みんなのミシマガミュージック

第13回 濱口祐自さんのブルースとハワイの音楽

2014.07.08更新

 こんにちは、アルテスの鈴木です。先月は子どもが予定より早く生まれたためにお休みしちゃいました。4年半ぶりに赤子と暮らし始めてそろそろひと月になりますが、「2人目は楽だよ」とたくさんの経験者から聞いていたとおり、余裕綽々とはいかないまでも、すべてが初めてだった1人目とちがって、肩の力を抜いてつき合えるもんですね。ぎゃあぎゃあ泣いててもしばらくは放っておいたり(元気に泣いてるぞよしよし、ってなもんです)、写真を撮ることも減るしで、なるほどこうして2人目はたくましく育っていくのだなと実感してます。

『from KatsuUra』濱口祐自(日本コロムビア)

 さて、そんななかすっかり虜になって毎日のように聴いているギタリストのCDが、この6月に発売されたばかりの『濱口祐自 フロム カツウラ』です。

 〈はまぐち・ゆうじ〉という名前に聞き覚えがないのはごもっとも。来年で還暦を迎えるというのに、これが大手レコード会社からのデビュー・アルバムなんです。和歌山県の那智勝浦で生まれ育ち、音楽業界とはほとんど無縁の演奏生活を送ってきたそうで、たまたま彼の存在を知ったプロデューサーの久保田麻琴(まこと)さんがその音楽性と独特の存在感に惚れ込んでレコーディングを実現させたとのこと。

 古くは夕焼け楽団やサンディー&ザ・サンセッツなどのバンド活動でも知られる久保田さんがプロデュースしていて、FM番組のDJとして信頼しているピーター・バラカンさんも強力に推薦しているとあって、彼のことはしばらく前から気になっていました。"日本のディープ・サウスに潜んでいた野人のブルース魂"といった触れ込みといかつい風貌から、野卑で濃厚な音楽を勝手に想像していたのですが、いざ聴いてみたら、たしかにダイナミックなブルースもありますが、青空にスコーンと突き抜けるようなさわやかな詩情あふれる自作のメロディーを、繊細なピッキングで奏でる曲も多くてびっくり。

 まず軽快なラグタイムを聴いてもらいましょう。
♪Big City Farewell

(プロモーション用の映像)


(こちらはライヴ映像)

 こちらはアメリカのライ・クーダーの演奏で知ったというジョセフ・スペンスという人の曲のカバー。
♪Great Dream from Heaven

 いずれも彼の公式サイトからの映像ですが、いかがでしょうか? 風貌に似つかわしくない(失礼!)繊細な演奏ですよね。

 CDでは賛美歌の〈アメイジング・グレイス〉やアメリカのスタンダード・ナンバー〈テネシー・ワルツ〉、ブラジルからルイス・ボンファの〈黒いオルフェ(カーニバルの朝〉といった、広く知られた美しいメロディーも取り上げていて、どれも見事です。エリック・サティの〈グノシエンヌ〉なんていう意外な選曲も。

♪エリック・サティ〈グノシエンヌ〉

 こうした細やかな神経の行き届いた演奏もすばらしいのですが、彼の本領ともいうべきブルースの奏法と感覚を活かした演奏も、開放的でダイナミックな魅力にあふれています。

♪Blues From KatsuUra

 スライド奏法(指にボトルや金属の筒をはめて、指板の上をすべらせることで独特のうねりを出します)を披露しているこんな映像も。

♪Blues Slide

 濱口さんの演奏は濃厚すぎず軽すぎず、暗すぎず明るすぎず、でも人生を楽しんでる感じが伝わってきて、何度も繰り返し聴きたくなります。それにしてもこの潮の香りただようおおらかな開放感、なにかに似ているんだけどなあ......と思い当たったのが、ハワイのスラック・キー・ギターでした。

 「スラック slack」は「ゆるい」という意味で、文字通り何本かの弦をゆるめて音を下げたチューニングを使うことから名づけられたものですが、地球上にこれほど人をリラックスさせてくれる音楽があるだろうか、というぐらい天国的に気持ちいいんです、これが。

 日本の第一人者である山内"アラニ"雄喜さんや、ハワイを代表する名人ギャビー・パヒヌイの演奏をここでご紹介したいところなのですが、ウェブをどう探してもこれという映像を見つけることができません。検索しているうちに出くわした、mayukoさんという女性奏者による演奏がなかなか良かったので、代わりにご紹介しておきます。

♪星に願いを〜Seven Miles Beach

 クラシック・ギターの訓練を受けていることが分かる端正な演奏ですね。これを入り口にするのは違うかなあ、やっぱり^^;; ......と思ったらありました、僕がいちばん好きなタイプのスラック・キー・ギターの演奏が!

♪Sonny Chillingworth〈Hi'ilawe〉

 この演奏は『サニー・ソロ』というCDからのもので、幸い今も日本盤のCDが手に入るようです。

 ハワイの音楽もたいへん奥が深くて、きちんとご紹介するのは僕の手に余ります。深く知りたい方には、山内さんとサンディーの共著『ハワイ音楽パラダイス──虹のアロハ・スピリット 』(北沢図書出版)と、池澤夏樹『ハワイイ紀行』(新潮社)の2冊をお薦めしておきます。

 山内さんのアルバムではなんといっても『プレイズ・ザ・スラック・キー・ギター』が素晴らしいのですが、なんと廃盤になってしまったようで(こんな超名盤が!)アマゾンでは中古盤にずいぶんな値段がついてます。となるとお薦めは『ハワイアン・マスターピーセス』かな。これを聴きながら昼寝でもした日には、仕事も家事も育児もな〜んにもやる気がなくなっちゃいますので、覚悟を決めてから(笑)聴いてくださいね。

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鈴木茂(すずき・しげる)

同姓同名の名ギタリストとはもちろん別人です。吉田拓郎とビートルズで音楽にめざめ、中学生のときボブ・ディラン&ザ・バンドのライヴLPを聴いて、生まれて初めて音楽を聴いて鳥肌が立つという体験をする。人生でいちばん大切なミュージシャンはジョン・レノン。いちばん大事な曲はソウル・フラワー・ユニオンの「満月の夕」。とくに好きな楽器はギター(とくにエレクトリック)とドラムなどの太鼓類。高校から吹奏楽のパーカッションを始めたが、今はひたすら聴くだけ。1960年東京生まれ、吉祥寺在住。1984年、音楽之友社に入社。クラシック、ジャズ、ロック、ソウル、ボサノヴァ、アフリカ音楽、レゲエ、アイルランド音楽などなどの雑誌・ムック・書籍の編集に携わり、2006年に退社。同僚だった木村と共同で翌年に株式会社アルテスパブリッシングを創業し、現在に至る。

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