや、彼らは目の前のビール・グラス(中味はもちろんアイルランドの黒ビール、ギネスです)に口もつけず、ほとんど一心不乱に、でもひたすら楽しそうにいつまでも弾き続けて止まりません。ついさっき本番のステージを終えたばかりだというのに、ギャラが出るわけでもないのに、この人たちはいったいどれだけ音楽が好きなんだ!? そこにはプロとアマチュアの違いもなにもありません。音楽なしには生きていけない、音楽ととともに生きている、そんな姿を目の当たりにした僕は、その場で次の大阪公演にも足を運ぶことにしたのでした。

 中心メンバーでヴォーカルとフィドルを担当するマレード・ニ・ウィニーが生まれたのは、ドニゴール州のグウィドーアというアイルランド北西部の村。お父さんのフランシ-・ムーニーも地元でよく知られるミュージシャンでした。マレードは北アイルランド出身でフルートを吹く夫のフランキー・ケネディや同郷のミュージシャンとともに80年代に活動を始めます。メンバーはほかにフィドルのキアラン・トゥーリッシュ、ブズーキのキアラン・クラン、ボタン・アコーディオンのダーモット・バーン、それにギター。パーカッションが加わることもあります(とても残念なことにフランキーは94年に亡くなりました)。

 彼らの魅力は、まずマレードの優しく澄み切った歌声と、アイルランド語の響きです。これを耳にして、美しいと感じない人はいないでしょう。そして、ドニゴール独特のスタイルでゴリゴリと押しまくるダンス・チューンの強烈なドライブ感。全員で同じメロディを繰り返し演奏するのが基本で、ぐるぐると螺旋を描いてのぼりつめていくその気持ちよさは、一度はまったらやみつきになります。

 大阪公演にまで足を運ぶだけでは飽き足らず、彼らの生まれ育った土地を自分の目で観たくなった僕は、98年の夏、マレードの生まれ故郷ドニゴールまで出かけました。目指したのは、マレードのお父さんが経営するパブのある町ブンベグです。B&Bに宿をとると、おかみさんが「なぜはるばる日本からやってきたのか?」と不思議そうです。「アルタンが大好きで云々」と説明すると、「あら、マレードの実家はすぐそばだから、遊びに行きなさいよ」というじゃありませんか! さすがに図々しすぎやしないか、と遠慮しかけましたが、二度とない機会だし、あんまり自然なお誘いだったこともあり、次の日の午後、ご両親のお宅を訪ねたのでした。

 フランシーさんご夫妻はとても穏やかに迎えてくださり、自家製のポチーン(蒸留酒)をご馳走になりながら(こちらは車だったんですけど、なにしろパブまで車で行ったりする土地柄ですから←もちろん公式には違反です)、やはり音楽をやっているマレードの甥御さんのことを伺ったり、日本での人気ぶりをお話ししたり、1時間ほどもお邪魔していたでしょうか。写真を一枚も撮らなかったことが心残りですが、マレードもあとでとても喜んでくれました。

 その後何度も来日している彼らは、第2回でご紹介したソウル・フラワー・ユニオンのレコーディングにも参加しています。遊びに行ったスタジオに林立していた酒瓶の種類と数の多さには仰天しました。あれだけ浴びるように飲んでも演奏が乱れないのですから、アイルランド人の酒の強さは尋常じゃありません。

 CDはなにはともあれ『アイランド・エンジェル』を聴いていただくとして、ここではYouTubeから『アイランド・エンジェル』11曲目の歌と、

ダンス・チューンを2曲ご紹介しておきましょう。
♪altan - the boxty set 
♪altan - John Doherty's reels

もうひとつおまけに、東日本大震災に見舞われた日本に向けたライヴ"Solidarity with Japan"から。マレードの歌声が深く深くしみます。



第4回 優しく澄み切った歌声 アイルランドの伝統音楽

※写真はアルタン湖の遠景。グループの名前はここからとられました。

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鈴木茂(すずき・しげる)

同姓同名の名ギタリストとはもちろん別人です。吉田拓郎とビートルズで音楽にめざめ、中学生のときボブ・ディラン&ザ・バンドのライヴLPを聴いて、生まれて初めて音楽を聴いて鳥肌が立つという体験をする。人生でいちばん大切なミュージシャンはジョン・レノン。いちばん大事な曲はソウル・フラワー・ユニオンの「満月の夕」。とくに好きな楽器はギター(とくにエレクトリック)とドラムなどの太鼓類。高校から吹奏楽のパーカッションを始めたが、今はひたすら聴くだけ。1960年東京生まれ、吉祥寺在住。1984年、音楽之友社に入社。クラシック、ジャズ、ロック、ソウル、ボサノヴァ、アフリカ音楽、レゲエ、アイルランド音楽などなどの雑誌・ムック・書籍の編集に携わり、2006年に退社。同僚だった木村と共同で翌年に株式会社アルテスパブリッシングを創業し、現在に至る。

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