みんなのミシマガミュージック

第10回 なんともいえない安らぎ アイヌの音楽

2014.02.26更新

 こんにちは、アルテスパブリッシングの鈴木です。

 この2月に、4組のミュージシャンたちが登場するフェスティヴァル形式のライヴを続けて観て、そのひとつ「新・世界音楽祭」で聴いたアイヌの音楽が素晴らしくて、すっかり魅了されてしまいました(2月9日、イイノホール、ラティーナ主催)。出演したのは、アイヌ民族の伝統的な弦楽器トンコリを弾き、歌もうたうOKI(オキ)という男性ミュージシャンと、MAREWREW(マレウレウ)という4人組の女性ヴォーカル・グループのふた組です。

 マレウレウから先に聴いてみましょうか。優しい発声でごく短いシンプルなフレーズを繰り返すだけの単調といえば単調な、最初はどこをどう聴いていいのか戸惑うような音楽ですが、何も考えずに身を委ねていると、子守歌にあやされているような、なんともいえない安らぎにじんわりと満たされていきます。

♪"マレウレウ祭り"Live (Nov.2011)

♪「ウコウク」@マレウレウ祭りVol.2

 身のこなしもたおやかな彼女たちが歌っているのは、「ウポポ」といってアイヌの人たちが歌い継いできた伝統歌だそうです。和音をつけるのではなく、全員で同じメロディを歌い、ときにタイミングをずらして「輪唱」にしていきます。「ウポポ」は、アイヌの音楽を聴いているとよく見かける言葉なのですが、手元にあったCD『アイヌのうた』(マレウレウではなく、2000年に北海道で録音された平取アイヌ文化保存会によるもの)の解説を読むと「座り歌」とただし書きされているので、上にリンクを張ったふたつ目の映像のように座って車座になって歌われるものなのかな? と想像しつつウェブで検索してみると、「歌」を意味する言葉でもあるようですが、輪唱は大きな特徴のひとつのようです。

 彼女たちの音楽が、アイヌの人たちの日々の暮らしの中で歌われていた歌にどこまで忠実なのか、僕には判断がつきませんが(公式サイトのプロフィール には、彼女たちの歌は「現代的なアレンジを織り込みつつも伝統的なウポポの魅力を凝縮した」と書かれています)。

 ライヴの後半では客席を輪唱に巻き込むという趣向を凝らしたシーンもあり、今度は娘を連れて聴きにいきたいと思わせるステージでした。アイヌ語の響きも、意味はわからないものの、子どもが喜びそうですよね。
 彼女たちの音楽をCDで楽しむなら、2012年の『もっといて、ひっそりね。』をぜひどうぞ。


 OKIのほうはマレウレウと対照的に、曲間のちょっとしたお喋りにもグッと逞しい気骨を感じさせる人です。トンコリというのは、日本の琴の作りを簡素にして音色を力強くしたような5弦の楽器で、樺太アイヌに伝わるものだそうです。ギターのフレットにあたるものがなく、すべて開放弦で弾きます。1本の弦から同じひとつの音しか出ない、つまり音程の変化を付けられない楽器です。同じく公式サイトには「カラフトアイヌに伝わるアイヌ民族唯一の弦楽器」とあります。その晩OKIが弾いていたトンコリは特注の楽器だそうで、もっと多くの弦が張ってありましたが、こんな音を出す楽器です。

♪OKI「Susuriuka」

 こちらもまた単純なフレーズの繰り返しで、起伏に乏しい、地味といえば地味な音楽ですが、でも琴を太くしたような独特の倍音成分が快感中枢を刺激して、うっかりすると気を失いそうになります。このリンクだと楽器の姿かたちや弾き方が分からないので、ライヴの映像を探したらこんなのがありました。曲間のしゃべりがじつに男前です。

♪OKI/トンコリ~驚異の5弦ギター~サハリンからの衝撃@札幌歩行空間2013

 ライヴではこんな風に電気的に増幅しているわけですが、OKIはこれをさらに推し進めて、ドラムとエレキ・ベースを入れた「OKI AINU DUB BAND」としても活動しています。ドラマーは日本一のグルーヴマスターとして知られる名手、沼澤尚(たかし)!

♪OKI DUB AINU BAND live @OnenessCamp 2012/9/2

 このバンドが2010年に発表したアルバム『サハリン・ロック』 を最近購入して愛聴しているのですが、伝統的な安らぎの世界から一変、力強いビートと刺激的な加工を施したヘヴィな音響が、現代社会へのプロテストを訴えるOKIの姿勢をダイレクトに伝えていて、とにかく「かっこいい」アルバムです。2011年にはラッパーのランキン・タクシーと組んで、こんな曲も発表しています。冒頭に流れるのは爆発する福島第一原発の映像です。

♪ランキン・タクシー& ダブ・アイヌ・バンド「誰にも見えない、匂いもない2011」

 実のところアイヌの歴史や文化についても音楽についても知らないことばかりです。今回彼らのライヴで改めてアイヌ音楽の魅力に目覚めたので、もっと深く知るべく、手元にあるわずかなCDを聴き直すことから始めようと思っているところです。

 では最後に、2000年代に音楽ファンの間でも『イフンケ』『ウポポ・サンケ』という2枚のCDが話題になった安東ウメ子さん(2004年に惜しくも亡くなりました)の録音を聴いてみましましょう。ウポポとトンコリと並んでよく知られているアイヌの楽器ムックリ(口琴)の音色を聴くことができます。

♪「イヨマンテ・ウポポ」「イフンケ」「バッタキ」〜アルバム『イフンケ』より

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鈴木茂(すずき・しげる)

同姓同名の名ギタリストとはもちろん別人です。吉田拓郎とビートルズで音楽にめざめ、中学生のときボブ・ディラン&ザ・バンドのライヴLPを聴いて、生まれて初めて音楽を聴いて鳥肌が立つという体験をする。人生でいちばん大切なミュージシャンはジョン・レノン。いちばん大事な曲はソウル・フラワー・ユニオンの「満月の夕」。とくに好きな楽器はギター(とくにエレクトリック)とドラムなどの太鼓類。高校から吹奏楽のパーカッションを始めたが、今はひたすら聴くだけ。1960年東京生まれ、吉祥寺在住。1984年、音楽之友社に入社。クラシック、ジャズ、ロック、ソウル、ボサノヴァ、アフリカ音楽、レゲエ、アイルランド音楽などなどの雑誌・ムック・書籍の編集に携わり、2006年に退社。同僚だった木村と共同で翌年に株式会社アルテスパブリッシングを創業し、現在に至る。

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