みんなのミシマガミュージック

第12回 アコースティック・ギター 人生で初めての「習い事」

2014.05.13更新

 こんにちは、アルテスパブリッシングの鈴木です。2カ月ぶりのミシマガミュージック、今月のテーマはアコースティック・ギターです。

 というのは、じつはこの4月から習い始めたんです、クラシック・ギターを。30年前に買ったガットギターを実家の押入れから引っ張りだして。しかも4歳の娘と一緒にペアで。
 娘はまだ、僕が聴いてる音楽は「大人のうた」で自分が歌ったり聴いたりするものじゃない、と思ってるようで、子ども向け以外の音楽にはとくに反応してくれないんですけど、そろそろ楽器を触らせたいなあと考えてました。
 ピアノは家に置く場所もないし、正直とくに好きな楽器じゃないし、ジャズやポップスも弾ける良い先生にあたらないとクラシック音楽しかわからない子になりそうだし、どうせなら僕がいちばん好きな楽器、ギターを弾いてくれたらなあと。
 同じ西洋の音階を奏でる楽器ですが、ギターなら世界中のほとんどの音楽に使われていますから、将来本格的に音楽をやりたくなったときにも応用範囲も広くていいじゃないか、と考えたわけです。

 そしたら奥さんがネットで見つけてきました、うちから通えるところに良さげな教室を。そのH先生は、アンドレス・セゴビアという大ギタリストの高弟に弟子入りしてスペインで修行してきたという方。お、だったらガチガチのクラシックじゃなくて、柔軟にいろんな音楽を教えてくれそう! じっさい会ってみると、ぼくとほぼ同世代で話が合うし、CD棚にはジョアン・ジルベルトをはじめボサノヴァやタンゴが並んでるじゃないですか。

 クラシック・ギター(柔らかいガット弦を使用。左足を踏み台に載せてネック側を高く構えます。じゃかじゃかコードを鳴らすフォーク・ギターはスチール弦)を覚えれば五線譜が読めるようになるし、和声の理解も進むだろうし、譜面が読めれば他の楽器に取り組むときにも覚えが早いだろうし、なによりいずれエレキ・ギターを弾けるかも! と、ドレミファもまともに押さえられないのに先走ってわくわくしちゃいました。

 ふたりで1回1時間のレッスンを3回終えたところで今何をやってるかというと、娘は「ドレミファソ」の5つを覚えて、「ちょうちょ」を少しずつ弾けるようになってきました。僕のほうはビートルズの中でもとりわけ好きな「オール・マイ・ラヴィング」のメロディーと間奏を伴奏なしの単音でさらっています(オリジナルから移調した譜面)。音程とリズムと左手の運指と右手と、ぜんぶ同時に神経を行き渡らせるのが難しくて、早いとこ楽譜を見なくても弾けるようにしたいんですが、なにしろ練習時間がとれません。それでも、覚悟していた以上に指が動くのが嬉しくて、人生で初めての「習い事」、楽しんでます。

 さて、自分の話が長くなりましたが、そんなわけで今月は、「いつかこの曲をこんな風に弾けるようになりたい!」と密かに目標にしている(高望みにもほどがありますが。笑)ギタリストを二人ご紹介します。

 ひとりは、昨年末に細野晴臣さんや坂本龍一さんとも共演していた伊藤ゴローさん。ボサノヴァを研究し尽くした繊細なタッチや和声と、ビートルズからの影響も見受けられる(実際カヴァーもしています)ポップ・センスがとても魅力です。この週末にNHKテレビ「SONGS」で原田知世さんを聴いていたら、伴奏していたのが伊藤ゴローさんでした。

ミシマガミュージック

『Bossa Nova Songbook 1』naomi & goro(commmons)

 ゴローさんは数多くのCDを発表していますが、僕が聴いた中では、naomiという女性シンガーとのデュオ・アルバム『Bossa Nova Songbook 1』『同 2』『passagem』、その二人にサックスの菊地成孔が加わった『calendula』、ソロでの『Cloud Happiness』『GLASHAUS』『POSTLUDIUM』などがお薦めです。

 Youtubeでギターを弾いている手元のよくわかる映像を探してみたところ、2枚目のソロ・アルバム『GLASHAUS』のタイトル曲がアップされていました。

 ひとつひとつの音がなんときれいに鳴っていることか! 腰に下げて弾くロックのエレキ・ギターとはちがって、ギターを高く構えるクラシックのスタイルもよくわかると思います。

 もう一人は、キケ・シネシ(Quique Sinesi)というアルゼンチンの首都ブエノスアイレス生まれのギタリストです。彼の演奏を生で初めて体験したのは、一昨年の5月にブラジル・アルゼンチン・日本のミュージシャンが集って開催された"Sense of Quiet"というライヴ・イヴェントでのこと。音色の見事な美しさ、正確な打弦と音程・リズム、端正なフォーム、柔和な表情、そして詩情ゆたかな曲の数々。CDで多少聴いてはいたものの、ライヴでそのとてつもない音楽性を思い知り、慌ててCDを買い漁りました。録音でも多くの名演、共演を体験できますが、きわめつけの名曲が「Danza sin fin」です。
 "Sense of Quiet"では、同じくアルゼンチン出身の素晴らしい音楽家カルロス・アギーレのピアノと演奏したのですが、まさにその時のステージの模様をYoutubeで観ることができます。

ミシマガミュージック

『ダンサ・シン・フィン』キケ・シネシ(BEANS RECORDS)

 聴くたびに深い感動と喜びがふつふつと湧いてくる、絶品としか言いようのない名演。豊かな音楽、本物の音楽とはこういう音楽のことをいうんだ、などと声を大きくしたくなります。こんな演奏ができたらどんなに幸せか・・・どうか心ゆくまで何度でも味わって下さい。

 この録音は『Live in sense of quiet』として日本でCDになっていますし、この曲のタイトルを冠したアルバム『ダンサ・シン・フィン』もお薦めですので、CDをお聴きになりたい方はぜひお買い求めを。

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鈴木茂(すずき・しげる)

同姓同名の名ギタリストとはもちろん別人です。吉田拓郎とビートルズで音楽にめざめ、中学生のときボブ・ディラン&ザ・バンドのライヴLPを聴いて、生まれて初めて音楽を聴いて鳥肌が立つという体験をする。人生でいちばん大切なミュージシャンはジョン・レノン。いちばん大事な曲はソウル・フラワー・ユニオンの「満月の夕」。とくに好きな楽器はギター(とくにエレクトリック)とドラムなどの太鼓類。高校から吹奏楽のパーカッションを始めたが、今はひたすら聴くだけ。1960年東京生まれ、吉祥寺在住。1984年、音楽之友社に入社。クラシック、ジャズ、ロック、ソウル、ボサノヴァ、アフリカ音楽、レゲエ、アイルランド音楽などなどの雑誌・ムック・書籍の編集に携わり、2006年に退社。同僚だった木村と共同で翌年に株式会社アルテスパブリッシングを創業し、現在に至る。

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