みんなのミシマガミュージック

第9回 からだを揺さぶる音楽の力 ボブ・ディラン

2014.01.28更新

こんにちは、アルテスパブリッシングの鈴木です。

 昨年のポール・マッカートニーに続いて、今年もローリング・ストーンズとボブ・ディランという超大物の来日が決まりました。どちらも長年聴き続けている大事なミュージシャンですが、ボブ・ディランのほうは「名前はよく知られてるけど音楽はあまり聴かれていない」大スターの代表みたいな人ですよね。気むずかしそうなしゃがれ声はとっつきづらいですし、ミリオンセラー・ヒットもありません。
 そこで、2014年最初のミシマガミュージックは、3月末からZepp(ゼップ)というライヴハウス(といっても数千人が入れますが)でのツアーを始めるボブ・ディランをご紹介してみましょう。

 ボブ・ディランはアメリカのミネソタ州生まれで、現在72歳。世界で最も広く知られているディランの曲は、1962年にピーター・ポール&マリー(PP&M)が歌ってヒットした〈風に吹かれて〉でしょう。この曲は60年代の市民運動や反戦運動のシンボルとなり、ディランは一躍社会派フォークのヒーローに祭り上げられます。その10年後に〈結婚しようよ〉を大ヒットさせた吉田拓郎は「フォークの神様」として崇拝していました。
 フォーク・ギターとハーモニカで歌っている当時の映像がこちら。

♪Blowin' in the Wind


 本人の歌に比べるとグッと語り口がソフトでメロディの美しさが際立つPP&M版も見ることができます。


 〈風に吹かれて〉だけでなく、美しいメロディをもつ曲を60年代のディランは多く残しています。ザ・バーズがヒットさせた〈ミスター・タンブリン・マン〉、〈くよくよするなよ〉(先日高橋幸弘さんがライヴでカバーしていました)、〈ラヴ・マイナス・ゼロ/ノー・リミット〉、〈イフ・ナット・フォー・ユー〉〈レイ・レディ・レイ〉〈アイ・シャル・ビー・リリースト〉〈ブルーにこんがらがって〉など何曲でも挙げることができます。

♪Mr. Tambourine Man


♪Don't Think Twice, It's All Right(動画なし)


♪Tangled Up In Blue(映像は不鮮明ですが演奏いいですね)


 しかし、中学時代に僕が最初に出会ったディランは、フォークではなく、激しいシャウトで圧倒するロック・ミュージシャンとしてのディランでした。60年代中盤からエレキ・ギターを手にバンドをしたがえて演奏するようになったディランが、65年にシングル曲として発表した〈ライク・ア・ローリング・ストーン〉。この名曲をザ・バンドというカナダのロック・バンドと一緒に演奏したライヴ録音で、生まれて初めて音楽を聴いて鳥肌が立つという体験をしたのです。
 その74年のライヴ盤(当時はLP2枚組でした)『偉大なる復活 Before the Flood』は、からだをゆさぶる音楽の力に僕を目覚めさせてくれた大切なレコードとなりました。
 ロックに"転向"したとフォークのリスナーから非難されたりした発表当時の貴重なライヴ映像がこちらです。野心に燃えていた若きディランの醒めたすごみが感じとれます。

♪Like a Rolling Stone


 ハードなディランの名曲には〈我が道を行く〉〈天国への扉〉〈見張り塔からずっと〉〈ハリケーン〉

 その翌年に発売された『血の轍 Blood on the Tracks』は打って変わってフォーク・ギターの響きが美しい〈ブルーにこんがらがって〉〈運命のひとひねり〉〈嵐からの隠れ場所〉などのしっとりとした美しい曲の多い名盤でした。

 そして1978年2月、ボブ・ディランは初めて日本にやってきます。高校の期末試験直前でしたが、4500円という当時としては高額なチケットをお年玉で購入し、友人とふたりで日本武道館に出かけました。ライヴというもの自体がほとんど初めてでしたし、なにしろ動いて歌うディランをこの目で見るという興奮と緊張で、どんな演奏をしてどんな感動を受けたのか受けなかったのか、もったいないことにこの晩の記憶はぼんやりしていますが、レコードとまったく違うアレンジに戸惑ったことは覚えています。

 と、なんだかひと昔ふた昔の話ばかりになってますが、80年代以降も、キリスト教信仰を前面に出したアルバムを連発したり、チャリティ・プロジェクトの「ウィ・アー・ザ・ワールド」に参加したり、全米有数のファン層を誇るグレイトフル・デッドと共演したりと、ディランは今日現在に至るまで尋常ではないエネルギーで活動を続けています。

 フォークやブルース、ロックといったジャンルに収まり切らない、アメリカの民衆が培ってきた音楽の豊かな土壌を養分にしたディランの全体像を語ることは僕の手に余ります(とくにノーベル文学賞候補にも名前が上がる歌詞についてはおてあげです)。

 僕が知っているのはあまりにも巨大な彼の音楽の一端にすぎませんが、アルバムをしっかり聴いてみたいという方には、上記2枚のほか『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』『追憶のハイウェイ61』『ブロンド・オン・ブロンド』『欲望』などをお薦めしておきます。
 また、ディランのキャリアと音楽についてもっと詳しく知りたい方にうってつけの本も去年出版されました。これも強力にお薦めします。

湯浅学『ボブ・ディラン ロックの精霊』岩波新書


 では最後に、1976年にサンフランシスコで開催されたザ・バンドの解散コンサートから〈アイ・シャル・ビー・リリースト〉でお別れしましょう。エリック・クラプトン、ストーンズのロン・ウッド、ビートルズのリンゴ・スター、ニール・ヤングなどなど豪華な共演陣にもご注目を。

♪I Shall Be Released

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鈴木茂(すずき・しげる)

同姓同名の名ギタリストとはもちろん別人です。吉田拓郎とビートルズで音楽にめざめ、中学生のときボブ・ディラン&ザ・バンドのライヴLPを聴いて、生まれて初めて音楽を聴いて鳥肌が立つという体験をする。人生でいちばん大切なミュージシャンはジョン・レノン。いちばん大事な曲はソウル・フラワー・ユニオンの「満月の夕」。とくに好きな楽器はギター(とくにエレクトリック)とドラムなどの太鼓類。高校から吹奏楽のパーカッションを始めたが、今はひたすら聴くだけ。1960年東京生まれ、吉祥寺在住。1984年、音楽之友社に入社。クラシック、ジャズ、ロック、ソウル、ボサノヴァ、アフリカ音楽、レゲエ、アイルランド音楽などなどの雑誌・ムック・書籍の編集に携わり、2006年に退社。同僚だった木村と共同で翌年に株式会社アルテスパブリッシングを創業し、現在に至る。

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