みんなのミシマガミュージック

第17回 2014年のベスト・アルバムと、ブラジルのピアニストたち

2015.01.21更新

 こんにちは、アルテスパブリッシングの鈴木です。
 去年は12月に1年を振り返ってお薦めのアルバムをご紹介しましたが、先月お休みしてしまったので、ひと月遅れで2014年の個人的なベスト・アルバムからご紹介しましょう。

 去年よく聴いたアルバムには、自分たちで世に出した松田美緒の『クレオール・ニッポン』は別格とすると、キリンジ『11』、ティグラン・ハマシアン『Shadow Theater』、ソウル・フラワー・ユニオン『アンダーグラウンド・レイルロード』(傑作!)、田中茉裕『I'm Here』、シカラムータ『結成20周年記念 LIVE at 磔磔』、サム・リー『ザ・フェイド・イン・タイム』、ベッカ・スティーヴンス・バンド『パーフェクト・アニマル』などがあります。

 そのなかでもピアノ音楽、それもブラジルのピアニストたちをとりわけ愛聴しました。
 2013年のベスト(第8回)の最後に名前だけ挙げたアントニオ・ロウレイロとアンドレ・メーマリの二人です。2013年からずっととにかくよく聴いています。

『IN TOKYO』アントニオ・ロウレイロ(NRT)

 アントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro)はサンパウロ生まれ、まだ20代の新鋭です。
 素晴らしかった2013年の来日公演のライヴ盤『IN TOKYO』を10月に発表してくれました。芳垣安洋(ドラムス)、鈴木正人(ベース)、佐藤芳明(アコーディオン)という日本の凄腕ミュージシャン3人との緊張感に満ちた共演を9曲聴くことができます。
 その録音はCDで聴いていただくほかありませんが、そこでも演奏されている曲のうち4曲をYoutubeで聴くことができます。

 まずはスタジオで撮影された「Lus da Terra」。2012年のセカンド・アルバム『so』の最後を飾る曲です。2分を過ぎたあたりの、サーッと雲が消えて晴れ晴れとした青空が広がるような展開がじつに爽快。

 映像を見れば分かるように、ドラムス、エレクトリック・ベース・ギター、アコースティック・ギター、エレクトリック・ピアノ、そして歌のすべてをロウレイロ自身がひとりで演奏しています。
 いったいなにをどうしたらこんなことが可能なのか、驚きあきれるばかりですが、そうなんです、ライヴ盤でこそピアノしか弾いていないものの、彼は多くの楽器をこなすマルチ奏者であり、作曲家であり、ヴォーカリストでもあるのです。
 ご本人はドラムが本職だと言っているそうで、たしかに彼のピアノの弾き方には打楽器に近いものを強く感じます。

 もう1曲、同じく『so』の4曲目「Lindeza」は、ウッドベース、ドラムスとの3人による演奏を見ることができます。

 なにやらイントロがこむずかしげですが、1分もしないうちに美しいメロディーが始まりますのでご安心を。
 本人が一人で作り出すノリとグルーヴ感がとてもよく似ていますよね。

『Tokyo Solo』アンドレ・メマーリ(SPACE SHOWER MUSIC)

 ロウレイロが活動をスタートさせたブラジル南東部のミナスジェライス州は、リオやサンパウロなどとは異なる独自の音楽文化を持つ土地で、近年ブラジル音楽の新しい潮流を作り出している土地として注目されています。
 アンドレ・メマーリ(André Mehmari)もミナスの音楽家たちと縁の深いピアニストで、リオデジャネイロ生まれの37歳。ロウレイロと同じく東京でのライヴ盤『Tokyo Solo』を発表しました。タイトル通り、ピアノ・ソロ・リサイタルの模様を収めたアルバムです。

 この東京でのライヴに行けなかったのは痛恨の極みなのですが、ネットには山形で撮影された映像が90分もアップされていました。

 でも残念ながら音質が良くないし、ピアノを弾く手元が見えないという致命的な欠点があるので、これは熱心なファン向けですね。

 メーマリはなにしろ多作な人で、年に何枚もCDが発表されるので、買うのも聴くのも追いつきません。当然Youtubeにも数多くの映像がアップされていて、どれをお薦めしたものか、決めるのにずいぶん時間がかかりました。
 まずは、第12回でご紹介したキケ・シネシもフィーチャーされている"sense of quiet"チャンネルから「Nzareth Suite」をお聴きいただきましょう。
 音質も上々、ときどき手元がアップで写ったりもするので、クラシックの超一流ピアニストにも比肩するずば抜けた技量を堪能できます(曲調もロマン派のソナタみたい?)。

 打って変わって、日本の唱歌「ふるさと」と滝廉太郎「荒城の月」のメドレーを含む演奏なんていうのもあります。

 彼の魅力は巨匠のような輝かしい音色に加えて、なんといってもあふれ出る詩情豊かなメロディーにあります。CDの6曲目「Que Falta Faz Tua Ternura」。
 7曲目の「Choro da Continua Amizade」が続けて演奏される映像で、静謐な情感を味わうことができます。いずれも彼自身が作った曲です。

 そして、メマーリの曲のなかで今のところぼくが最も気に入っているのが「Veredas」。
 心が軽やかに沸き立ってくるようなメロディーとグルーヴで聴くたびにワクワクさせてくれます。Youtubeでは断片的な映像しか見つけられなかったのですが、そのうちのひとつはブラジル音楽家の大スター、イヴァン・リンスが参加したもので、一見の価値はあります。

 CDでは『Afetuoso』(http://amzn.to/1EdYE7B)や『... de arvores e valsas』に入ってますので、タワーレコードなどの大きなお店やネットをぜひ探してみて下さい。

 ブラジルのピアニストといえば、とんでもない怪物がいます。
 ロウレイロもメマーリも絶大な影響を受けているはずの巨人、エグベルト・ジスモンチです。ギタリストとしても凄いプレイヤーなんですが、彼が2008年に日本のオーケストラと共演した代表曲「フレヴォ」を聴きながら今月はおしまいにしましょう(残念ながらこの演奏は発売されていません)。

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鈴木茂(すずき・しげる)

同姓同名の名ギタリストとはもちろん別人です。吉田拓郎とビートルズで音楽にめざめ、中学生のときボブ・ディラン&ザ・バンドのライヴLPを聴いて、生まれて初めて音楽を聴いて鳥肌が立つという体験をする。人生でいちばん大切なミュージシャンはジョン・レノン。いちばん大事な曲はソウル・フラワー・ユニオンの「満月の夕」。とくに好きな楽器はギター(とくにエレクトリック)とドラムなどの太鼓類。高校から吹奏楽のパーカッションを始めたが、今はひたすら聴くだけ。1960年東京生まれ、吉祥寺在住。1984年、音楽之友社に入社。クラシック、ジャズ、ロック、ソウル、ボサノヴァ、アフリカ音楽、レゲエ、アイルランド音楽などなどの雑誌・ムック・書籍の編集に携わり、2006年に退社。同僚だった木村と共同で翌年に株式会社アルテスパブリッシングを創業し、現在に至る。

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